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普段から意識してますか? 小学生と考える「気を付けなければいけない誘拐の手口」

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

岡山県倉敷市の小5女児の監禁事件が記憶に新しいですが、今月に入って今度は横浜市中区の小2男児2人を誘拐したとして、未成年者誘拐の疑いで無職容疑者(76)を逮捕したという報道がありました。容疑者は前日に公園で遊ぶ2人を見つけ「明日、海に連れて行くから公園においで」と声を掛けており「誘拐ではない。一緒に海に行っただけだ」と否認しているといいます。監禁事件とは全く異なる事件で、ネット上では果たしてどこからが誘拐なのか、という疑問も上がっていますが、様々な可能性を意識しておくことが防犯に繋がると考え、横浜市の小学生200人と「気を付けなければいけない誘拐の手口」について考えてみました。

◆どんな手口なら誘拐されてしまう可能性があるか?

・ディズニーの年パスなら行っちゃうかも(小6女子)

・現金一億円とか(小5男子)

・受験に受からせてあげるとかいわれたら(小5男子)

・自分は行かないけど、イケメンだったらついて行ってしまいそうな子がいる(小6女子)

戦中戦後などは「お菓子を買ってあげるから」、その後「カブト虫をあげる」「ゲームを買ってあげる」など時代背景に伴って変化してきた誘拐の手口ですが、現代の小学生は「それほど欲しいものもない」「ものではつられないと思う」等の意見が多数出ました。

・警官の格好など信用できそうな服装だったらついて行ってしまうかも(小5女子)

・女の人だったら油断してしまう(小5女子)

・ちょっとでも知っている人だったら安心してしまいそう(小6女子)

・道をたずねられて、その行き先が近かったらついて行って教えてしまうと思う(小6男子)

「家族が事故に遭った、一緒に病院に行こう」などと告げられた場合、ついて行ってしまいそうだという小学生は多数いましたが、家族同士で「そういうときはどうするのか決めておけばよい」等、大半はそういう手口があると知っていれば十分警戒できるという意見でした。

・いきなり殴られたりスタンガンなどを使われて連れて行かれたらどうしようもない(小5男子)

・「死ぬのと誘拐されるのどっちが良い?」などと聞かれたら誘拐を選んでしまう(小6女子)

・凶器を持っていたら行かざるを得ない(小6男子)

もっともどうしようもないという意見が多かったのが、脅されたり強引に連れ去られるというケースでした。警察庁の発表では「甘言・詐言を用いて」「いきなり(車に)引きずり込む」という順に手口が多く、「暴行・脅迫」はかなり少ない状態ですが、だまされる小学生が減っていけば、今後増加すると考えられます。

◆実現可能な対策は何か?

略取・誘拐・人身売買事件の認知件数は、年間100〜300件の間で推移していて、そのうちの70%以上が、20歳未満の子どもを対象とした事件です。かつてはその大半だった身代金目的だけでなく、わいせつ目的の略取・誘拐も毎年一定数が報告されるようになりました。警察庁が平成15年にまとめた『子どもを対象とする略取誘拐事案の発生状況の概要』によれば、発生時間は子どもの下校時にあたる「15時~18時」が、発生場所は「その他道路上(通学路などで、学校付近以外の道路上)」が圧倒的に多くなっています。警察庁は、子どもに対する防犯教育・指導事項として次の4点を徹底すべきとしています。

(1) 登下校時には通学路を利用するなど、人通りの少ない場所では一人で行動しないこと。

(2)知っている人でも親(保護者)の了解なく、ついて行かないようにすること。

(3)万一連れ去られそうになった時は、大声を出すなど抵抗して逃げること。 なお、必要に応じ、防犯ブザー、防犯ホイッスル等を携帯し、活用することが望ましいこと。 子ども110番の家に逃げ込むこと。

(4)見知らぬ人に声をかけられるなど危険なことがあったら、親(保護 者)にそのことを話すこと。また、小学生になつたら、危険なことが あった時は、すぐに110番通報すること。

小学生の中には、防犯ブザーを遊びで鳴らしすぎて電池がなくなってしまっている生徒も多く見かけます。壊れているのに気付いていないケースもあります。度々チェックすることも忘れないようにしたいですね。

出典:子どもの略取誘拐事案を防止するための指導啓発の推進について

小学生の意見としては上記以外に次のようなものが上がりました。

・警官をもっと増やして街中に立っていてもらえば良い(小6男子)

・すぐに110番できるようにケータイにセットしておく(小6女子)

・すぐ信じないようにトレーニングが必要(小6男子)

・身体を鍛えておく(小6男子)

・暗い道をなくして曲がり道には全部鏡を付ける(小6女子)

・家族だけが知っている合い言葉を作っておく(小6女子)

中には「思いっきり蹴ってダッシュで逃げる」なんていう意見もありました。仕方のないことですが、危険について甘く見ている生徒も多いので注意が必要です。

◆普段から油断しすぎないように、話題に上げておく

先述の報告書では保護者、学校、教育委員会や地域住民に対しても以下の注意を促しています。

(1)子どもとともに通学路の点検を実施し、必要に応じてその見直しを 行い、登下校時は、多少遠回りでも人通りの多い安全な道路を通学路 として利用させること。この場合において、具体的に不安があるときは、集団登下校に配意すること。

(2)学校や自宅周辺の見回りを行うこと。

(3)なお、声かけ事案や変質者その他不審者の出没があったときは、子どもにその旨を教えるとともに、具体的な対処要領をその都度指導すること。

出典:子どもの略取誘拐事案を防止するための指導啓発の推進について

これら3点に加えて大事なのは、常に意識に上げておくことだと思います。大人でも同じですが、あらかじめどういう行動をとるべきか決めておくことで、焦って失敗することを防ぐことができます。事件があってから注意しても、被害児童にとっては手遅れです。今は、多くの先生が話題にしていますが、忘れているときこそ、危険だと言えます。普段から大人が先導して意識化していくことで、少しでも被害を減らすことが出来るのではないでしょうか。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE)

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アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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