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パーティークラッシャーとFacebookをやめる心理―SNS時代のコミュニケーションについて考える

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

イギリスの14歳の少女がFacebookで自らの誕生会を告知したところTwitterなどのSNSで拡散、当日自宅に押し寄せた約200人が暴徒化して家や家具を破壊したという事件が報じられました。少女や家族は無事だったものの470万円ほどの被害が出たとのことです。2012年9月にはオランダの16歳の少女が同じように誕生会を開催した際には、なんと4000人が殺到して機動隊と衝突する事件にまで発展しています。このような事件はヨーロッパでは度々起こっており、主催者の意図に反して紛れ込んだ招かれざる客のことは、破壊活動をする者に限らず「パーティークラッシャー」と呼ばれています。

似た事件には枚挙に暇がありませんが、どの事件もパーティーをかぎつけて集合した不特定多数のアノニマスが凶行に及んでいます。知人でもない人にまで祝って貰いたいという自己アピールについて嫌悪が爆発しているようにも見えますが、彼らはいったいどんな心理で凶行に及んでいるのでしょうか。日本ではあまりなじみのないタイプの事件にも感じますが、今後似た事件が波及する可能性も考えられます。そこでSNSに求められるメディアリテラシーや、知っておくべき前提について若者へのアンケートを交えつつ考えてみます。

◆他人の誕生会に対する日本人の感覚

関東に住む10歳〜16歳の約100人にアンケートを取ったところ、知らない人の誕生会に行ってみたいと答えたのは約1割に留まり、知らない人を誕生会に誘う心理についても共感出来ないとの意見が大半で、呼んでみたいという意見は男女2人ずつに留まりました。反面、知らない人を誕生会に誘うような人をどう思うかと言う質問に対しては約3割が「ウザい」「なんか嫌だ」というネガティヴな感想を持ちましたが、「身近に友達が少ないのだろうからむしろ可哀想だ」という同情的な意見も上がりました。パーティークラッシャーの気持ちが分かる、としたのは男子2人でそれぞれ「ストレス解消になる」「誰かが幸せそうなのはむかつく」とのことでしたが、実行するのは理解出来ないという見解でした。

◆SNS的書き込みの捉え方

最近FacebookやmixiなどのSNSを退会する若者が増えている理由に、「他人のリア充アピールがウザい」「他人の愚痴を見ているとこっちまで暗くなる」というものがあります。これについて実際SNSを使う10代20代の若者と意見交換をしたところ、「「美味しかった」「楽しかった」「嬉しかった」という書き込みを自分が落ち込んでいるときに見ると、愚痴を見るよりも辛い」「かまって欲しいのは分かるがこっちに余裕がないと萎える」という意見がある反面で、「幸せな書き込みを見ると元気になる」「愚痴や不満を見ると自分の方がマシだと思える」という意見もあり、結局のところ見る側のとらえ方や気分にも影響されるようです。また「知り合いかどうかでだいぶ違う」という意見もありました。

◆伝染する「気分」

アメリカの医学博士クリスタキス氏と政治学者ファウラー氏が2000年に行った12万人に対する社会的ネットワーク調査によると、直接の知り合いが幸福な場合、本人も約15%幸福度が上がり、そのさらに知人に対しても約10%、知人の知人に対しては約6%幸福度が上がったという結果「三次の影響」が報告されています。

また、先の10歳〜16歳の100人に「書き込みがウザいと感じる原因」について聞いたところ約3割が「言い方が問題」次いで約2割が「誰が言っているかが問題」「自分の機嫌が問題」と回答し、知り合いでない場合は特に何とも思わないという意見が大半でした。

結局、他人の幸・不幸は受け手によって、プラスにもマイナスにも影響してしまうようです。直接会うことなく日常的な他人の気分を垣間見れてしまうSNSは便利なツールですが、誰にでも同じように作用するわけではありません。Twitterなら「拡散」したら削除や修正が出来ない、というような基本的なシステムを知ることはもちろん、情報を発信する側にもメディアリテラシーが必要だと言うことや、自分の性質や性格を知った上でうまくつきあっていこうと意識することでネットワークサービスをより便利に快適に使うことが出来るのではないでしょうか? (矢萩邦彦/studio AFTERMODE)

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アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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