フェイスブックはほんとうに宣伝効果があるのか

歌田明弘 | 大正大学表現学部特命教授

フェイスブックは、マーケティング担当者たちからの期待を集めているが、

効果があるのか具体的に示せという声が高まり、要望に答えるデータを出した。

宣伝効果を問う広告主たち

ニューヨークタイムズの8月20日の記事によれば、フェイスブック本社には「間違うとしたら何か」という赤白のポスターが貼られているという。

下に小さな字で「すべて」と書かれているそうだ。できすぎの話のようだが、フェイスブックにはビジネス展開上まだまだ超えなければならないハードルがある。

フェイスブックの広告は、グーグルの検索連動広告のような販促的な広告というよりも、企業や製品に親近感を持ってもらい、イメージを高めるブランド広告的な方向を重視している。こうしたブランド広告は、テレビや新聞・雑誌などの従来メディアの広告が担ってきたが、広告効果がわかりにくいという企業側の不満があった。同じような不満をフェイスブックの広告主も持っている。

下のレポート「『いいね!』の力」によれば、もっとも知りたいことは何かと販売戦略担当者に尋ねたところ、過去3年間のトップは「ソーシャルメディアの販売への影響をどのように測るのか」だという。

従来メディアの広告では、広告を出せば広告主の仕事はとりあえず終わったのに対し、フェイスブックでは、消費者との対話を続けなければ十分な効果を発揮しない。

ソーシャルメディアは手間ひまがかかるという問題は、メディアもすでに感じてきたことだ。

これからのメディアは、ソーシャルメディアを駆使しなければならないという原理・原則に反対するメディア関係者はもはやいないだろう。しかし、それを実践するとなるとたいへんだ。ネットで情報発信をしなければならなくなって仕事が激増し、もはや限界という業界人も多い。

アメリカでネットに重点を置いているメディアのなかでは、従来メディアのかたわらネットをやるなとどいうのは無理で、専属のスタッフを置くべきということがしだいに常識になっているようだ。

メディアの場合は情報発信が仕事だから、儲かろうと儲かるまいとしなければならないといったところがあるが、情報発信が仕事というわけではない企業は、「ちょっと待てよ、ほんとうに効果があるのか」ということになる。たとえ効果があったとしても、中小企業の場合は人員をさけない。安い価格で簡単に広告を出せるということで、中小企業の広告を集めたグーグルとは違うのだ。

ソーシャルメディアにどれぐらい力を注げばいいのか教えてほしいというのも販売戦略担当者の悩みのタネのようだ。先のレポートで答えを知りたい問いのトップ5になっていた。前年は10番目だったが、この悩みは上昇したそうだ。「グーグル・プラス」など新手のソーシャルメディアが出てきたこともあって悩みは深まっている。

ソーシャルメディアは重要と思うものの‥‥

下段のレポートによれば、販売戦略担当者の94パーセントはソーシャルメディアを仕事で使っていて、83パーセントの人は重要だと思っている。とはいえ前年は90パーセントが重要と答えていたので減少傾向だ。「強くそう思う」と答えた人も、前年の62パーセントから50パーセントに減っている。ソーシャルメディアの販売戦略上の重要性に対する疑いが募っている。

ソーシャルメディアにはどのようなメリットがあると思うかを尋ねたところ、トップは広告接触率が高まるという答えで、85パーセントの人がそう答えている。アクセスが増えるとか市場がわかるといった答えが続き、並んでいるなかで販売戦略担当者の回答がもっとも少なかったのは「売り上げが増える」。40パーセントしかいない。

今後もっとも利用を増やそうと思っているソーシャルメディアはやはりフェイスブックで、72パーセントの人がそう答えているものの、フェイスブックは、どれぐらい売り上げ増につながるのかを具体的に示す必要に迫られている。

具体的効果があるというものの‥‥

そうした声があるのを踏まえて、フェイスブックは調査データを示し始めた。ネット視聴率会社のコムスコアの協力を得て、「『いいね!』の力」と題したレポートを出した。今年のレポートは2回目で、フェイスブックが実際に売り上げ増に貢献するかを調べている。

「いいね!」のクリックがどれぐらいあったかといったわかりやすい指標を過大視しがちだと、このレポートはまず、ソーシャルなマーケティングのプロセスを説明している。

  1. ファンへの情報伝達【リーチ】。フェイスブック・ページにアクセスしたり「いいね!」ボタンをクリックした「ファン」(以下、ただファンと表記)のニュースフィードにメッセージを送る。ただし、ファンすべてに表示されるわけではなくて、フェイスブックのアルゴリズムにしたがって、リアクションをしたなど関心の強い人に表示される。
  2. 積極的関与【エンゲージメント】。ニュースフィードの情報にファンが反応する。反応するのはファンの1パーセントしかいないという調査もあるが、これは、通常のネット広告のクリック率の10倍であり、拡散の効果も無視しているとこのレポートは反論している。
  3. 拡散【アンプリフィケーション】。ニュースフィードの情報が友だちのあいだに広まっていく。このプロセスがもっとも重要であると同時によく理解されていないとレポートは不満を漏らしている。広告を出す企業の知名度などによっても変わるが、トップ100の企業の場合、ファン層に提示した情報はだいたい倍の人に伝わるのだそうだ。拡散の度合いは、店がセールスをしているなどのイベントがあるとより効果的になるというデータも示している。

ファンやその友だちは平均よりもたくさん買っているが、ファンやその友だちはもともとたくさん買う層かもしれない。ということで、このレポートでは、フェイスブックで情報に接触したグループとそうでないグループの比較実験をやっている。

スターバックでの購買行動は、情報に接したグループはそうでないグループに比べて38パーセント増え、大手ディスカウント・ストアのターゲットでの購買も、ファンが19パーセント増、ファンの友だちが27パーセント増という調査結果だったという。

有償の広告についても実験をし、オンラインでの購買行動は56パーセント増、実際の店舗では16パーセント増で、フェイスブックの広告は購買確率を上げていて、売り上げ増に貢献していると結論づけている。

ただ、このレポートを見た広告主たちは、これらの調査ではそういうことが言えたとしても、自分のところの場合はどうなんだと思うだろう。会社の規模や商品によっても話は変わる。安いものは売れたとしても、じゃあクルマはどうなんだということになったりもする。

ソーシャルメディアは宣伝効果がありそうではあるが、第三者による客観的なデータを示せ。フェイスブックに対する広告主の要望はそんな段階になってきたようだ。

afterword

アグレッシブな広告、とくに個人情報を利用すればするほど効果的な広告になっていくし、利用者に関心のある情報も提供できる。しかし、そうやってパーソナライズされた情報が提供されるようになっていった先にはどのようなことが起こるのだろうか。

関連サイト

●8月20日のニューヨークタイムズの記事「フェイスブックの野望は手荒なマーケットと衝突している(Facebook's Ambition Collides With Harsh Market)」

●3813人の販売戦略担当者の回答を得て作成された「ソーシャルメディア・マーケティング・インダストリー・レポート」

●フェイスブックがコムスコアの協力を得て作成した「『いいね!』の力」と題した第2回レポート。登録が必要。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.744)

歌田明弘

大正大学表現学部特命教授

1997年に開始した「週刊アスキー」の連載「仮想報道」の原稿を、編集部の了解を得てネットで公開し始めたのがブログ開設のきっかけです。ネットの情報が多いので、少しでもネットにお返しできればということで始めました。このブログも、さしあたり既発表の原稿のなかから公開します。「週刊アスキー」はじめ各編集部との話し合いにもとづき、ネットでの公開は、実際に書いたときからかなりあとのものがほとんどです。

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