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楽しく選挙に参加しよう-総選挙投票日までのネット上の言論方法

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)

さて、衆議院が解散されます。投票日に向けて活発な討論が期待されるところですが、ネット選挙が解禁されたとはいえ、ネット上でどこまでものを言っていいのか心配な方も多いと思うので、簡単にまとめてみました。結論を先に述べると「心配せずに活発に意見表明しましょう」ということだと思います。

根本にあるのは憲法21条が保障する表現の自由

この問題の根本にあるのは憲法21条1項です。「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」と定めています。そして、選挙に向けた期間は、国政上のあらゆる時期で最も言論活動の自由が保障されなければならない時期です。何か疑問が生じたときに立ち返るべきは常に憲法です。

一方、公職選挙法は「あれはやってはいけない」のオンパレードのべからず選挙を前提としています。何故か。意外と知られていないのですが、現行の公選法の原型は明治憲法下の衆議院選挙法です。日本国憲法の下では破棄されるべきだったこの法律は、政治的な打算により戦後も形を変えて生き延びてしまい、様々な規制が追加されて今日に至っています。裁判所もこのような戦後政治の流れを屁理屈で追認してしまい、公選法の解釈をするために参照する判例がいまだに大審院(戦前の最高裁)が出した昭和一ケタ代のものだったりするワラエナイ現実があります。

しかし、ネット選挙の「解禁」により、この辺の屁理屈も根本的に崩壊局面にさしかかっているように見えます。ネットだけ自由になってしまい、現実世界の選挙運動が規制されるのは明らかにバランスを欠く状況になってしまっているのです。

告示前

告示前は「選挙運動」はしてはいけません(事前運動の禁止)。「選挙運動」とは端的に言えばその意図を持ってする特定の候補者や政党への「一票入れる」「一票入れない」に結びつく行為です。従って、まずは他人に対して具体的な投票の勧誘をしなければ、ネット上の言論はほぼ自由だと考えて差し支えないでしょう。

具体的にはツイッター、フェイスブック、LINEやブログを使って、政権や与野党を問わず政党、政治家を批判・批評することも当然OKです。選挙前だけ政治的発言ができないことになったら大変なことですからね。

告示後

告示後はインターネットを使って選挙運動をすることすらOKです。具体的にはブログ、ツイッターやフェイスブックで特定候補や特定政党への投票を呼びかけても良いということです。ただし、無責任な言論とならないよう、連絡先を表示する必要があります。ツイッターやフェイスブックは連絡先が常に表示されているのでこの点は問題ないと思いますが、ブログは連絡先のメールアドレスを表示するなどしましょう。

そして告示後も、これらの手段を用いて、政権や与野党を問わず政党や候補者を批判・批評することは当然OKです。そういうことはマスコミ各社もみなこぞってやっていることです※1。結局、告示後も、常識的な言論であればほとんど自由ということです。未成年者も選挙運動でなければ政治的な言論は自由です。

一方、電子メールを使用した選挙運動は相変わらず規制の対象ですのでこの点は注意が必要です。LINE、ツイッターのダイレクトメールや、フェイスブックのメッセージ機能を使った選挙運動は可能なのに、電子メールだと途端に禁止されるのは馬鹿げた悪法という他ないですが、一応、それがルールです。ただ、規制の対象になるのはあくまでも選挙運動です。友達と政治についてメールで熱く語りあうのも、メーリングリストで各党の政策を討論するのも、相手やメンバーが嫌がらなければ問題ありません。

投票日

当たり前ですが投票日もネット上の言論自体は自由です。ただし、選挙運動はやってはいけません。

楽しく選挙に参加しよう

上記はネット上のことで、現実世界では相変わらずビラの種類やら枚数やら、果ては戸別訪問が禁止されるなど、煩雑な規制があります。候補者や政党以外の個人で特定候補や政党への投票を呼びかけるビラを作成するのも禁止されています。

もっとも立候補者ではない国民はちょっと気をつければかなり大胆な活動が可能なのです。例えば、街頭で労働者派遣法の改悪に絶対反対のチラシをまくことも、それ自体は問題ありません。特定秘密保護法の廃止を求める街頭宣伝をすることも、それ自体は問題ありません。

政治家に呆れて黙っていても、政治は悪くなる一方です。主権者として楽しく選挙に参加し、政治家に注文を付けまくるチャンスです。例え投票する候補や政党が決まっていたとしても、有権者として注文を付けまくった後に「しゃーない、入れてやるわ」とするのと、白紙委任するがごとく黙って投票するのとでは全く意味が違いますよ。

そしていずれにせよ、選挙期間中に「あれはいいのか」「これはいいのか」を一々考えなければいけないお寒い言論状況自体が異常です。インターネット上と現実世界の「解禁」度合いの不均衡は、もはや表現の自由のみならず、法の下の平等にすら反しているように見えます。公職選挙法の言論規制の廃止はもはや待ったなしの課題だと言えるでしょう。

※1 マスコミ各社がインターネット上で選挙に関する報道評論をすることについて「解禁」する公選法の条文はありません。有料の新聞紙については選挙についての報道評論を可能とする公選法の条文があるのですが、あくまで紙ベースのことで、ネット上は一国民と一緒です。逆に言えば、告示後のネット上の言論の自由はマスコミ各社が(恐らく自覚がないまま)既成事実を作ってしまったわけです。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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