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「学校休む?」「直前にすべきことは?」〜中学受験直前の過ごし方と大人の関わり方を考える

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

私は20年以上、中学受験の現場で教科指導やカウンセリング・コンサルティングに携わっています。この記事では、その経験をもとに直前期によくある質問に対する回答やアドバイスをまとめてみたいと思います。大前提として、私自身はいわゆる「偏差値教育」や「詰め込み型」と称されるような学習には反対なのですが、この時期、目的達成のために、能動的に、集中して取り組むことは受験生にとってプラスの経験になると考えています。

●直前期は学校を休んだ方が良い?

この質問は毎年とても多く、特に模擬テストなどで志望校の合格判定が出ていない受験生は、学校を休むことでまとまった時間を確保し、社会科や理科の暗記分野などで一発逆転を狙います。地域にもよりますが、第二次ベビーブーマーの保護者は、自身の「受験戦争」体験から学校を休ませようとする傾向もあり、「本気なら学校に行っている場合ではない」というような意見も聞かれます。

学校を休ませた方が良いかどうかの判断規準は以下の三つが考えられます。

(1)学校の担任やクラスとの関係は大丈夫か

休むことで関係が悪くなり、それが心理的なプレッシャーになる可能性はないか。

(2)苦手分野は直前の詰め込みでカバー出来るか

やるべきことが、社会科や理科の暗記分野、国語の漢字など短期間でマスター出来る内容か。

(3)生活パターンが変わることで負担がないか

小学生は規則正しい生活リズムがある場合が多く、一度崩れると学習にも影響する生徒も。

以上を吟味した上で受験生本人の意志を尊重して決定するのが良いのですが、小学校においては「受験だから休んでも良い、というのは他の生徒に示しが付かない」「受験する生徒だけ特別なのはおかしい」という声が聞かれます。またそのような意見を受けて、最近の学習塾や予備校では無条件で「学校は休ませないでください」と指導することになっている場合も多い。受験後の教え子たちを見ていると、悔いの残らない受験体験にできるかどうかは、その後の人生の捉え方や、自信、将来の選択に影響していると感じます。自らが良く考えて方針を決定することが、意義のある受験体験に繋がるのではないでしょうか。

●直前にやった方がいい教科や勉強法は?

算数の大問解答力や国語の文章読解力などは一朝一夕で身につくものではないですが、逆に言えば、それ以外の分野は直前まで伸びる可能性があります。また、受験本番の環境に慣れておくことや「型」を作っておくことも効果的です。限られた時間を最大限に有効活用するために、以下の三つが考えられます。

(1)過去問から暗記で得点できる分野を抽出し、出題方法に合わせて取り組みやすいものから暗記する

年号は出るか、漢字指定はあるか、文法問題は出るかなどを確認。

フラッシュカードや一問一答、線を引きながら繰り返し読む、ひたすらノートにまとめるなど。

(2)朝早く起きて、長文読解や計算問題を練習する

本番の入試は早朝、算国から始まる。朝は頭の回転が遅い受験生も。

慣れることで、スピードを確保することとケアレスミスを減らせる可能性も。

(3)受験校の過去問題を確認し、回答する順番をシミュレーションする

本番で最も多い失敗は「時間が足りなかった」。

解く前に判断して、解けない問題は後回しにする練習は効果的。

このような勉強法で、本質的な学習効果は望めませんが、直前期になっても「諦めずに」「効果的なことを精査し」「できることを選択し」「やり抜く」という経験は財産になると考えます。コンテンツ自体やテストの点に直結することだけが価値ある勉強ではない、という意識を周りの大人が持っているかどうかが、「方法への気づき」や「全ての経験を価値に転換する視点」を学ぶ切っ掛けになります。

●大切なのは周囲の大人の価値観と関わり方

中学受験を中途半端に経験することによって「無力感」や「挫折感」を抱えたまま大人に成ってしまうケースも散見します。そもそも、最初から能動的に中学受験をしたい、と言い出す小学生は多くはありません。家庭の方針によって情報を与えられ、そういう選択をしている場合が多いと感じます。もちろん、大いなる目標を見つけ、努力し、それが花開いて豊かな人生を送っている生徒も数多く見てきましたが、残念ながら逆に見えてしまうケースもあります。切っ掛けはともかく、取り組んできたそれぞれの受験を、人生において価値のある経験にしてあげられるようにサポートすることが、関わる大人の責務ではないかと思います。(矢萩邦彦/知窓学舎・教養の未来研究所)

アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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