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安倍政権が臨時国会を召集しなければ憲法違反となる

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)
(写真:ロイター/アフロ)

今日、野党の衆院議員が125名連名で、衆議院議長宛に、臨時国会の召集を要求しました。

日本国憲法

第五十三条  内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

国会法

第三条  臨時会の召集の決定を要求するには、いずれかの議院の総議員の四分の一以上の議員が連名で、議長を経由して内閣に要求書を提出しなければならない。

憲法53条を読めば分かるように、議院の総議員の四分の一以上の要求があったときは、内閣は、臨時国会の召集を決定しなければなりません。なお、直接的に「召集しなければならない」と書いていないのは、召集自体は憲法7条2号で天皇が行う国事行為だからです。天皇の国事行為は「内閣の助言と承認」に基づいて行われ、天皇の独自の判断は許されません。結局、内閣が召集を決定すれば、臨時国会は召集されるのです。

なので、例えば参議院のホームページには端的に下記のように記載してあります。

どちらかの議院の総議員の4分の1以上から要求があったとき、内閣は、臨時会を召集しなければなりません。

出典:参議院HP

首相の外交日程を優先できるか?

これに対して、菅官房長官をはじめとする政府首脳は国会の召集決定に消極的です。

野党の要求に対し、菅義偉官房長官は記者会見で「与党と相談し(対応を)決定したい。首相の外交日程を優先せざるを得ない事情や予算編成を行う必要なども考慮しないといけない」と述べ、召集に慎重な姿勢を改めて示した。

出典:時事通信

しかし、首相の外交日程を理由に国会を開催しなくて良いのなら、政府は臨時国会を開くについて都合が悪いときは首相の外遊を組めばいいことになってしまいます。また、安倍首相の外交日程が詰まっているとしても、それには今年の通常国会が異常に長かったことが影響しているはずで、安倍政権の身から出たさびなのではないでしょうか。筋の悪い理由だと見るべきでしょう。この点、『注釈日本国憲法』(青林書院 1988年)には、1949年に、政府が召集要求の2ヶ月後にやっと臨時国会を召集した際に、野党が提出予定の法案の内容検討を先延ばしの理由にしたことについて、以下のような記載もあります。

国会、とりわけ議員の側からの要求に基づいて召集される臨時会は、内閣提出の案件の審議に限られるのでないことはもちろんであるから、案件の内容審議のための内閣の準備不足を理由に召集をのばすことはできないというべきであり、召集手続そのものをおこなうために客観的に見て通例必要とされる範囲内で、できるだけ要求された期日に近い期日に召集することを、決定しなければならない。

国会を早期に召集すべきことは、政府が首相の外交日程による国会対応の準備不足を理由として召集を渋る場合でも同じことでしょう。

「開かなかった例」で開き直る

また、菅官房長官は国会の召集決定をしない理由として以下のようにも述べています。

菅官房長官は20日の記者会見で、「(憲法53条の)要求があっても開かなかった例もある」と指摘した。

出典:読売新聞

菅官房長官が過去の例を根拠に居直るのは正しいのでしょうか。この点、朝日新聞編集委員の前田直人氏がツイッターで以下のように述べていました。

臨時国会がなかったのは最近では2005年の郵政解散後でしたが、このときは特別国会を長くして郵政をあげた。2003年も臨時国会途中で衆院解散になり、野党の再度の臨時国会召集要求が無視されましたが、このときも特別国会で予算委をやっています。まるっきりやらないのは異例と言えるでしょう。

出典:前田直人氏ツイッター

そこで衆議院のホームページで国会の会期を調べてみると(こちら)、2003年9月26日に召集された臨時国会(157回)は、当時の小泉首相が10月10日に解散したことで、当初、36日とされていた会期が15日で終了しています。その後、臨時国会は開かれていませんが、総選挙後の特別国会(158回。特別国会は内閣総理大臣の指名等を行います。)が11月19日に召集され、首相の指名等だけに止まらず、9日間の会期で、予算委員会も二度開催されているようです。

2005年についても、通常国会(162回)中の8月8日に衆議院が解散された後、臨時国会が開催されていませんが、特別国会(163回)が9月21日から42日にわたって開催されています。

結局、菅官房長官が言っているのは、野党の臨時国会の召集要求に対して臨時国会を召集しないことがあった、というだけのことで、実際には国会(特別国会)自体は召集され、そこでは総理大臣の指名等の特別国会固有の役割を超えて、実質的な審議も行われているのです。官房長官が、事実を踏まえずに政府が憲法に抵触する異常事態を居直る態度は許し難いものがあります。

国会を召集しないのは憲法違反

当然のことですが、臨時国会の召集を決定しなければ、憲法53条違反となります。そして、これは安保法制についても言えることですが、政府が憲法違反をすることについて、罰則もなければ議席剥奪のような制裁もありません。日本の場合、裁判所が何かをしてくれるわけでもありません。これは、恐ろしいことですね。結局、国民の声で、安倍政権に憲法を守らせなければならないし、国民が気を許せば、政府はいつだって憲法違反を犯し、いつの間にか国会そのものが開かれなくなったり、基本的人権が侵害されることになるのです。特に、今、我が国は安保法制の憲法違反の問題、TPPの問題、消費税増税の問題などなど、懸案事項が目白押しです。安倍政権の、憲法違反をしてまで政権運営に都合の悪いことを国会で議論させない姿勢は大いに批判すべきでしょう。また、この件を報道する報道機関の役割は極めて大きいと言えましょう。どっちもどっちの政争として捉えることを厳に慎み、臨時国会を召集しないことは、政権が憲法を蹂躙する姿そのものであることを国民に広く伝えなければなりません。

2015.10.22追記

自民党の憲法草案では、憲法53条は下記のようにされ、召集要求から20日以内に召集しなければならないようです。

第五十三条

内閣は、臨時国会召集を決定することができる。いずれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があったときは、要求があった日から二十日以内に臨時国会が召集されなければならない。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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