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【安保法案】同志社大・村田晃嗣氏は公聴会で合憲とは言っていない

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)
写真は国会前で抗議する若者たち。(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

安保法案に関連して、同志社大学長の村田晃嗣氏(国際政治学)の中央公聴会での意見陳述が議論を呼んでいます。

産経新聞で発言要旨が掲載されましたので詳しくはそちらをご覧下さい→コチラ

法案に直接関係ある部分について、筆者なりに要点をまとめると以下のようになります。他にも重要なことを言っているように思いますが、法案に関連する部分をまとめるとこうなる、ということです。

1 中国の台頭、米国の力の低下、日本の経済的地位の低下、という国際情勢。

2 そうした中での日米同盟の強化は極めて理にかなっている。

3 国会で国際情勢の議論が不足。

4 安保法制は憲法問題であると同時に安全保障の問題。

5 安全保障の専門家は法案に肯定的。学者は憲法学者だけではない。

6 法案の存立危機事態、重要影響事態、周辺事態はいずれも曖昧。

7 曖昧だと法律が成り立たないというのは難しい。

8 国際情勢を憲法違反と断じても国際情勢は変わらない。

9 安保法案が通れば自衛隊が地球の裏側で戦争、という議論があるが自衛隊にはその能力が欠けている。

10 そのためには政府の政策判断があるだろうし、国会の議論や承認。

11 「戦争法案」の表現で議論をすると安全保障の理解の深まりが得られない。

全体的に見て、安保法制(戦争法案)が合憲だ、という立場からの発言というより、「国際情勢の変化があるんだから憲法違反かどうかではなく安保法制は必要」という議論に見えます。

意見陳述する村田晃嗣氏。産経新聞のサイトより
意見陳述する村田晃嗣氏。産経新聞のサイトより

安全保障をめぐる国際情勢については大いに議論すればいいと思いますが、村田氏が言うような、何でもアメリカありきの国際情勢のとらえ方について、もはやそう簡単に国民全体でコンセンサスが得られないことが重要なんじゃないでしょうか。中国が台頭するなら、理は通しながらも中国とも付き合っていく、という考え方は当然あり得るわけです(現に、韓国は米中の間で揺れているし、ヨーロッパ諸国は中国との関係も重視していますね)。自説が浸透しないことと、議論がされていない、ということを混同してはいけないと思います。

その点は措くとしても、仮に村田氏がいうような国際情勢があるとしても、だからといって憲法違反の法律を作っていい、という結論にはどうやっても至らないのが、最も重要な点なのではないかと思います。村田氏がそこまで我が国の安全保障の問題点を主張するのなら、今まで学者生命をかけて憲法改正を訴えたことがどれだけあるのか、その点が問われているような気がしてなりません。その点を曖昧にして「必要なんだから法律を作るべし」という議論は、独裁者の発想と何が違うのか分かりません。また、自衛隊の能力や政府の政治判断の話をしますが、現在の議論は憲法により絶対的に禁止されていることを、単なる政策(自衛隊の増強)や政策判断の問題にしてしまってよいのか、ということなのです。村田氏の議論は「自衛隊を増強して、政策判断すれば地球の裏側でもOK」ということにもつながるので反論になっていないように思います。

また、安保法制について法律解釈を厳格にしなければならないのは、単に政策問題ではなく、安保法制の法律解釈がそのまま憲法違反を問われる事態になっているからです。村田氏の議論は、その点についても曖昧にし、憲法論と法律論をすり替えているように見えます。

今日、京都では、一部の市民が夕方6時から同志社の前で村田氏に対する抗議街宣をする、という話も聞いていますが、責任ある立場にいるはずの学者がこういう無責任な発言をすることで、同志社大学の株が下がらないのか、京都に住む者としては心配ですね。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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