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「アマゾンが出版市場を支配する時代」到来に、気分が落ち込んでしょうがない

山田順作家、ジャーナリスト

■進展しているのは電子出版だけ、しかしまだ6%

まず、出版科学研究所発表の5月の出版物推定販売金額が、やはりひどい。その額は1125億円(前年同月比5.0%減)で、内訳は書籍が6.0%減、雑誌が4.2%減。これは、出版市場が予想通り毎月縮小しているのを端的に示している。

出版市場の縮小は、ピークの1996年以来ずっと続いているのでいまさら驚くことではない。しかし、昨年(2013年)の出版販売額は1兆6823億円だから、1996年比で約1兆円も消失してしまったことを思うと、この業界にいる人間として、やはり慄然とする。

次はインプレス総合研究所が発表した2013年度の電子出版市場規模。その額は1013億円で、初めて1000億円の大台を突破した。内訳は電子書籍市場が前年比28.3%増の936億円、電子雑誌市場が同97.4%増の77億円。電子出版市場が予想通り成長していることがわかる。

そこで、この電子出版市場が出版市場全体に占める割合を出すと、約6%となる。電子電子と言っても、その割合はたったこれだけで、まだ紙の時代が続いている。

■5年後の電子出版の市場割合は2割に

では、この先はどうだろうか?

インプレスの予想では、電子出版市場は、2018年度には2790億円程度になるという。それでは、2018年度の出版市場全体はどうなるだろうか? これまで出版市場は毎年500〜1000億円減少してきたので、最小の500億円として今後5年間で2500億円減少するとすれば、約1兆4300億円となる。そこで、このときの電子出版の割合を出すと、約19.5%(約2割)。

なんと、電子出版はここまで出版市場の中核的な役割を担うようになるわけだ。

この約2割という比率は、じつはアメリカではすでに達成されている。「BookStats」という出版市場のレポートによれば、2013年度は電子書籍バブルの崩壊が懸念されたが、市場は2割規模を維持し、まだまだ伸びているという。

となると、日本も5年後、このアメリカの出版市場に近づくことになる。ただし、日本とアメリカが決定的に違うのは、日本市場だけが人口減と経済衰退により縮小を続けていることだ。

■これからはアマゾンに支配される時代に

いずれにせよ、日米ともに、電子出版の進展で出版ビジネスが構造的な転換を遂げているのは間違いない。紙がじょじょに電子に置き換わっていく流れは止まらない。

しかし、そうなると既存の出版界にとって大きな問題が生じる。それは、電子出版市場というのは、いまやアマゾンがほぼ支配しているということだ。紙の本を売るのもアマゾンの占める割合は大きく、電子となれば売上の7、8割がアマゾンのプラットフォーム(Kindle Store)を通しての販売になっている。

つまり、電子の割合が増せば増すほど、出版社も著作者もアマゾンの言うことを聞かざるをえなくなる。

電子出版の進展で販売の新しいチャンネルを獲得したとしても、たとえばそれが全売上の5割を超えれば、出版社経営はアマゾンに依存することになり、独自性を失ってしまう。しかも、電子書籍は再販商品ではないので、価格決定権もない。アメリカでもエージェンシーモデルは司法により事実上否定(実際は談合を違法とされただけ)されている。

これは、「出版社vsアマゾン」という問題だけではなく、文化としての出版を特定企業によって支配されるという問題でもある。

■電子書籍がこれ以上普及してほしくない

現在、アメリカではビッグ5(出版大手5社)の一つアシェットがアマゾンと激しく争っている。『ニューヨークタイムズ』紙などの報道によると、アマゾンが販売協力金の増額と販売価格の引き下げを要求してきたことが発端という。販売協力金というのはリアル書店でもあるが、アマゾンの場合、アシェットが拒否すると、予約ボタンを停止するなどの報復措置が取られ、アシェットの出版物はアマゾンで買えなくなった。

日本の出版社もアマゾンに対して危機感を持っている。まさか、ここまでアマゾンに侵食されると思わず、なんの対抗策も取ってこなかった出版界自体が読みを誤ったと言えるが、今後を考えると危機感は深まる。

だから、電子書籍がこれ以上普及してほしくないと願っている経営者も多い。紙がこれ以上衰退し、電子が主力になったら売上は半減してしまうからだ。

■KADOKAWAとドワンゴの経営統合

出版界では、先頃、KADOKAWAとドワンゴが経営統合したことが大きな話題になった。「日の丸連合でグーグル、アマゾンなどに対抗」という報道もあったが、私は、それをあながち間違っていないと思った。豊富なコンテンツと強力な配信プラットフォームを持つ2社の組み合わせだからだ。ドワンゴの川上量生氏も、記者会見で「編集者とエンジニアが一体となり、コンテンツを制作する時代がくる」という主旨の話をした。

しかし、その後、メディアに載った川上氏のインタビューを読むと、気分がさらに落ち込んだ。『週刊ダイヤモンド』誌で彼はこう言っている。

■統合後の姿が『よく分からない』は正しい

「そこに明白なビジョンを出せる人は居ないと思います。出版業界がインターネットの時代に対応していかなければならないのは明白ですが、グーグルやアマゾン・ドットコム、アップルのプラットフォーム上にコンテンツを提供しているだけでは、生き残れないでしょう。彼らのルールの中でやっていくことになるからです」

「同じプラットフォームをつくっても、彼らに勝てるわけがない。やるならば競争の土俵を変えて勝負するしかありません。要するに競合しないということ、そうしたビジネスを探すことです」

「統合後の姿が『よく分からない』といわれますが、それはある意味正しいのです」

■アベノミクスの恩恵ゼロ以下の業界

これは、彼のような先進的で優秀なベンチャーでも、方向はわかっていても、具体策はないということなのか? まあ、あったとしたら口にするはずがないが、本当にないというようにしか読めない。

この先、さらに消費税が増税され、8%が10%になる。そこで、出版界では、軽減税率の適用を求める運動も起こっている。また、書籍に対する時限再販の導入、書店マージンンの見直しなどの取り組みも行われている。

しかし、返品率の上昇で、今年からトーハンも日販と同様に総量規制を始めている。こうなると、中小の取次を介した資金繰りはいっそう苦しくなる。

一部の業界と違って、アベノミクスの恩恵などゼロ以下のこの業界の将来は本当に暗い。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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