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【ソチ2014パラリンピック】参加することに意義があるというけれど〜福祉とスポーツの間でゆれる現場

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

現在、日本パラリンピック委員会(JPC)は厚生労働省の所管なのですが、ソチが終わった翌月2014年4月から日本オリンピック委員会(JOC)と同じ文部科学省のスポーツ競技課に所属することになります。このことでいったい何が変わるのでしょうか。

◆パラリンピックの起源とエリート性

パラリンピックの始まりは第二次世界大戦による傷痍軍人の社会復帰をスポーツによって実現しようという目的で、1948年にイギリスのストーク・マンデビル病院の外科医ルートヴィヒ・グットマンの提唱で行われたストーク・マンデビル競技大会とされています。最初の競技は車いす患者によるアーチェリーでした。2012年ロンドンパラリンピックにおいても“マンデビル”という公式キャラクターによって、その起源がアピールされ、オリンピックに引けを取らない盛り上がりでパラリンピアンやメディアを驚かせました。

少しずつ国際大会として規模を拡大してきたストーク・マンデビル競技大会は、1988年のソウル大会より日本人が発案したとされる「パラリンピック」が正式名称となり、2000年のシドニーオリンピックよりオリンピックと同じ都市で開催することが決まりました。国際パラリンピック委員会(IPC)は、「パラリンピックは、障がい者にスポーツ活動の機会を提供する“機会均等と完全参加”と、“障がい者のスポーツのエリート性”を象徴する」としています。文部科学省に所属が変わることで、そのエリート性について構造的にではありますが、ようやくオリンピックと並ぶ可能性があります。

◆アスリートなのか、障がい者なのか

しかし、組織的な構造や理念が現場に浸透するまでには時間がかかります。パラリンピックに出場する選手の多くがアスリートととしての誇りを持っているのに対して、オーディエンスや関係者がそうではないケースも見受けられます。現場での指導にも携わる北海道教育大学特任講師大山祐太さんは“障害がある”とすぐに対等ではなく“保護すべき存在”となってしまことが問題だと指摘します。

以前取材させて戴いた視覚障がい者の競技“ゴールボール”の指導者の方は「道具の準備だとか、掃除もやってもらわないとダメ。サボれば怒るし、そういう所は健常者と同じでスポーツマンシップの一環」と話しつつも、そういう対応をしていると「相手は障がい者なのだから、もっと優しくできないのか」などと非難されることも少なくないと言います。また、アスリートというよりもリハビリの一環として参加しているという意識の選手も多く、同じ理念や方法で指導をするのは難しいようです。

◆参加することに意義があるというけれど

また、“機会均等と完全参加”にも課題は山積しており、ロンドン取材時にも「遠征費がかかるため大会に出られない」という話や、「家族が応援に行くことも負担、応援団なんてとんでもない」と話してくれたご家族も。競技によって差もありますが、選手として活動するためには年間の自己負担は平均で140万円を超えるといいます。

「人生にとって大切なことは成功することではなく努力すること」という近代オリンピックの父クーベルタンの言葉がありますが、やる気と実力があっても努力出来る環境にない選手が多数いることが障害者スポーツの問題点の一つだと言えそうです。そういう選手達にどのように門戸を開いていくのか。ソチを訪れた森喜朗会長は国際パラリンピック委員会フィリップ・クレーブン会長に「日本としてはパラリンピックを五輪と同じような扱いとしてやっていきます」と伝え、今までパラリンピアン用にはなかった国立のナショナルトレーニングセンターについても進めて行く方針を表明しました。2020年に向けて文部科学省スポーツ競技課の活動に期待したいところです。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE)

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アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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