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小学生が考える「担任が息子の入学式を優先する」のはアリかナシか

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

埼玉の県立高校で女性教諭が、自分の息子の高校の入学式に出席するため、担任する新入生の入学式を欠席した問題について、議論になっています。保護者らは「今の教員は教え子より息子の入学式が大切なのか」と、来賓からも「担任の自覚、教師の倫理観が欠如している」と非難され、県教育局は「教員としての優先順位を考え行動するよう指導する」とし、ネットを中心に活発に議論が起こりました。この問題について神奈川県の小学五・六年生約100人と話し合ってみました。

◆担任が息子の入学式を優先することの是非

まず「学校の先生が勤務する学校の入学式を休んで自分の子供の入学式に行く」ことに、「賛成・別に良いと思う」が32%、「反対・どちらかというとダメだと思う」が28%、「場合による・どちらとも言えない」が40%という結果になりました。賛成意見は、「担当する生徒は他人なので家族を優先して当然」「それが当たり前だと思っていた」反対意見は「仕事なのだから当たり前」「初日に担任の先生がいなかったら驚く」その他の意見としては「卒業式ならダメだが、入学式はまだ担当する生徒と顔を合わせていないのだから問題ない」「先生が女なら仕方ないが、男の場合はダメな気がする」「子供の方は家族の誰かが参加できるのなら仕事を優先するべき」「高校は微妙。自分だったら来て欲しくないかも」等の意見が上がりました。また際だったものとしては「校長が許可したなら問題ない」という意見に賛同者が多く、決定は所属している組織の長がするべきだという認識を持っている小学生が多くいました。

◆そもそも入学式に来て欲しいのか

次に、「親に来て欲しいと思うか」と言う質問に対して「中学校の入学式」は82%、「高校の入学式」は64%、「大学の入学式」は80%、「就職先の入社式」は8%が「絶対に来て欲しい・どちらかというと来て欲しい」を選択、「どちらでもよい・分からない」はどれも10%程度という結果になりました。大学の入学式に来て欲しい理由としては「中学と高校はそれほど変わらない気がするから」「高校は知っている人もいて恥ずかしいが、大学は人数も多くて紛れそう」「成長した姿を見て欲しい」「最後の学生生活の始まりだから」と言う意見が多く、入社式に関しては「大人になったら来てもらうのは恥ずかしい」「来て欲しいけど、親を見られるのが恥ずかしい」という意見が大半でした。

◆誰のための議論なのか

今回の問題について、「仕事と家庭のどちらを優先するべきか」という視点で議論されていることが多かったのですが、「入学する当の本人がどのように認識しているのか」という視点が抜けていることが多いと感じました。親心とはいえ、本人が来て欲しくないのにもかかわらず、仕事を休んで行ったのであればまた論点が変わってくると思います。もちろん、直接聞いたところで思っていることをそのまま伝えるかどうか、微妙な心理もありますから、本人が本当に来て欲しいかどうかを知ることは難しいと思われますが、視点として考慮した方がより柔軟な対応が考えられるのではないかと思います。今回のようなケースを鑑みて、副担任制や入学式など学校行事のシステムの見直しをするのは当然だと思いますが、教育機関で起こる問題の多くは「説明不足」や「説明方法・伝え方」にあるように感じます。生徒や保護者に納得してもらえるような説明や対応について、担任だけではなく関わる全ての人が真摯に考える必要があるのではないでしょうか。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE)

アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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