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謝罪しても東京五輪の可能性はない!猪瀬知事と東京都に大逆転シナリオでもあるのだろうか?

山田順作家、ジャーナリスト

■ついに誤りを認めて謝罪した猪瀬直樹・都知事

不適切発言で、ほぼ絶望的になった2020年東京五輪。猪瀬知事は、4月30日になって公式に謝罪会見をしたが、驚いたことに、まだ招致活動は続けていくという。今回のことを教訓にして、これからも頑張るというのだ。

しかし、そんな無駄な頑張りは、もうしてほしくないと思う。これ以上やっても税金の無駄遣いで終わるなら、もっと違うことに使ったほうが、東京、いや日本にとってずっといいはずだと、思うがどうだろう。

ところが、そういう意見を表明すると、最近は「なにを言っているんだ」と叩かれる。アベノミクスでもそうだが、最近は批判するとすぐに叩かれる。“日本は素晴らしい国。その日本を批判するなんて、オマエは日本人なのか”というわけだ。はっきり言ってバカらしくて相手にしたくないが、批判してくる方のなかには、よくわかっていない方もいるので、再度、この問題を書いておきたい。

■謝罪は言い訳がましく、表面上の謝罪にしか聞こえない

まず、今回の猪瀬知事の謝罪は見苦しい。はっきりと謝罪し、IOCに対して、またトルコに対して「申し訳なかった」とストレートに伝えればいいものを、言い訳をしている。

「ほぼインタビューは終わってですね、終わりかけて、招致バッジをお配りしまして、それから、まあその、最後立ち上がるところで、しかしイスラム圏初ってそんな意味あるのかなあっていうふうな、ちょっと感想を僕は述べました」

これが本当であったとしても、話したことには変わりないのだから、弁解にしか聞こえない。さらに、猪瀬知事は「東京のPRをほとんど9割9分、9割8分、東京のPRをしていたわけで」とも言った。しかしこれは、それなら残りの1分、2分でイスラムを誹謗したこと言っているのと同じで、イスラムを見下したことを認めているのと同じだ。

それなのに、猪瀬知事は「まだこれからサンクトペテルブルクとかね、いろいろ行きますから、どういう発言を特にしたらいいのかということをよく考えていきたい」などと続けている。トルコ人は親日と言われるが、ここまで形式上の謝罪しかできない人間を見たら、さすがに怒るだろう。猪瀬知事は謝り方を知らない。会見を開くなら、その前にイスタンブールの市長および関係者に直接連絡して謝り、その後会見を開いて「先方に深く陳謝した」と言うべきだ。そうすれば、記者の質問は、「どのように謝ったのか?」「先方はなんと言っていたのか?」になり、こんな言い訳がましいことを言わずにすんだのだ。

■英国のブックメーカーではなんと東京が一番人気

ところでこの騒動を知って、喜んだ人間がいる。私のロンドンの知人だ。彼は、ブックメーカー「ウィリアムヒル社」の五輪招致レースで、今年の1月にイスタンブールを1000ポンド買った。じつは、このとき猪瀬知事がロンドンを訪れ、東京招致のアピール会見を開いたせいか、東京のオッズは急上昇して1.67倍の一番人気になっていた。

「そんなバカな話はないと思った。ウィリアムヒルは日本語サイトも開いていて、日本人にもセールスしているから、わざとオッズを下げたとしか思えない。それで、ここはチャンスと見た」と、彼は2番人気に落ちたイスタンブールを買ったのである。ちなみに、このときのイスタンブールのオッズは3.5倍、マドリードのオッズは4.0倍だった。

2020年オリンピックは、2012年5月時点では、以下の5都市が立候補していた。そのときのオッズは次のとおりだ。このうち、ドーハとバクーが降り、マドリードがスペインの経済低迷から敬遠されると、押し出されるかたちで、東京に人気が集まった。しかし、1.67倍は明らかに付けすぎだった。

東京(日本) 2.62倍

マドリード(スペイン) 3.50倍

イスタンブール(トルコ) 5.00倍

ドーハ(カタール) 5.50倍

バクー(アゼルバイジャン) 9.00倍

■投票権を持つIOC委員のうち日本人はたった1人

これまで、五輪開催都市は、IOC委員の思惑で決まってきた。そのため、裏工作、買収など数々のスキャンダルに見舞われた。その結果、2001年に就任したジャック・ロゲ会長(ベルギー人)は、投票による公正な選定プロセスを採用せざるをえなくなった。

とはいえ、オリンピックは元々が欧州貴族の社交の場だから、圧倒的に欧州の思惑が反映される。現在、開催都市決定の投票権を持つIOC委員は111人で、その内訳は欧州47人、アジア24人、パンアメリカン20人、アフリカ15人、オセアニア5人。あとは各競技連盟の会長と選手委員が各15人だ。

これらの委員がどんな人物で、どんな背景を持っているか? また、どんな性向を持ち、どんな人脈を持っているか? ネット検索でもだいたいのことがわかるから、興味がある人は調べてほしい。

そうすれば、私の知人がイスタンブールにベットし、私がこれまで「東京はいくら頑張っても可能性が低い」と言ってきたことがわかると思う。ちなみにIOC委員のうち日本人は、JOC会長の竹田恒和氏ただ1人。しかも、日本のお家芸の柔道を含め各種競技団体のトップに日本人はゼロである。

■レスリングが除外され近代五種が生き残る

よく知られているようにIOCの公用語はフランス語と英語だ。英語はともかく、フランス語が入っていることは、IOCがいまだに欧州至上主義で運営されていることを示している。そんななかで、欧州の委員で東京を押してくれそうなのは、先日来日した、評価委員会のクレイグ・リーディー委員長(イギリス人)ぐらいだろう。

「リーディ氏はイギリスオリンピック委員会の会長を務め、去年のロンドンオリンピックの招致活動のキーマン。そのため東京の関係者とも交遊が深い」(スポーツ記者)ので、東京支持の可能性があるという。

しかし、ほかの欧州委員は、日本にはほとんど関心がない。

これは、先日のIOC理事会で、レスリングが除外されたことを見れば明らかだ。彼らが興味を持つ種目しか、オリンピックでは行われないのである。だから、「除外確実」と見られていた近代五種が生き残ってしまった。

日本人にも馴染みの深い前IOC会長のサマランチ氏の息子サマランチ・ジュニア氏が、父親の跡を継いで、現在IOC理事に就いている。彼は、国際近代五種連合の副会長も務めている。そうでなければ、たった14人の投票で決める競技種目に近代五種が生き残れるわけがない。

■マドリードは近代五種と引き換えに降りたという噂

じつは、これには裏があるという話も伝わっている。「マドリードが2020年五輪招致から降りることと引き換えにした」というのだ。

「マドリード五輪の開催はサラマンチ・ジュニアの悲願。父親の遺志でもありました。しかし、2012年、2016年と続けて立候補したものの、ロンドン、リオデジャネイロに敗れ、3回連続の今度こそと意気込んできたのです。

それで、昨年、当時大本命とされたローマが財政危機を理由に立候補を断念すると、欧州票をまとめようとしてきました。ほぼ内定の2024年のパリ五輪とバーターするかたちでも支援を取り付けてきたのです。しかし、スペイン経済はイタリア同様ボロボロで五輪開催を反対する声が強く、近代五種存続で花を持たせたというわけです」

■欧州が支配した世界から新興国へという流れに

オリンピックは商業主義に毒されていると批判されることが多い。しかし、それは、アメリカのスポーツビジネスにおける商業主義とは違っている。欧州が世界を支配していた19世紀までの世界観が大きく反映されている。つまり、英仏中心にスペイン、ポルトガル、イタリア、ドイツ、ロシアなどの旧列強が支配した世界のなかで、オリンピックが持ち回りで開催されることである。その例外は、東京、ソウル、北京ぐらいだ。

だから、たとえば、アフリカ、南米などの票は、旧宗主国との連携のなかで投票される。日本はそのなかで戦うのだから、よっぽど強いアピールポイントがなければ勝てる可能性はない。

ただし、欧州中心といっても、グローバル経済が進展する今世紀、欧州貴族、欧州人の意識も大きく変わっている。発展する新興国、アラブ、東南アジア、アフリカなどに目が向いている。だから、ドーハやバクーなどが、今回も立候補の動きを見せたのだ。

その意味で、今後は、上記2都市以外に、ヨハネスバーグ(南アフリカ)、アスタナ(カザフスタン)、ドバイ(UAE)、シンガポール、バンコク(タイ)、ジャカルタ(インドネシア)などの名前が挙がってくるだろう。

これらの発展する都市と比べて、いまの東京はどれほど魅力があるだろうか? 停滞する日本経済のなかで東京は昔の魅力をどんどん失っている。

■東京は「旅行者」にとって魅力のある都市NO.1

世界最大の旅行サイト「トリップアドバイザー)の「旅行者による世界の都市調査」では、世界40都市のなかで、東京は第1位である。交通の便や治安、清潔さなどに関する10項目の質問のうち、東京は5項目で1位に選ばれている。以下がその順位だが、今回のライバルのイスタンブールは、18 位と東京よりはるかに評価が低い。

(1)東京(日本) 7.92 (2)シンガポール 7.73 (3)ミュンヘン(ドイツ) 7.56 (4)ウィーン(オーストリア) 7.48 (5)ストックホルム(スウェーデン) 7.46 (6) ドブロブニク(クロアチア) 7.38 (7)ソウル(韓国) 7.35 (8)ドバイ(アラブ首長国連邦) 7.33 (9)チューリッヒ(スイス) 7.32 (10)コペンハーゲン(デンマ ーク) 7.29 ……(18)イスタンブール(トルコ) 7.10  *10段階評価の指数による順位2012年

東京の高評価は誇るべきことだが、あくまで観光客の人気度で、投資、起業、教育、居住環境、物価などを考えた都市の総合力ではない。また、指数を見ると、各都市ともそれほど大きな差はない。つまり、いまや世界の都市は、どこに行ってもほとんど差のないサービスとエンタテイメントがあるようになったのだ。

もう一つ、『エコノミスト』誌の調査部門であるエコノミスト・インテリジェンス・ユニットとアメリカのシティグループによる都市ランキングがある。

これは、以下の8項目を数値化して総合評価したもの。「経済的強さ」(全体に占める比率30%)、「人的資本」(同15%)、「行政の効率性」(同15%)、「金融の成熟度」(同10%)、「グローバル・ア ピール」(同10%)、「物的資本」(同10%)、「環境・自然災害リスク」(同5%)、「社会・文化の特性」(同5%)。

この調査によると、東京は第6位である。

(1)ニューヨーク71.4  (2)ロンドン70.4  (3)シンガポール70.0 (4)パリ 69.3 (4)香港 69.3 (6) 東京 68.0  (7) チューリッヒ 66.8  (8)ワシントンD.C.  66.1 (9) シカゴ65.9 (10) ボストン64.5  *フルマーク100ポイントによる順位2012年版

■東京都と猪瀬知事に大逆転シナリオがあるのか?

残念ながら、猪瀬知事の頭の中には、このような世界の新しい地図はインストールされていないようだ。日本から世界を見た「旧世界地図」しかないと思える。世界はグローバル化し、多文化主義共生の時代に入っている。政治家なら、どのように心の中で思っていようと、このグローバル時代に合わせた発言をすることが要求される。それでこそ、東京は輝きを放つのだ。

せっかく謝罪したのだから、ここで「撤退宣言」すれば、日本と東京の国際評価は大きく上がるだろう。そうして、親日国トルコは日本におおいに感謝するだろう。このまま、勝算なき戦いを続け、最終的に税金をドブに捨てるのはもったいないと思うが、みなさんはどうお考えだろうか。

ただし、東京都と猪瀬知事に大逆転シナリオがあり、 すでにIOC委員の何人かの約束を取り付けているのなら、私のこの意見はなかったことにしてほしい。

いずれにせよ、今年の9月7日、アルゼンチンのブエノスアイレスで行われるIOC総会で開催都市が決定する。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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