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ベッキー不倫騒動:人々が許さなかった理由、許した理由:「嫌悪感」と謝罪の心理学

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ:「ごめんなさい」をする子ども)(写真:アフロ)

■ベッキー不倫騒動:バッシングと復帰

大騒ぎになっていたベッキー不倫騒動も、ようやく幕引きがされようとしてます。

ベッキー「金スマ」で涙の謝罪に街の声」では、復帰はまだ早いとの意見も見られますが、不倫を認めて謝罪したからもう良いという意見も見られます。

*ベッキー不倫騒動:2016年1月、交際していたゲスの極み乙女の川谷絵音が既婚者であり、不倫だと「週刊文春」にスクープされ、記者会見で「ただの友達」である説明をしたことで世間の反感が大きくなる。CMは打ちり、番組出演も休止した。その後テレビ出演を再開したが、本格的な仕事復帰はこれからか。

■ベッキーの不倫を人々はなぜ許せなかったか

男女、結婚、不倫に関する意識

恋愛、結婚、性の問題に関して、社会の意識は大きく変わってきました。たとえば、結婚前の性的関係(婚前交渉)についての意識調査では、1973年には、64パーセントの女性と50パーセントの男性が、どんな場合でもだめだと考えていました。愛があれば良いという人も、女性の16パーセント、男性の23パーセントでした(全年齢に対するNHKの調査)。

この時代なら、芸能人の婚前旅行や結婚前の妊娠は、大きなスキャンダルでした。

しかし2013年になると、どんな場合でもだめと回答した女性は23パーセント、男性は17パーセントに下がり、愛があれば良いという女性は44パーセント、男性は49パーセントに増加しました(現代でも高齢者は婚前交渉に否定的です)。

現在では、芸能人の結婚前の旅行も、妊娠も、スキャンダルになりません。

結婚に対する意識も変化してきました。未婚者の半数は、結婚しなくても良いと考えているという調査もあります。結婚は当然すべきであるという社会からのプレッシャーは、減っています。

ただし、結婚への希望がなくなっているわけではありません。結婚したくないと考えているのは、未婚者の10パーセント程度です。つまり、一般論としては結婚しなくても良いと考える人は多くても、チャンスがあれば結婚してみたいと考えている人は多いのでしょう。

今でも、ドラマや映画の世界で主人公たちが恋をし結婚するストーリーは、やはり王道でしょう。

また、若い世代ほど結婚の理想の形は夫婦で協力し合う家庭だと考えられるようになってきています。

現代の中高年も若者も、結婚にはまだ夢や理想を持ち、その関係を破壊する不倫には、厳しい目が注がれています。学生に対する調査でも、不倫については否定的です。

不倫に対する「嫌悪感」

赤の他人が誰と恋をしようが、個人にはあまり関係のない話です。しかし、世間がこれだけバッシングしたのは、ベッキーの行為に「嫌悪感」を感じたからでしょう。

嫌悪感は、物理的心理的に害のあるものに対して持つ感情です。腐った食べ物を見ると、私たちは嫌悪感をもちます。そのおかげで、人は腐ったものを食べて病気にならずにすんでいます。

動物の死体にも嫌悪感を持つでしょう。これは、不衛生であると同時に、自分自身の死をイメージさせることによる嫌悪感でしょう。

人は、不道徳なことにも嫌悪感を抱きます。行列に割り込む人や、悪口を言いふらす人に、人は嫌悪感をもちます。これは、彼らが社会の道徳や秩序を乱すからです。こんな人が増えて、世の中が弱肉強食の世界になってしまっては困ります。だから、人はこんな人に嫌悪感を持つのです。

不倫行為も、同じなのでしょう。性や結婚に関して自由になってきているとはいえ、若い世代でも、結婚には夢を持ち、不倫は裏切り行為であり許せないと多くの人が感じています。だから、不倫を行うのは、社会秩序を壊す人として嫌悪感を持つのです。

特に罪悪感を持たずに、不倫などの社会的ルールを破る人は、社会の破壊者であると感じ、嫌悪感を持たれることになります。

ベッキーのイメージ

好感度抜群のベッキーでしたが、そのいかにも優等生的な人気者ぶりを嫌っている人もいたでしょう。前から気に食わなかった人の不祥事ですから、ここぞとばかりに攻撃した人もいるでしょう。

ベッキーの熱烈なファンは、何があってもベッキーのことが好きでしょうが、好感を持っていた程度の人たちは、裏切られたと感じたことでしょう。明るく健康的なベッキーのイメージと、不倫の事実とは大きくかけ離れています。そこで、強い嫌悪感が生まれ、バッシングが広がっていったのでしょう。

不倫行動と最初の記者会見と嘘と罪悪感

「不倫も貫けば純愛」という面はあります。芸能界で、おしどり夫婦と言われる二人が、もともとは略奪婚であることもあります。最近のテレビドラマでも、不倫を扱ったものが多くあります。不倫した人が懲らしめられて終わりではなく、不倫が純愛になっていくストーリーも見られます。

ところが、ベッキーは「ただの友達」と不倫相手との関係を否定しました。そのまま嘘がつき続けられれば良かったのかもしれませんが、LINEの会話が明るみに出て、すぐに嘘がバレます。二人の関係は、熱々ではありましたが、離婚届を卒論に例えるなど、軽い感じさえしました。反省の様子、罪悪感に苦しんでいる様子も感じられませんでした。

これでは、「純愛」になりません。また、人は嘘に対して嫌悪感をもち、特に明るく正直なイメージのベッキーの嘘に、世間は大きく反応したのでしょう。

ベッキーは、実は罪悪感を持っていたかもしれません。しかし罪悪感があっても、それを認め謝罪したら身の破滅だと感じると、事実を認めて謝罪することがかえってできなくなるのです(人はなぜ素直に謝れないのか:効果的に謝る方法と、謝っても傷つかないで済む方法:Yahoo!ニュース個人 有料:碓井)。

■謝罪の心理

ベッキーの最初の会見は謝罪会見になっていませんでした。しかしその後の謝罪は、世間の怒りを鎮め許しを得るのに効果的でした。

許してもらえる謝罪には、次の事柄が必要です。

  • 関与:私がやりました。
  • 行為の不当性:私は悪い事(失敗)をしまた。
  • 責任:他の人のせいではなく、私の責任です。
  • 悔恨:本当に反省しています(罪悪感を感じています)。
  • 労り:ご迷惑をかけた方(被害者)には、誠に申し訳ありませんでした。
  • 改善の誓い:二度と致しません(企業や組織であれば具体的改善策)。
  • 許しをこう:どうか許してください。

■人々はなぜベッキーを許そうとするのか

ベッキーは、不倫関係をすべて認め、深い罪悪感を素直に表現し、涙の謝罪を行いました。

ベッキーは、許してもらえる謝罪に必要なことを行いました。

その結果、ベッキー大バッシングの嵐は、そろそろ収まろうとしているようです。完全復帰には時間がかかるでしょうが、世間の雰囲気はだいぶ変わってきたようです。

<ベッキーの姿勢にネットは評価の声、会見の嘘を認め全て話すMusicVoice 5月13日>

ゲスの極み乙女の川谷絵音さんと離婚した元妻も、ベッキーから個人的な謝罪を受け、ベッキーは「涙を流しながら真摯に謝罪した」と語り、「これから私も頑張りますので、ベッキーさんも頑張ってくださいね」と声をかけたと伝えられています。

世間の人々から見れば、もともと実害を受けていたわけではないので、ベッキーが不倫に関するすべてを認め、社会的に大きな制裁を受け、そして世間と被害者に向けて謝罪と真摯な反省を行うことで、嫌悪感は和らいだのでしょう。

ベッキーは、もう社会の道徳や秩序を乱す存在ではないと感じられているのでしょう。

以前から報道されていたことですが、最初に二人が出会った時には、男性は結婚していることを秘密にしていました。そして交際が始まります。ベッキーへの嫌悪感が和らげば、今度はむしろベッキーへの同情と共感を語る人も出てきています。

それでも、以前のように天真爛漫なキャラクターには戻れないという人もいます。もうベッキーのことが好きではないと言う人もいるでしょう。

その一方、以前は優等生的なベッキーが鼻について嫌だったという人の中には、ベッキーも私たちと同じ弱さを持つ人間だとわかり好きになったと語る人もいます。

人気商売は難しいものですが、新しいベッキーの活躍を期待したいと思います。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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