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補助金より罰金を! そもそも「女性活用」で経済成長ができるというのは本当なのか?

山田順作家、ジャーナリスト

■女性を登用すると補助金が出る制度が始まる

現在、政府はアベノミクスの成長戦略の一つ「女性活用」に、積極的に取り組んでいる。最近では「女性が活躍できる環境づくり」を掲げ、女性の登用に積極的な企業に対して、補助金を出すことも決まった。

この補助金は、来年度に創設され、女性幹部を増やせばもらえるようになる。また、女性の登用が進む企業は、物品や資材などを調達する際に、政府から優遇措置を受けられるようになる。

こうした政策の目標は、安倍首相が公言しているように、「2020年までに指導的地位を占める女性の割合を30%にまで引き上げる」 とされる。

つまり、政府は力づくでも「女性活用」を進め、それによって経済成長できると信じているようだ。

■女性登用で本当に経済成長できるのか?

そこで、素朴な疑問がある。

そもそもなぜ、女性の社会進出が、成長戦略なのだろうか? 女性をいままで以上に活用すると、本当に経済成長できるのだろうか? 女性の活用は、人口減で将来不足する労働力を単に穴埋めするだけではないのか?

能力がある女性がどんどん登用される。また、男性社会の壁のため、これまで働きたくても思うように働けなかった女性が働ける。そういうことは、社会にとっていいことである。

「男女雇用機会均等法」が建前だけでなく、本当に実行されれば、社会はいまより活性化されるのは間違いないからだ。学校教育の現場では、男女が半々で、お互いに協力し合っているのに、会社となると女性の数は圧倒的に少なくなり、正社員はほとんどが男性。女性の多くは非正規雇用で補助的仕事ばかりというのでは、なんのための「男女平等」なのか皆目わからない。

だから、これが是正されていくのはいい。しかし、そうなったときどうなるかを想像してみてほしい。

■会社にしがみつくだけの男性が割を食う

現在、アベノミクスが進展して、日本経済が復活しているように言われているが、それは錯覚である。実際のところ、日本経済は相変わらず低成長で、年率2%の成長も怪しい。この状況は、今後もおそらく変わらないだろう。

とすれば、雇用は増えない。しかも、人口減が進むのだから、全体の消費は縮小し、それにともないさらに企業のリストラは進む。すでに、年功序列、終身雇用は崩壊している。そんななかで女性の活用が進めば、どうなるだろうか?

第一生命経済研究所の永濱利廣氏が著書『男性不況』で指摘したように、正社員サラリーマンのオヤジたちが割を食ってはじき出されるだけだ。

成長戦略では解雇規制の緩和も進むので、企業はよりいっそう不要なオヤジを整理していくだろう。仕事をほとんどせず、単に会社にしがみつくだけの人材は、有能な女性にとって代わられる。これは、非常にいいことで、この点において問題はなにもない。

ただ、そうして整理されたオヤジ、あるいは能力の低い社員の転職は難しく、社会はその重荷をかかえることになる。この点が問題だ。

■補助金により企業は男性をどんどん解雇する

マクロ経済で考えると、経済成長には、ほかの要素をとりあえず除いてみれば、生産性の向上が欠かせない。だから、無能な男性に有能な女性がとって代わることは、生産性の向上につながるので、これはいい。

しかし、割を食ってはじき出された男たちが、低賃金労働者になるか、あるいは職を得られずに社会福祉の受給者側に回るとしたら、全体ではなにも変わらない。社会全体のパイは同じか縮小していくのだから、結局、成長しないのではないだろうか? つまり、女性の活用が成長戦略というのは、単なる「希望的観測」である。

しかもそれを補助金でやる。クオータ制(あらかじめ割当てを決めて、それを達成する)でやるというのは、どう考えても間違っているとしか思えない。なぜなら、補助金をもらえるなら、企業は喜んでそちらを選び、どんどん女性を採用、登用する。こうして、クオータ制が3割を目標とするなら、それは達成されるだろう。ただし、結局は3割で終わるだろう。

ではどうすればいいのだろうか?

■補助金より「差別」をしたら罰金を課すべき

それは、女性だろうと男性だろうと、能力できちんと評価することことだ。それを企業に義務づける。たとえば、採用試験。現在のように女性の採用が少ないのは、男性に下駄をはかせているからだ。もし、採用試験を能力採用だけにすれば、男女半々か、あるいは女性のほうが多くなる。

学校の成績でも、大学入試でも、いまや女性のほうが男性を上回っている。それなのに、なぜ、採用試験で女性は差別され、自分より能力が劣る男性ばかり採用されるのか?

つまり、男性に下駄をはかせることを止めさせる。女性と同じかそれ以下の能力の男性を、単に男性だという理由で採用した企業にペナルティを課すことだ。

正社員採用が男性ばかりに偏っている企業(じつは日本企業のほとんどがこれに該当)は、どうしてそうなったのか調査し、それが「男女差別」に基づいていたら、罰金を課すのだ。

補助金は政府支出、結局、私たちの税金である。しかし、罰金は政府収入である。

■「逆差別」と言い出す男性は本能的に怯えている

というわけで、「女性の活用」は、成長戦略ではないし、まして、女性を本当に尊重した政策とは思えない。むしろ、女性をばかにした政策と言えるだろう。

それなのに、「逆差別」と言い出す男性(一部議員や評論家)までいるから不思議だ。こういう男性たちは、女性を本当に能力評価したら、自分たちが割を食うことが本能的にわかっているから、こんなことを言い出すのである。

2013年、男女世界経済フォーラム(WEF)が発表した「世界男女格差報告」で、日本のランキングは対象136カ国中105位と圧倒的に低くかった。

このランキングは、男女格差を、経済面、教育面、政治面、健康面という4つの項目で評価しているが、教育面、健康面では、日本の女性が諸外国より劣っているはずがない。とすれば、経済面、政治面で、日本の女性は諸外国に比べて大きく差別されていることになる。

この経済面、政治面での差別をなくすために、どうするか? もっと、真剣に考えるべきだ。「女性活用」を 成長戦略の一つなどと位置づける前に、この社会的不公平をなくすことのほうが先である。 

最後に繰り返し言っておきたいが、補助金、クオータ制など「無駄」である。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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