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短期集中コンペでイノベーションを起こす! -世界防災・減災ハッカソン始まる

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授
イベントテーマである「楽しい多様性」を表現したイメージ

記録的な大雪となった2月8日・9日、東京大学リサーチキャンパスにてICT(情報通信技術)を防災・減災に活用し、イノベーションを推進することを目的とし、世界ローバル防災・減災ハッカソン"Race for Resilience"(※1)が開催されました。「発展途上国×防災・減災」をテーマに様々な職業やバックグラウンドを持つ参加者が、2日という短期間でチームを編成し、アイデアをプロトタイプまで作り上げ、その社会的意義と完成度を競うコンペティションです。今回は東京、石巻、名古屋で同時開催。会場には話題の3Dプリンターなどモノ作りのための様々なツールも用意され、各チームその日に出来たとは思えないコミュニケーションとスピード感で熱気を帯びていました。

◆「ハッカソン」て何?

Mobile Radio Stationチーム。和気あいあいだが手は止まらない。
Mobile Radio Stationチーム。和気あいあいだが手は止まらない。

ハッカソンは「ハック(コンピューター関係の専門家による工学技術)」と「マラソン」を合わせた造語で、ソフトウェア開発者が短時間集中して共同作業を行い、その完成度を競うコンテストです。まだ馴染みのない方も多いハッカソンについて、元世界銀行広報担当官でソーシャルメディアプロデューサーの立入勝義氏(※2)にお話を伺いました。

「ハッカソンはもともとプログラマーの腕試しやアピールの場として始まったわけですが、課題に対して優秀な人材がチームで開発にあたるという姿勢が非常に効率的で生産的であるということから世界的に注目されるようになりました。当初は純粋に技術的だった解決課題が、いつからかより大きな社会的課題ともつながったことでITやイノベーションが社会変革にもたらすインパクトは計り知れないものがあると思います。」また、コンピュータ関連に留まらず、様々なバックグラウンドやスキルをもつ人が集まることで、参加者相互にも刺激があります。「専門家が抱えている知見も、技術者とのやりとりを通じて掘り起こされ、見えてなかったことも見えてきます。」

◆アイデアを実際に運営するまでが最低目標

レース・フォー・レジリエンス実行委員会代表の古橋大地さん。
レース・フォー・レジリエンス実行委員会代表の古橋大地さん。

元々はマップコンシェルジュとしてデジタル地図の作り方や使い方をコンサルティングしていたというレース・フォー・レジリエンス実行委員会代表の古橋大地さんは、wikiの地図版であるOpenStreetMap(※3)を運営している中で東日本大震災が起き、地図を自由に使えることで位置情報がある放射線量情報を重ねるなど、被災地では重要な情報が生産できることを実感したといいます。「それらの活動を通じて世界銀行からハッカソンのオーダーを戴きました。今回のハッカソンでは、2日目に公式ルールに則って評価が下されます。とりあえず美しさよりも分かりやすさが大事。2日間でプロトタイプまで落とし込み、それを元に3ヶ月後にローンチ出来ればOKです。」スピード感がある反面、完成するのはあくまでプロトタイプで製品化するには至らない、と古橋さんは言います。「そこで終わってしまうハッカソンが多いが、そうしたくないですね。プレゼンで設定したゴールまでが最低目標です。」

「Mobile Radio Station」チームを率いる瀬戸義章さんは「災害時特に役に立ったツールはラジオだったが、誰でも気軽に放送出来るわけではなかった」と、スマホなどで簡単にコンテンツができるパッケージを提案しました。インターネットではなく、災害時にすぐに聴けるように小さなコミュニティー単位で電波を飛ばして放送出来るローカルメディアというアイデアで、見事三位に入賞しました。こういうアイデアは、災害が起こる前から運営され、普段使いのツールとして浸透していてこそ意味があります。しかし、アイデアを形にし、かつ持続可能なシステムにして行くには課題も沢山ありそうです。

◆ハッカソンへの期待と課題

「まだまだIT業界以外では浸透しておらず、社会的意義が理解されていない。」立入さんは、従来は企業のためのものだったが、社会問題に展開される際にはより広く支援が必要だと指摘します。当日参加した人が、引き続きプロジェクトにコミットし続ける環境作りのためにも、理解と支援は重要課題になりそうです。

今回関係者へのインタビューでみなが口をそろえて課題としてあげたのが「イベント後のフォローアップ」についてです。形になったアイデアの完成度や社会的認知度を上げ、実際に社会に作用するシステムとして持続できるものを作る。そのためのシステムとしてハッカソン自体がオープンソースシステム的な一面があるように思います。

運営事務局の佐橋加奈子さんは「長い目で見ていきたいですね。今回のアイデアを実現するために、入賞にかかわらず、報告会などを開いて参加チームとスポンサーをマッチングしたり、ハッカソンを切っ掛けにコミュニティーが繋がっていくような持続的なプラットフォームを作りたいですね。」とイベント自体の継続と更新を意欲的に語って下さいました。今回の優勝チームはロンドンでのグローバルコンペにエントリーしますが、すべてのチームのアイデアを形に出来るようにしたい、と運営チームには気合いが入ります。今後日本でのハッカソンがどのように進化し、イノベーションの種を蒔いていくのかに注目していきたいと思います。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE)

関連リンク

(※1)レース・フォー・レジリエンス

(※2)立入勝義起業ブログ『意力』

(※3)OpenStreetMap Japan

アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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