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米国がデフォルト? ありえない。煽られた危機を本気で心配するのは無駄だ!

山田順作家、ジャーナリスト

■タイムリミットは10月17日

デッドシーリング(債務上限)のタイムリミットが迫っていて、「大変なことになる」と騒がれている。10月17日がそのタイムリミットだから、もう10日もない。

米財務省は、デフォルト(債務不履行)が発生した場合、数十年間続きかねない「壊滅的状況」となる可能性があると警告した。

なにが起きるかというと、財務省証券(米国債)が発行できなくなるので、米国債は暴落、同時にドルも株価も暴落して「トリプル安」になり、世界はリーマンショック以上の危機に陥るというのだ。

しかし、そんなことはありえない。オバマ大統領も共和党もぎりぎりまで意地を張り合い、最終的には回避される。多分、15日、あるいは前日の16日には、合意が成立するシナリオになっている。

民主党も共和党もバカではない。本当にデフォルトさせたら、民主党、共和党双方の議員はほとんどが、次の選挙で職を失うだろう。

■議会の対立は12回目で、年中行事

なにしろ、これは史上初のことで、世界覇権国、基軸通貨国が破綻するのだ。世界中の金融市場がパニックになり、株式も債券も叩き売られるから、自分の主張と引き換えに、そんなリスクを取る議員などいない。

実際、今年の1月にも、ファイナンシャルクリフ(財政の崖)問題があり、ぎりぎりで回避された。また、議会の対立は、これまで計11回も起こっていて、そのたびに問題は土壇場で回避されてきた。だから、こうした対立は季節イベント、年中行事と思えばいいのだ。

実際、ヘッジファンドはそんなことは想定していない。彼らが使っているトレーディングシステムの中に、「米国債のデフォルト」という要素は組み込まれていない。

そんなデータはないし、シミュレーションもできない。

■オバマケアはすでに決着している

今回の対立は、オバマケアをめぐってである。

オバマケアは国民皆保険を目指すものだが、共和党(とくにティー・パーティ)は、それは個人の選択の自由の侵害だと反対する。アメリカに未保険者は5000万人いると言われており、彼らに選択の自由があるとしたら、それは保険に入らないことしかない。

しかも、オバマケアはすでに3年半まえに成立しており、最高裁の違憲裁判でも昨年合憲との判定が下されている。だから、共和党は最終的に妥協する。なにと引き換えに妥協するかだけが問題だ。 

野党が予算案と直接関係のないオバマケアを盾に取って、政府に予算執行をさせない。これは、国家機能を麻痺させることだと共和党もわかっているので、どこかで引くのだ。 

■ドルを刷り続けたのでバブルになった

本当に重要なのは、オバマケアではない。財政支出を削減せず、QE3というドルを刷り続ける金融緩和を、アメリカが止めないことである。この点では、財政削減せよという共和党のほうが、国民にとって正しい。 

不況から脱出するためにカネを刷るという、時代遅れのケインズ政策は、現在のリスクマネー中心の金融ではバブルを起こすだけで、実体経済にはまったく効かない。マネーは、不動産、株、実物などの資産に向かうだけだ。

NY株がリーマンショック以前より高いなどということが、ありえるほうがおかしい。アメリカの主要都市の不動産価格も、リーマンショック以前より高くなっている。つまり、バブルで、アメリカの実体経済をまったく反映していない。これは、日本のアベノミクスもまったく同じだ。

■アベノミクスが続くとどうなるのか?

それなのに、なぜ続けているか? それは続けないと、FRBの仲間であるウォール街が困り、政財官の複合体自体が困るからだ。FRBがこれをやっているから、ECB(欧州中央銀行)もやり、日本もアベノミクスに突入した。

はっきり言って、ケインズの時代には、リスクマネーによる金融経済は存在しなかった。デリバディブも、システムトレーディングも、ヘッジファンドもなかった。このように金融の主役がまったく変わったのに、旧態依然のカネを刷ってバラまく政策をやり続ければ、世界はもっと大きな危機に陥るだろう。

いずれにせよ、個人投資家は米国のデフォルトなど心配する必要はまったくない。それより、QE3がいつ終わるか、アベノミクスが続くとどうなるかを考えたほうがいい。とくに、この先、FRBの金融緩和が出口戦略になったとき、円を刷り続けられるのかどうか? もし、刷り続けらえないならどうなるのか? その辺を考えたほうがいい。バブルは終わるのだから、そのときどうするかだ。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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