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安倍首相、法案審議を放置して法案をテレビで説明?

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)

本日(2015年9月4日)は、午後1時から、参議院で「安保法制」に関する審議が行われています。参議院の公報で下記のように告知されています。適宜改行して引用します。

平成27年9月3日(木曜日)

委員会及び調査会等日程

○明四日(金曜日)次のとおり開会する。

~中略~

───────────────

我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 午後一時 第一委員会室

会議に付する案件

我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案(閣法第七二号)(衆議院送付)国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案(閣法第七三号)(衆議院送付)武力攻撃危機事態に対処するための自衛隊法等の一部を改正する法律案(参第一六号)在外邦人の警護等を実施するための自衛隊法の一部を改正する法律案(参第一七号)合衆国軍隊に対する物品又は役務の提供の拡充等のための自衛隊法の一部を改正する法律案(参第一八号)国外犯の処罰規定を整備するための自衛隊法の一部を改正する法律案(参第一九号)国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する人道復興支援活動等に関する法律案(参第二〇号)

我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会理事会

午後零時五十分 第一理事会室

ところが、昨日からうわさされていましたが、今日の午後3時以降、安倍首相は安保法制について説明するために、テレビに出演するというのです。

リテラ スクープ! 安保法制採決を前に安倍首相が「ミヤネ屋」「委員会」に出演…読売テレビは国論を二分する状況で礼賛番組を放映する気か

ホンマかいな、と思っていたら、自民党の広報のツイッターが下記のように述べています。

自民党の広報のツイッター
自民党の広報のツイッター

どうやら、うわさは本当のようですね。

憲法上、法律上の総理大臣の国会出席義務

しかし、いうまでもないことですが、日本国憲法は「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。」(憲法65条3項)とされており、法案に関しては「内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。」(憲法63条)とされています。国会法では、この規定を受けて、71条で「委員会は、議長を経由して内閣総理大臣その他の国務大臣並びに内閣官房副長官、副大臣及び大臣政務官並びに政府特別補佐人の出席を求めることができる。」としています。 政府やそれを代表する総理大臣が法案や政策について国会で説明するのは当然のことですよね。それをしなかったら、国会の意義は著しく下がってしまいます。

野党は総理大臣の委員会出席をなるべく長時間求めるのが普通ですが、当然ながら、総理大臣がすべての法案を説明するのは物理的にも時間的にも能力的にも不可能であり、法案説明以外にも総理大臣の仕事はあり、一方、それぞれの法案について主務大臣もいることから、委員会の議事日程の決定の過程のなかで、総理大臣が委員会に出席するのは節目に限られるのもよくある姿です(追記:上記のように国会法では首相の委員会出席要求は野党ではなく「委員会」がします。与党が多数の場合、委員会運営も全体としては与党がコントロールするわけで、野党が要求すれば首相が即、委員会に出席するわけではありません)。

法案審議を放置して法案をテレビで説明?

安倍首相は、今日のテレビ出演も「今日は委員会出席予定がない」のひと言で正当化するつもりかもしれません。しかし、本日の安倍首相の行動は、委員会の欠席を正当化できるものではないように思われます。すなわち、安保法制を審議している参議院の委員会が現に開かれている日の、その時間帯に委員会に出席せず、安保法案の説明をすると称してテレビに出て、法案について言いたいことを一方的に言う(予定)のです。そして、一方で、その法案を審議している参議院の委員会はNHKでテレビ中継されないのです。追記:しかも中継ではなく首相が大阪のスタジオまで出向いたようです。

本来、安保法制について説明をしたいのなら、総理大臣自ら国会の委員会に出席して国会質問に答えればよく、総理大臣にはその権限もあります。それをせずに、国会がテレビ中継されないことも問題にせず、同じ時間帯にその法案について自分の言いたいことだけテレビで言うとすれば、日本国憲法で定められた総理大臣の答弁・説明責任を放棄するものであり、国会無視であり、まるっきり場外乱闘でしょう。

憲法とか行政法というのは、権力者がそれらを守ることを前提に作られており、違反行為や、法の趣旨に反する行為があっても、罰則も制裁もありません。だからこそ、権力者は、それらを十分に遵守しなければなりません。安倍政権の憲法無視はすでに目に余るものがあり、先日は、ついに元最高裁判所の長官までが、安保法制を憲法違反と発言しましたが(朝日新聞 「集団的自衛権行使は違憲」 山口繁・元最高裁長官)、このような安倍首相の行動を見るにつけ、安倍首相が毀損している憲法の規定は、決して平和憲法(9条)に限られない、と思わざるを得ません。日本国憲法に基づく我が国の統治の仕組み(立憲主義)の価値自体を毀損しているのです。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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