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凱旋門賞で3頭そろって惨敗の真因は、「過去の教訓を活かさない挑戦」と「欧州至上主義」にある!

山田順作家、ジャーナリスト

■「馬はよく頑張った」「力は出し切った」の??

「今年こそは」と期待されていた凱旋門賞で、またしても日本からの遠征馬が惨敗した。ここ2年続けてオルフェーヴルが2着だったから、3頭が遠征した今年は、例年以上に期待が大きかった。

しかし、ハープスター(牝3)の6着を筆頭に、世界ランキング1位のジャスタウェイ(牡5)は8着、ゴールドシップ(牡5)は14着と、まったく歯が立たなかった。はっきり言って「惨敗」である。

この惨敗に、メディアは今年もお決まりのことを言った。つまり、「馬はよく頑張った」「力は出し切った」と、健闘(?)を誉めたたえ、「世界の壁は厚かった」で締めくくったのだ。

はたして、こんな総括でいいのか? いいわけがないと思う。

そこで、なぜ、こうも日本調教馬が凱旋門賞で負け続けるのか?なぜ、毎年、同じことを繰り返すのかを考えてみたい。

■なぜトレヴは2年連続で優勝できたのか?

戦争、経済、スポーツ……すべての日本の敗戦に共通することがある。それは、過去の敗因から教訓を学ばず、また同じことを繰り返すことだ。しかも、なにもかも「自前」で「日本と同じように行おう」とすることだ。

環境と条件が違うところに、日本を持ち込もうとする。これが、日本がいつも犯す間違いだ。

このことは、勝ち馬トレヴの騎手T・ジャルネが端的にこう言っていることを考えれば明らかだ(日刊スポーツ10月7日付け記事)。

「ロンシャンの競馬場は日本からすると、特殊な馬場。やはり“走ったことがある”という経験は非常に大事」

「日本のジョッキーにとって、経験のない競馬場で競馬をすることは難しいこと。日本はスピード重視の競馬だが、こちらは戦術が大事。それが読めないと勝つことは難しい。僕はトレヴをデビューからよく知っているし、ロンシャンのコースもよく知っている。この2つが重なったから2回も勝てた」

つまり、日本で前哨戦とも呼べないレース(札幌記念)を叩いて臨んだハープスター、ゴールドシップ、休み明けぶっつけで臨んだジャスタウェイは、ただの「無謀」だったということだ。しかも、ジョッキーは全員、日本人。これでは、はなから「勝つ気」はなかったと言ったほうがいいだろう。

■「オールジャパン」体制にこだわるから惨敗

これまで、凱旋門賞には今年を含め延べ19頭が出走し、2着が4回ある。だから、あと一歩で勝てると思い込み、今年は競馬マスコミからファンまで入れ込んで、大フィーバーとなった。しかし、結果はこのとおりで、過去の教訓をまったく活かしていなかった。

なぜなら、2着4回をはじめとして上位に来た日本調教馬は、いずれも現地で前哨戦を叩いていたからだ。

1999年エルコンドルパサー、2010年ナカヤマフェスタ、2012、2013年オルフェーヴルは、フォア賞に出走してから本番に臨んでいる。また、昨年の4着馬キズナにしても、ニエル賞を叩いてから本番に臨んでいた。

ならば、本気で勝ちたいなら、もっと早く現地入りして馬を環境に慣らさせ、1回でも2回でも欧州の馬場を経験させ、騎手も経験のある欧州の騎手を起用するべきだ。

しかし、なぜか、日本人は「オールジャパン」体制にこだわり、そのために、本来の目的を達成できなくなくなってしまっている。

「日本の馬で日本の騎手で勝つ」ということが、そんなに大事なことなのだろうか?

そこで思うのは、そもそもなんのために日本調教馬が凱旋門賞を勝たなければならないのか?ということだ。

賞金がほしい 、名誉がほしい、種牡馬価値を上げたい……など、種々事情はあろうが、単に「日本人だからなんでもかんでも日本を応援する、競馬だろうと、オリンピック、サッカーW杯だろうとなんでもかまわない」というファンのために、大事な馬を走らせるのだとしたら、バカげているとしか言いようがない。

仮定論だが、オールジャパンにこだわらなければ、とっくに日本調教馬は凱旋門賞に勝てていたのではと思う。

■はたして凱旋門賞は「世界最高のG1」なのか?

もう一つ、凱旋門賞に日本調教馬が勝てないのは、日本人が「凱旋門賞が世界最高のG1」というフィクションに洗脳されてしまっていることも大きいと思う。

このことは、過去のこの欄でも書いた。そんなに、凱旋門賞に価値があるのか?ということだ。

Tジャルネ騎手も言っているように、ロンシャンは特殊な競馬場である。そこでやる競馬が本当に「世界最高のG1」なのか? 競馬マスコミはファンの期待を煽るために「世界一」と言い続けるが、本当にそうなのか、今度こそ再考したほうがいい。安易に凱旋門賞優勝を「悲願」に仕立て上げるのは、もうやめにしたらどうだろうか?

実際のところ、出走馬のほとんどは欧州調教馬で、最近はアメリカからの遠征馬はいない。アメリカの競馬人は、凱旋門賞などに重きを置いていないのだ。彼らにとっては、ブリダーズカップのほうがはるかに重要だ。環境と馬場が違い、3歳牝馬に圧倒的に有利な条件になっている凱旋門賞に、なぜ、大事な実力のある古馬を出走させなければならないのか?

アメリカ人なら、そう考えるだろう。

凱旋門賞は2008年からスポンサーが変わり、賞金が2倍になったが、それまでは欧州のローカルG1の一つに過ぎなかったと言っていいと思う。これを救ったのが、中東の石油マネーで、彼らの資金によって1着賞金が200万ユーロを超えた。しかし、賞金から言えば、ドバイワールドカップの360万ドルが世界一だ。凱旋門賞のどこが、世界一のG1か?

アイルランド調教馬、イギリス調教馬、フランス調教馬など、ほぼ欧州調教馬ばかり出走する「ローカルG1」に、なぜ日本調教馬を毎年のように送るのか? 私にはよくわからない。

彼らのホームで、アイルランド調教馬やフランス調教馬を負かすことが、そんなに意義があることなのか? これも、私にはよくわからない。日本人は「欧州至上主義」にいまもなお、洗脳され続けているとしか言いようがない。

■同じ欧州至上主義でも中東の王族のほうが利口

欧州至上主義と言えば、中東の王族たちのほうが重傷だ。ただ、彼らは、日本人よりもっと合理的な選択をしてきた。潤沢なオイルマネーで、欧州競馬を乗っ取る戦略に出たからだ。

彼らは、英国ダービーや凱旋門賞に勝つために、欧州調教馬の馬主になり、牧場も厩舎も買収し、騎手も専属にして、ついに欧州のG1のほとんどを制覇してしまった。そして、いまやレースのスポンサーであり、地元の中東で世界競馬ナンバーワン決定戦までやるようになった。実際、凱旋門賞のスポンサーはカタールであり、今年の優勝馬トレヴの馬主ジョアン・アル・サーニ殿下は、カタールの王族である。

このように、かつてとは性格がまったく変ってしまった欧州競馬に、ただ、馬と騎手を送り込み、一介のプレーヤーとして参加することの意義とはなんだろうか?

日本の馬主も、中東の王族たちを見習って、日本調教馬では勝てない、勝つのは難しいとわかったのだから、欧州調教馬の馬主になったほうがいいと思う。日本の競馬は賞金が高い。だから日本で賞金を稼ぎ、その賞金を原資として遠征するというのは合理的かもしれないが、じつは、本当には経済的に見合わないのではないだろうか?

■来年こそは前哨戦を叩き現地騎手で臨んでほしい

私はもう何十年も競馬ファンで、昔は競馬の取材をして記事を書いたこともあるが、欧州の競馬はあまり好きではない。貴族の伝統のようなものにこだわる欧州競馬より、庶民的で缶ビール片手に大声で叫べるアメリカ競馬のほうがずっと性に合う。

だから思うのは、日本調教馬は凱旋門賞よりブリダーズカップに挑戦してほしいということだ。しかし、そうは言っても、来年もまた凱旋門賞に挑戦するだろう。ともかく、勝つまで、悲願達成までは止めないとうのが日本人の性分だ。

ならば、来年こそ、過去の教訓を活かして、日本のレースを捨て、現地入りをもっと早くし、前哨戦を叩いてから臨んでほしい。騎手も、ロンシャンを知る現地騎手にしてもらいたい。それでも勝てないなら、それは馬が弱いということで、納得がいく。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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