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ストーカー犯罪の防止法:SNSがアイドルも一般の人をも危険にさらす

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ:みんなの力で再発を防ごう)(写真:アフロ)

SNSは人間関係の距離感を狂わせる!? では、どうすることが、効果的な防止法だろうか。

■ストーカー犯罪とは

ストーカー問題の背景には、現代人か抱える人間関係の問題があります。ストーカー犯罪は、これまでの利益目的の犯罪や、乱暴者の犯罪常習者による犯罪とは、異なります。

今まで犯罪や暴力とは無縁だった人が、何の利益にもならないストーカー犯罪を起こしてしまうこともあります。ストーカー犯罪は、人間関係の距離感の感覚が破綻した、とても心理的な犯罪です。

そこには、現代人の人間関係能力の低下と、インターネット、SNSの普及があるでしょう。

■アイドルとストーカー

かつてアイドル活動をしていた女子学生、今はシンガーソングライターなど芸能活動をしている女子学生が、ファンの男性からストーカー行為を受け、大きな被害を受けたと報道されています。

当初この事件は、「アイドル女性ストカー殺傷事件」などと呼ばれましたが、事件発生時はアイドルを活動をやめ、事務所にも所属していなかったために、次第にメディアの捉え方も変わってきました。

ただやはり「ファンの男性」による犯行だとすれば、アイドル、芸能人と犯罪被害の問題も、考えなくてはいけないことでしょう。そしてそれは、芸能人以外のストーカー問題にもつながるテーマを含んでいます。

■芸能人とファン、憧れの人

芸能人、有名人に対するストーカーは、「スター・ストーカー」と呼ばれ、以前から話題になっていました。ジョン・レノンも、マドンナも、美空ひばりも、熱心なファンから被害を受けました。

スター・ストーカーの中には、その有名人と自分が個人的関係があるという病的な妄想を持つ人もいます。そうではなくても、スターとの個人的関係を持ちたい思いが、彼らの行為の底にあるでしょう。

昔の芸能人は、雲の上の存在でしたが、現在の芸能人は庶民的で身近にいるかのような「演出」をします。そのために、自分と相手との妄想的な思い込みを持ちやすくなっています。

今回の事件の容疑者は、「結婚したかった」と語っています。

さらに、以前なら「雲の上の存在」の存在であった職場や近隣のマドンナ的な人も、ツイッターなどSNSによって身近な人になってしまいます。

ストーカー加害者は、自分の考えや行動こそが正しいと信じています。友人でもない人との結婚といったありえないことも、妄想的に信じてしまうこともあります。

そして、自分の愛を相手が受け入れてくれることが当然だと感じ、相手には、その義務があるなどとも思います。

■SNSとストーカー行為

インターネットやSNSが登場する前から、ストーカーはいました。しかし、インターネット、SNSが、ストーカー問題を悪化させています。

ツイッターやフェイスブックなどを、日記のように使う人々がいます。ブライベートなことも書きます。もちろん、発信している人は、友人相手に語っていたり、不特定多数に語っているのですが、ストーカーは自分に語っているような気がしてしまう時があります。

インターネットは、世界に開かれた場なのに、とてもプライベートな場のような気がするメディアなのです。発信する人が誤解すると、警戒心が薄くなってプライバシー情報を流してしまいます。読む側が誤解すると、自分個人に心開いてくれているように感じてしまいます。

さらにインターネット・コミュニケーションには、感情が一気に燃え上がりやすいという特徴があります。相手への恋心も、相手からブロックされるなど拒絶された時の怒りも、一気に燃え上がりやすいのです。

このようなネット・コミュニケーションの特徴を理解しないままネットを利用するのは、交通安全教育を受けないまま自動車の運転をするようなものです。それでは、事故も起こるでしょう。

■ストーカーに対する法律、警察の対応

かつては、つきまとうだけでは犯罪になりませんでした。それが、2000年にストーカー規制法ができて、ストーカーを法的に扱えるようになりました。さらに法律改正によって、最初は入っていなかった電子メールによるつきまとい行動もストーカー行為に含まれるようになりました。

ところが、今度はSNSです。おそらく、次はSNSもストーカー行為に含まれるでしょう。ただ、SNSでのどの程度の発言をストーカー行為とするのかは、とても難しいと思います。

何百回もの投稿がなくても、殺すとか結婚しろといった発言がなくても、相手に強い不快感や恐怖心を引き起こすことができるからです。時計をプレゼントし、「時計を送る意味をわかっていますよね」とツイートされるだけで、十分に気味が悪いと感じるでしょう。

ストーカーによる凶悪事件が起きると、警察がもっと積極的に対応すべきだったと批判されます。ただ、どのケースが凶悪化するかの判断は、簡単ではありません。警察も、危険度を測定するチェックリストなども作ってはいますが、十分ではありません。

それでも、警察も以前に比べれば、ずっと積極的にストーカー犯罪に取り組んでいます。警察も活用しましょう。

警察に寄せられるストーカー相談は、年間2万件です。そして、ストーカーの9割近くは、警察からの注意や警告でストーカー行為をやめます。問題は、残りの1割で、この人たちは時にして凶行に至ることもあります。

警察は、ストーカーの専門本部を設置し対策を進めています。しかし、警察だけでは解決できない問題もあるでしょう。

■警察の良いところと悪いところ

多くのストーカーは、しっかり注意されれば、目が覚めます。女性へのストーカーなら、「お父さん」が登場することで、解決することもあります。

同じように、警察官が登場し、注意したり正式な警告をすれば、多くの人はそれ以上のことをしないのです。警察は頼りになります。しかし、法律に基づき強制力を持った警察の登場は、相手を追い詰めてしまう場合もあります。少なくとも、段階を経ないとならないでしょう。

ストーカー加害者は、加害者なのですが、拒絶されたり警察が出てきたりすると、被害者意識を持つ人もいます。この被害意識が強くなりすぎると、相手のへの攻撃心となることがあるのです。

また警察だけでは手が足りない部分もあるでしょう。

■警察以外にも相談を

2014年からスタートした「ストーカー研究対策会議」は、「ストーカー無料相談窓口」の設置を国に提言しています。ストーカー問題は、こじれる前に、早めに気軽に相談できる場所が必要です。

警察のような強制力は持たなくても、むしろソフトな対応が効果を上げることもあるでしょう。

ストーカー対策では、加害者側へのアプローチの重要性も指摘されています。相談窓口はただ相談に乗るだけではなく、被害者と加害者の間に入り、加害者にアプロートすることもできるでしょう。

加害者をただ叱りつけるだけではなく、加害者の気持ちを聞くことで、結果的に被害が防げることもあるでしょう。

■現在の相談窓口:みんなの力で再発を防ごう

  • 警察のストーカー相談窓口
  • 女性センター
  • 男女共同参画センター
  • 配偶者暴力支援センター
  • 法テラス(無料法律相談)
  • その他民間機関

警察は事件が起きてしまうたびに批判されますが、さまざまな相談に乗ってくれます。防犯カメラの無料貸し出しなども行っています。

また、ストーカー問題に限らず、女性のさまざまな問題の相談に乗ってくれるところもあります。

弁護士の相談も、ただの相談だけではなく、相手への「通知」を行ってくれることもあります。ただの通知とはいえ、弁護士から来ればそれなりのインパクトはあります。

「ストーカーは何を考えているか (新潮新書)」の著者小早川明子さんは、多くの相談に乗り、被害者を支援しつつ加害者と話し合い、加害者の気持ちをくみ取り納得させることで、問題を解決しています。このように、カウンセリング機関でも対応してくれるところがあります。

生徒学生なら、先生に相談してみましょう。先生だけで解決ができなくても、ヒントや手助けになることはできるでしょう。

私も、教員として学生に付き添って警察に相談に行ったことがあります。

一人だけで悩み、心の余裕を失うと、不適切な行動を取ってしまうこともあります。ただ悩んでいるだけで時間がたつと、解決が難しくなることもあります。

被害者が早めに相談できるように、周囲が支援しましょう。ストーカー対策は、まだまだ不十分なところがありますけれども、日々進歩している部分もあります。賢く活用しましょう。

警察力も必要ですが、被害者、加害者双方への心理的支援が、凶悪犯罪の未然防止につながるでしょう。

ストーカー対策の基本・加害者の心理:被害者、加害者にならないために

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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