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“危険ドラッグ”呼称が変わって更に相談しにくくなる? 「誰にも言えない」常用者の苦悩

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

警察庁の公募によって新呼称が「危険ドラッグ」と決められた脱法ドラッグ・脱法ハーブ。厚生労働省研究班の調査によると、2010年には一人だった危険ドラッグが原因となる救急搬送は、2011年は48人、2012年には469人に急増しているといいます。果たして呼称を替えることで抑止に繋がるかどうか期待されますが、そもそも以前は合法ドラッグ・合法ハーブと呼ばれていた経緯もあります。呼称の変更による常用者への影響などはないか、また相談できない常用者の悩みや注意点などを常用経験者に取材しました。

◆身内に相談なんてとんでもない

自分が危険ドラッグ等の薬物を使用していることを知っている人はいますか? と言う質問に対し、ほとんどの場合、家族は上がらず、自分に薬物を勧めた人、あるいは自分が薬物を勧めた人のみと言うケースが大半を占めました。「家族にだけは知られたくない」という声も多く、危険ドラッグのみの常用者の場合、店舗や通販で手に入れやすいためか「身の回りに知っている人は誰もいない」という意見も多く、ストッパーになる人がいないケースが目立ちました。身内や医師・施設等に相談できない理由として「(薬物を使用している)仲間でないと信用できない」「(薬物を使用している)同士でなきゃどうせ分かってくれない」「何を言われるか分からない、ディスられたら余計やってしまう」「通報されたら怖い」と言う意見が上がりました。また「別にやめたいとは思わない」「どうでもいい。なるようになる」という意見も聞かれました。

◆「通報はしないという約束で、相談を受けています」

薬物依存者のリハビリ施設で働き、自らも薬物依存に苦しんだというAさんは、例え違法だったとしても秘密厳守にしないと誰も相談に来られなくなってしまうと言います。また、施設ではその施設でリハビリを受けた元依存者が多く勤務しているため、依存者の立場や気持ちも理解できる環境だと言います。

施設の外でも同じ依存症で悩む人たちによるサークルが複数あり、自分の辛かった過去や反省、依存を克服した人のアドバイスや、また将来への希望や宣言をシェアして、依存症と孤独に闘うのではなく同じ悩みをかかえる仲間と頑張ろう、という場作りをしていて、Aさんも三つくらいのサークルを掛け持ちしているといいます。もちろんほとんどのサークルが匿名での参加が可能とのこと。

◆相談するには決意と努力も必要

しかし、そのようなリハビリ施設やサークルにも問題があるというのは、リハビリ施設で依存症から回復したというBさん。「いちばん薬にハマりやすいヤツってどんなヤツか分かります? 昔ハマってたヤツですよ」。Bさんは施設やサークルの周辺には、薬を売ろうとする「売人」も多く居ると指摘します。「元々意思とか心が弱くて薬に走ったヤツらだからさ、そりゃあ良い客になる条件を備えてるわけ。しかも我慢させられてるんだから、ちょっと押せば誘惑に負けるヤツは少なくないよ」。もっともたちが悪いのは、施設の中に入り込んでいる場合だといいます。「最近は厳しい(施設も多い)から少ないと思うけど、悪意がある人たちにとっては、最高の狩り場だよ。しかも中毒者の気持ちをよく分かっているからね。カモはすぐ分かる」。

◆呼称やスローガンで追い込まれる可能性

財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センターが作成し、厚生労働省が普及運動を主催スローガン「ダメ。ゼッタイ。」や「始めたら、戻れない」。Aさんは「ダメ。ゼッタイ。なんて言われると、すでに中毒になってしまっている人間はとどめを刺されちゃうんです。もうおまえはダメだって烙印を押されたようなものです。」と訴えます。そう考えてしまえば、施設・病院はもちろん、身内にこそ告白できなくなってしまう。「危険ハーブ」と言う新たな呼び名が、救いを求めている人にとどめを刺さないことを願います。「薬物中毒は自己責任」という声も良く聞かれますが、確かに最初に手を出すのは本人の責任と言われても仕方がないかも知れません。しかし、中毒になってしまうともう自分の意思ではどうしようもない状態になってしまいます。そういう人も同時に救えるような政策が必要なのではないでしょうか。呼称やスローガン一つでも、だいぶ員仕様は変わります。例えば「有毒ハーブ」とするなど、身体に悪いことを訴えつつも、中毒者の人格否定に繋がらないような、相談しやすいような呼称の方が良いような気もします。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE)

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アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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