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「アマゾンなど海外ネット配信に消費税を課税」を喜んでいる“情弱”にモノ申す

山田順作家、ジャーナリスト

■「日本で商売しているのだから当然」でいいのか?

この4月4日、政府税制調査会の部会が、ネットを通じて海外から国内に配信される音楽や電子書籍のデジタル配信に、消費税を課税する方針を打ち出した。その結果、おそらく来年から、アマゾンなど海外からコンテンツを配信販売している会社は、日本政府に消費税を納めることになる。

この措置に、ネットでは「やっとか」「日本で商売しているのだから当然」などと賛同の声が上がっているが、私には悪い冗談としか思えない。なぜなら、これもまた増税であり、ネットのサービスにどうやって課税していくかということの根本解決になっていないからである。さらに、将来、消費税が10%、15%となっていったら、どうなるかという視点も完全に抜けているからだ。

このことはすでに、昨年、この欄に、“「アマゾンの消費税逃れを許すな」という主張は完全に間違っている”というタイトルで書いたが、ここで改めて、もう少し踏み込んで書いておきたい。

■日本の措置は欧州委員会の新協定のパクリか?

音楽や電子書籍などの海外からのネット配信に課税することは、現在の税制ではできないことになっている。なぜなら、もともと税制というのは、各国で完結しているシステムだからだ。したがって、各国の税制は、国内しか想定してこなかった。それが、ネットが進展し、サービスまでもが国境を越えて提供されてしまうようになったので、今回のような措置が必要になった。

電子書籍に関して言うと、すでにEUでは今回の日本と同じような措置を昨年決め、2015年から実施することになっている。だから、今回の日本の措置は、欧州委員会のパクリと言えるものだ。

もともとEUでは欧州委員会の協定で、電子書籍の売上金に15~20%程度のVATを “内税方式”で課してきた。しかし、ルクセンブルクやフランスはこの協定を守らず、電子書籍には軽減税率を適応してきた。ルクセンブルクは3%、フランスは7%だから、アマゾンやアップルはルクセンブルクに法人登記をして、他国の15~20%のVATを払わず、コンテンツを欧州のユーザーに安く提供してきた。

しかし、新協定では法人登記国から購入者(ユーザー)の居住国のVAT率を課税する方式に切り替えることになった。つまり、この措置によって、EU域内では、各国のローカル電子書籍ストアの間で生じていた大きな価格差がなくなり、電子書籍の価格は上がることになった。

これは、ユーザーから見れば増税で、また、電子書籍の進展を阻害することにもなる。なぜなら、フランスの7%というのは、自国コンテンツを守るためでもあったからだ。フランスは、電子書籍にかぎらず、書籍を「文化財」としてみなして軽減税率を適用してきたからだ。

■軽減税率か非課税のほうが業界もユーザーもトク

日本の場合も同じで、アメリカに法人登記があり、サーバーもアメリカにあるアマゾンには、消費税を課すことはできなかった。しかし、この状況が世間一般に周知され、さらに消費税が増税されることになると、内外格差が日本の配信業者に不利になることから、「アマゾンに課税しろ」という声が高まってきた。

国内の配信業者や出版社などでつくる団体は声明を出し、「不公平だからアマゾンなどにも課税してほしい」と、政府に要望してきた。

しかし、私は、そんなことより、本当にアマゾンなどに対抗して、競争条件を一定にしたうえで自国文化を守りたいなら、やることが違うと思った。つまり、業界が政府に要望すべきなのは、「フランスのように書籍を文化財にして軽減税率を適用するか、場合によっては消費税を非課税にしてしまう」ことなのだ。そうすれば、コンテンツの値段が消費税分上がることはないし、ユーザーにとっても利益があるからだ。

ところが、“ 情弱”には、このことがわからない。

■VAT税率が高すぎて電子書籍が進展しない

電子書籍は北米とイギリスなどの英語圏では大きく進展したが、欧州ではそれほど進展していない。それは、各国のVAT率に差があることも大きい。電子書籍を文化財と捉えず、ただの消費材と捉えれば、高額のVAT率が適応されるからだ。

たとえば、フィンランドでは電子書籍のVAT率は24%だから、他国に比べてほとんど売れない。もし、電子書籍を進展させたいというなら、こんな高率のVATを課すべきではないだろう。

ドイツでも電子書籍のVAT率は、電子書籍の進展を大きく阻害した。ドイツでは電子書籍をソフトウェアのダウンロードと同じとして、紙書籍に対する7%ではなく19%の税率を適用した。それなのに、紙書籍と電子書籍は同じ書籍だから同一価格でなければならないという法律も適用された。そのため、ドイツの電子書籍市場は当初、まったく立ち上がらなかった。なぜなら、ユーザーは紙書籍と同じ価格を電子書籍にも支払う必要があり、かつ2倍以上も税金を取られてしまうからだ。

今回、日本の消費税は8%になった。しかし、今後は10%になり、さらに財政状況から、近い将来には15%、20%になるだろう。そうすると、いったいどうなるのか? 今回の「海外配信にも消費税を課税」措置を歓迎している“情弱”たちは、よくよく考えたほうがいいと思う。

■これは新たな「非関税障壁」ではないのか?

それからもうひとつ、はたしてある国が、国外にあるサービス提供企業に対し、納税の義務を課すことなどできるのか?という疑問もある。

もし、それができるなら、こうした課税は「輸入関税」と同じ意味を持ってしまうからだ。つまり、オンラインコンテンツの消費国課税、あるいはユーザーの居住国課税というのは、新たな非関税障壁を築くのと同じになってしまう。とすると、税率が上がれば上がるほど、その国の経済は閉鎖的になり、自由貿易、グローバル経済から取り残されてしまうのではなかろうか。

しかも、このような税の徴収はテクニカルにはどうやってできるのだろうか? たとえば、ユーザーの居住国や消費国をどうやって確定するのか? 日本人(日本居住者)がシンガポールで、日本のアマゾンのサイトから電子書籍を購入したときはどうなるのか? など、この辺のことは詳しくないので、詳しい方に教えていただきたい。日本居住者でない人間が、日本のアマゾンのサイトで購入した場合は、消費税はかからないのか? この辺のこともよくわからない。

今回の消費税の徴収は、次のようになると報道されている。

《海外から日本の個人向けにネット配信する事業者に対し、「納税管理人」と呼ばれる税金支払いの代行者の設置を日本国内で義務付け、税金を徴収する。》

この代行者とは、具体的にどんな者を指すのか? その辺もわかる方がいたら教えてほしい。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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