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安倍内閣の“今のうち解散”は小選挙区制の弊害そのものである

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)

11月21日の衆院解散の日程がほぼ決まってきました。選挙制度の話を選挙後に書くと「負け惜しみだ」と言われがちなので、選挙前に思うところを述べたいと思います。

そもそも、このタイミングでの解散について世論調査では消極意見の方が強いようです。世論の過半数が消極的というのは、一般的には与党内部でもかなり消極意見があるということだと思います。実際、自民党岐阜県連が「解散は党利党略」などとして解散に反対したり、解散に反対する与党の重鎮が公認外しされそうになるなど異常な事態になっています。

「自民岐阜県連、解散に反対 決議採択」(読売新聞2014年11月16日)

 「官邸「野田氏を非公認に」 首相批判発言で自民執行部に促す」(産経新聞2014年11月18日)

このタイミングで解散できるのは小選挙区制のおかげ

解散に政治的な大義が見いだせないことは世論を見ても自民党の内部を見ても上記の通りですが、さらに、報道によると自民党が議席を若干減らすことも想定されるようです。自民党の幹部からもそのような発言が聞かれます。それにも関わらず安倍首相が解散に踏み切れるのは「多少減らすかもしれないけど大きく減らすことはない」ことがほぼ確実だからです。

なぜそう言えるのか。それは現在の衆院選は295の小選挙区の結果で全体の結果がほぼ決まる仕組みになっているからです。小選挙区制は母国であるイギリスでは「First Past The Post」と言われ、競馬のゴールにあるポストを3馬身差であれ、ハナ差であれ、一位で通過したした人が当選する制度として認識されています。日本の今日現在の政治状況では、多くの小選挙区で自民党の候補が一位通過することはかなりの確度で予測が付きます。投票箱の蓋を開けるどころか、閉める前から結果の予測がかなり付いてしまうのです。

国民世論の中でそんなに圧倒的な力の差はない

前回の2012年の総選挙について、全国的に候補者を擁立している自民、民主、共産の3党の小選挙区の総得票を比べると、自民2564万3309票(237議席)、民主1359万8773票(27議席)、共産470万0289票(0議席)です(出典はウィキペディア)。自民党の圧勝と言われた選挙ですがボロ負けした民主党は自民党の半分以上は得票しているんですよね。0議席の共産党ですら自民党の5分の1弱の得票を得ています。皆さん、この2年間の政党の力関係をこういう国民に根を張った度合いでご覧になられたことはありますか?

これは民主党が地滑り的に勝利した2009年の総選挙についても言えることで、民主党3347万5334票(221議席)に対して自民党は2730万1982票(64議席)も得ていて、マスコミで言われた「地すべり」とは大分違った様相が分かります。

結局、小選挙区制は、実際の社会での政党の力関係(これは結局その政党がどれだけ国民に根を張っているかということです)を無視し、わずかな票差に着目して、勝者に強大な力を与える制度なのです。その結果生まれるのが上記のように敗北が確実な政権が追い詰められた末にジェットコースターのように起こる政権交代であり、一方で、今回のように国民多数が解散自体に消極的で、任期が半分以上残り、政治的な大義が「?」でも、政権中枢が都合のいいタイミングで選挙を断行すると相変わらず与党安定多数の結果が出てしまうであろう選挙なのです。

制度導入の立役者が悔やむ現状

小選挙区制の害悪については、94年の制度導入当時に中枢にいた人々が反省の弁を語るに至っています。2011年の朝日新聞のインタビューで導入当時の首相だった細川護煕氏が失敗を認める発言をしたことは、筆者にとってはとりわけ衝撃でした(もう一人の立役者である土井たか子氏は口をつぐんだまま亡くなりましたが)。

河野洋平元自民党総裁 「今日の状況を見ると、それが正しかったか忸怩(じくじ)たるものがある。政治劣化の一因もそこにあるのではないか。政党の堕落、政治家の資質の劣化が制度によって起きたのでは」   (「朝日」昨年11月8日付)

細川護煕元首相 「小選挙区制度により、総選挙の結果が一方の政党に偏り過ぎる傾向があります。落ち着いた政治にならないといけない」 (「朝日」昨年9月19日付)

森喜朗元首相(細川・河野会談に立ち会う) 「政治の劣化をもたらす要因は、いろいろとあると思いますが、根本的には小選挙区制に原因があると思っています」 (「自由民主」昨年11月22日付)

出典:しんぶん赤旗

もともと、制度の母国であるイギリスで小選挙区制が許容されてきたのは、国民が現にある二大政党制に満足してきたからです。保守、労働の二大政党の階級闘争の決戦の場が小選挙区制だったのです。イギリスでは70年代以降に多党化が進む中で小選挙区制に対する信頼は揺らいでいて、例えば、最近の独立の話に関連して話題になったスコットランド議会は「小選挙区比例代表併用制」という、小選挙区を維持しながら結果を比例代表選挙にかなり連動させる制度を取り入れています。EU議会選挙はイギリスでも比例代表制です。2010年には国会下院の小選挙区制廃止を問う国民投票が行われました。結果的には制度は維持されましたが、絶えず制度に対する疑問が生じているのです。

一方、イギリスを真似て制度を導入した日本の場合、政党状況は制度導入前も制度導入後も、一貫して多党制です。ここに小選挙区制を導入したことで、選挙結果だけ比較第一党が圧倒的に勝つ仕組みになってしまいました。その結果、3割台、4割台の得票しか得てない候補者が選挙区の意見を総取りし、一方では勝つためだけに政治的な主張を無視した離合集散が繰り返されるという珍妙な状況が生まれています。

「勝てばいい」の政治劣化はもう止めよう

そして、このような「勝てばいい」という傾向は選挙の度に強まっているように思います。

例えば安倍首相の山口4区における得票数ですが、9万3459票(96年)→12万1835票(00年)→14万0347票(03年)→13万7701票(05年)→12万1365票(09年)→11万8696票(12年)です(ウィキペディアによる)。小泉郵政選挙を頂点に、前回の自民党圧勝の選挙を含め減らし続けています。今回は現役の首相なのでさすがに増やすかもしれませんが。自民党の得票自体が勝ち負けに関係なく選挙の度に下がり続けています。政党の実力が最もよく現れる比例代表選挙では自民党は2005年2589万票→2009年1881万票→2012年1662万票と減らし続けています。

このように国民多数の支持から離れつつある政党・政治家が世論を広く統合する調整型の政治ではなく、むしろ強権的な政治を志向する傾向が強まっているのが現状です。しかし、民主主義の国において、国民に根を張らない意思決定はどこかで失敗します。一発勝負を狙った山師のような政治家が増え、力を持った政治家が育たない現象も党派を問わず選挙の度ごとに実感されます。ひと言で言えば、政治が劣化し続けています。

多数決は議会制民主主義の意思決定の手段ではありますが民主主義=多数決ではありません。国民の多様な意見を統合する政治こそが本当の民主的な政治なのではないでしょうか。国力が低下し、減り続けるパイをどうやって分配すべきかより一層の討論が求められる折、“勝ちさえすれば良い”制度で日本の政治の劣化をもたらしたことを、制度を推進したマスコミを含めて、総括すべき時が来ていると思います。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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