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『君の名は。』は大人にもオススメ。:思い出と出会いの心理学

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

『君の名は。』 若者だけに見せておくのは、もったいない!

(予告編以上のネタバレなし)

■『君の名は。』

光の魔術師、新海誠監督の新作アニメ映画『君の名は。』。映画のCMは、いつでも「絶賛上映中」ですが、これは本当に「絶賛」。異例の大ヒットで、公開3日間の興行収入が12億円超え。観客が詰めかけています。

ただ、観客席の多くは若い人たちです。でも、実は大人が観ると大人しか感じられない深味を味わえます。

本当に美しい映像です。都会の姿も。懐かしい日本の原風景も。

予告編からわかるのは、男女が入れ替わること。というと、大林宣彦監督の名作映画「転校生」を始めいろいろ思い出されます。でも、この映画は入れ替わって、男女がお互いを知るというテーマをさらに超えていきます。

予告編からわかるのは、二人が喧嘩しながら、惹かれあっていくこと。それから、物語は二人の恋愛に終わらず、「このままではみんな死ぬ」という大事件が起こりそうなこと。そして、美しくも不気味な星が降ってくる風景。昔の巨大なクレーターにも見える風景も映し出されます。

二人は、互いに大事な人になったはずなのに、何かが起こり、すれ違い、「君のは!」と叫ぶ二人。

物語は、予想を超えた展開をしていくので、これ以上は話せません。けれども、映画を観終わった後に大人ならきっと感じることを、この映画のテーマとしてお話ししたいと思います。

■若い頃の経験と思い出「君の名は」

大人になってしまえば、3年、5年、10年は、あっという間に過ぎ去っていきます。でも、考えてみれば、高校の3年間、たった3年間ですが、どれほど多くの経験をしてきたでしょうか。たくさんのキラキラする思い出があります。

とはいえ、記憶は次々と消えていきます。良い思い出がたくさんあるとは言っても、それはとても断片的です。毎日の高校生活の中で、泣いたり笑ったり、怒ったり、感動したり、数え切れない経験があったはずです。けれども、そのほとんどは忘れ去られます。

新海 誠Walker ウォーカームック 角川マガジンズ
新海 誠Walker ウォーカームック 角川マガジンズ

大切な青春の1ページなのですが、その日々の日常は記憶の彼方に消えていきます。私達が覚えていることは、ほんの断片で、本当はもっともっと豊かな経験をしているはずなのに。青春が、こんなに早く過ぎ去ると知っていたなら、もっと思い出を大事にしたかったのに。

一つも忘れたくなかったのに。でも、人は忘れます。ちょっと喧嘩した人。ちょっとドキドキした人。「君の名は?」。名前すら徐々に忘れていきます。その出来事自体も忘れてしまいます。まるで、夢だったかのように。

■出会い「君の名は」

様々なドラマでは、偶然のすばらしい出会いがあります。すれ違いがありますが、ハラハラさせた後、劇的な再会があります。では、現実は? なかなかそんなドラマチックなことは起きないかもしれません。

けれども、私たちそれぞれが、現実世界で、やっぱり「出会い」を経験しています。高校生の時の記憶はすっかり薄れていても、あの毎日の生活は、現実に起きたことです。

私たちは、10代の頃、確かに熱い青春を経験してきました。たとえ意識からは消えていても、その経験は今の私たちに確かな影響を与えています。

ケンカしたり、恋をしたり、部活で頑張ったり。その経験が、今の私を作っています。そして、もう一度あのドキドキするようなチャレンジや、恋や豊かな経験を、求めているのです。

新海誠監督作品 君の名は。 公式ビジュアルガイド 角川書店
新海誠監督作品 君の名は。 公式ビジュアルガイド 角川書店

大人になってからの恋愛も、職業の選択も、趣味も、青春時代の経験が影響しています。

さらに大人になった今は、文化祭や部活を超えて、現実の問題を解決しようとしています。様々な職業の人がいて、子どもを育てる人がいて、私たちがみんな働き続けなければ、みんな死んでしまいます。

映画のように劇的ではなくても、私たちは現実の世界で、過去からの影響を受け、未来に向けて、生きています。映画のように派手なことは起きなくても、私たちはみんな、映画『君の名は。』の主人公たちと同じ経験をしてきんだ。映画『君の名は。』を観終わって、私はこんなことを考えました。

すいません。映画のあらすじを話さないとわかりにくいですよね。ぜひ、大人の人たちにも観てもらいたい映画です。映画を観終わって、一緒に語り合いたいものです。

私たちは、あの時からずっと、誰かを、何かを探し続けているのでしょう。「君の名は」と。

映画「君の名は。」公式サイト

「誰もが経験したことのない、アニメーションの新領域」。「新たな“不朽の名作"が、この夏、誕生する!」

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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