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「ブラック企業大賞」に塾業界がノミネート〜教育現場でカネの話をするリスク

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授
(写真:アフロ)

10月27日、弁護士やジャーナリストによる「ブラック企業大賞」実行委員会が霞が関の厚生労働省で記者会見を開き、明光義塾を展開する明光ネットワークジャパンがノミネートしました。ブラックになりやすいといわれる塾業界について、その理由を考察してみます。

◆真面目な人ほど搾取されるボランティア

ボランティア界では「世界の平和は家庭の不和」という言葉があります。ボランティアにのめり込みすぎると、真面目な人ほど生活を犠牲にしてしまうという皮肉です。

ボランティアの定義は「やる気・世直し・手弁当」すなわち、自発性・社会性・無償性の三つが核となっているのですが、それにこだわりすぎると生活が壊れてしまう可能性があります。本来余裕がある人が、その余裕を社会貢献に差し出すのがボランティアなのですが、実際は誠意ある活動をしている人ほど、身を削っている現状があります。塾業界においても同じような現象が起きています。

◆教育現場でカネの話をするリスク

1つの背景に、「教育の現場でお金にこだわるのは教師としてどうなのか」という空気が醸成されていることが挙げられます。その結果、ちょっと時間外労働について等の話をすると、「あいつはすぐ給料の話をする」「カネじゃなくて生徒を見ろ」などという言説が飛び、それらが正当性を持ってしまうところがあるのです。もちろん一理はありますが、それが理由で待遇について主張することができず、主張しない人の所には仕事が集まりますから、抱え込んで潰れてしまう講師は後を絶ちません。

実際私もある大手塾で講師をしていた際、終電に間に合わないことも多かったのですが、時間外手当は一度も付いたことがなく、給与の未払いも泣き寝入りした経験があります。その時も「いまは受験前だし、それどころじゃない」「給与問題について話すことで、講師達の士気が下がるのではないか」と考えていました。

◆中からの改革も難しい

また、労働組合が出来るのを阻止する塾経営者も多く、ある大手塾では、労働組合を作ろうとした講師が受験前にも関わらず、幹部を含め全員解雇されるというケースもありました。経営者が強気に出られる理由としては、学生バイトで回している塾が多く、他の業界よりも見た目の時給が高い塾業界はアルバイトを希望する学生には事欠かないことが挙げられます。さらに、契約社員という雇用形態も多く、1人あたりの週の拘束時間を減らして人数を増やすことで、保険などの問題を回避し、解雇しやすい状態も作られがちです。

学習面に限らず、学校機関での不足を埋める場所として再注目される塾業界。未成年が直接接する業界だけに健全化が望まれますが、オーナー企業であれば中からの改革は難しく、いかに外側から介入するかが課題といえます。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE・教養の未来研究所)

アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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