Yahoo!ニュース

芦田愛菜さん最難関私立校合格で考える、中学受験に必要な力と期間

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授
(写真:山田勉/アフロ)

子役として活躍していた芦田愛菜さんが都内の最難関校に合格したことが多くのメディアで話題になっている。また、ドラマ『下剋上受験』をきっかけに、新たな層からも中学受験に注目が集まっている。中学受験は「3年以上の準備期間が必要」「受験1本に絞り、予備校に通わなければ合格は難しい」といわれるが、私が今まで直接指導した中でも半年ほどの受験勉強で合格したケースや、様々な課外活動と両立しての合格も決して少なくはない。良い機会なので、中学受験にまつわる偏見と可能性について書いてみたいと思う。

●スポーツや習い事と中学受験は「両立」できないのか

単刀直入に言えば、学校外での活動と中学受験勉強は多くの場合両立できる。ではいったい何が「両立できない」と言われているのかというと、予備校や進学塾のカリキュラムと両立できないのだ。中学受験対策を謳う多くの大手塾が、平日に四教科の授業を行い、土日にテストや特別講座がある。そのため5、6年生は週5日〜6日塾に通うことになる。そうなるとスケジュール的に他のことをやる時間がとりにくい。つまり、塾に合わせるという前提が両立を難しくしているのだ。

小さい塾や個人塾は融通は利く場合が多いが、内容や持っている情報の面で心配だという声も聴く。この点に関しては、中学受験をちゃんと知っている講師が担当しているのであれば問題は無い。塾が持っている情報も、学校からの情報と過去問題やネットから手に入る情報のほかに有用なものは多くはない。大事なのは、生徒一人一人の状態を把握して、適切に指導することであって、それはデータではなく、個々の講師の情熱とスキル、そして相性による。

もっとも、両立するためには前提として基礎的な学力が必要であることは間違いない。しかし、ここにも偏見がある。この基礎的な学力が無ければそもそも、塾のカリキュラムに乗って物量をこなしたところで学習効果はあまり望めないのだ。

●受験勉強に必要な「基礎的な学力」

まず最も大事なのが「論理的な国語力」言い換えれば、正確に日本語を読み書きする能力である。これがすべての教科の基礎になる。教科書や問題文を正確に読めなければ、当然のことながら学力向上は難しい。多くの生徒がここで躓いているにもかかわらず、教科を分断した集団授業ではその問題解決が難しく、置いて行かれたままカリキュラムだけが進むことになる。

次に大事なのが、「計算力」と「図形思考力」。これらは個人差があるものの、正確さとスピードを身につけるにはある程度訓練が必要である。計算が遅いという理由で、いつも問題を最後まで解くことができず、思考力を高めるところまで行かない生徒も多い。集団授業では置いて行かれることが多く、遅い分実際に解く問題量が少なくなるので、ますます差がつくことになる。

これらの力をつけるのは学校でも家庭でも、その他の習い事でも可能である。意味を理解し、意識して正確さを心がけるだけでも効果がある。そして、これらの基礎力があるのであれば、集中して短期間で受験勉強をすることは十分に可能である。芦田さんの場合、大人に混じって仕事をすることや、台本などを繰り返し暗唱することなどで、論理的な国語力が養われていたのではないかと考えられる。

●鍵を握る「タイムマネジメント」

「集中して」「短期間で」と簡単に言ったが、実はここが最も難しい部分でもある。多くの小学生は、時間管理が苦手である。目標から逆算して予定を立て、それを着実に実行することができない。そもそも現実的で明確なヴィジョンを持っている場合が少ないので、目の前の受験や勉強に結びつけてやるべきことを逆算することも難しく、しかも遊びたい盛りである。同級生やメディアからの誘惑も多い。中学受験が「塾に行かないと合格は無理」あるいは「親子チームで闘う」といった言われ方をするのはそのためである。

よく中学受験の現場では「精神年齢の高さ」について取り沙汰される。精神年齢が高いほど、自分の将来へのヴィジョンや、何事もやらなければ進まないことを理解できる。自分の弱みを冷静見つめてに受け止めることもできるようになる。棚ぼたや一発逆転の夢に賭したりしなくなる。つまり、精神年齢が高いほど合格しやすくなるのだ。

芦田さんの場合、単に大人と対話することが多かったことも起因していると思うが、決まった時間で映画や番組を収録しなければ成らない責任を伴うシビアな場が精神年齢に大きく影響し、またタイムマネジメント力も養ったのではないかと考えられる。ようするに、自分が、あるいは保護者や講師などのマネージャーがモチベーションを保ちつつしっかりタイムマネジメントをすることで、塾に頼らずとも受験勉強をすすめることは可能だ。もっとも、どれだけ精神年齢が高くても、小学生が本人だけの力で闘うのは難しい。マネジメントには適切な指示が必要で中学受験を知っている大人が介在することが望ましい。中学受験の場合、試験範囲や出題傾向は多岐にわたり、学校の教科書には収まりきれない現状があるためだ。

●中学受験に短期間で合格するために

以上のことをまとめると次のようになる。

中学受験に短期間で合格するために必要なこと

・基礎的な学力(論理的な国語力・計算力・図形思考力・集中力)があること

・志望校合格のためにやるべきこと(試験範囲・出題傾向)を知ること

・タイムマネジメント(期間内での学習計画と管理)ができること

芦田愛菜さん合格に影響したと考えられること

・大人と仕事をすることで精神年齢が同世代よりも高くなったのではないか

・映画や番組制作に関わることでタイムマネジメントに慣れていたのではないか

・台本暗記などが集中力や記憶力の向上に繋がっていたのではないか

学ぶ準備は塾でなくても可能だし、準備さえできていれば選択肢は増える。両立を阻むもう一つの要因は、志望校との両立だ。偏差値や大学進学実績ばかりに目が行きがちだが、2020年から始まる学習指導要領の改訂で今までの方法では、受験に対応できなくなる可能性もある。しっかりと生徒に合った内容の学校を選ぶことで、両立はしやすくなるはずである。周囲の大人には、受験生の可能性を潰さず、多くの選択肢を持ってサポートする意識が望まれる。(矢萩邦彦/知窓学舎教養の未来研究所Terra Academy

■関連リンク

→【宝槻泰伸×矢萩邦彦】対談1「これからの教育を考える」~興味開発で想像力を育む探究型学習の可能性

→【宝槻泰伸×矢萩邦彦】対談2「中学受験を捉え直す」~合格・進学をゴールにしない新しい選択

アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

矢萩邦彦の最近の記事