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移民賛成・反対論争は無意味。受け入れようと受け入れまいと、移民などやって来ない!

山田順作家、ジャーナリスト

■反対派も賛成派も「来ること」を前提で論争

「あなたは移民に賛成ですか?それとも反対ですか?」と聞かれたら、イエスかノーかで答えるしかない。しかし、イエスであろうとノーであろうと、そもそもこの問題に答えること自体が無意味だ。

なぜなら、この論争は、解禁すれば日本に移民がやってくることを前提にしているからだ。

現在、政府の経済財政諮問会議の専門調査会では、移民問題が議論され、やがて報告書が出ることになっている。はたして、どんな結論が出るかは予測できないが、最近の世論の大勢は反対のようだ。移民反対の署名運動まで起こり、『移民亡国論』のような本も出版されているからだ(もちろん、賛成派の本も出版されている)。

で、私だが、移民受け入れには「賛成」である。著書にもそう書いてきた。だから、一部メディアから取材を受けたこともある。しかし、積極的に移民を受け入れろと発言する気はあまりない。なぜなら、賛成しようと反対しようと、この問題の本質は、いま行われているような論争では解決されないからだ。

なぜ、そうなるのか、以下説明してみたい。

■なぜ移民を受け入れないのか?反対派の主張

移民反対派が挙げる「反対理由」をまとめると、だいたい次のようになる。

(1)移民が増えると国のかたちが変わり、日本の文化や伝統が失われる。

(2)社会の治安が悪化し、社会的コストが増える。

(3)日本人の雇用が奪われ、労働条件が悪化する。

(4)外国人移民に対する医療、介護など社会保障費が増大する。

(5)すでに移民を受け入れた欧州諸国は失敗している。

どれもたしかにそのとおりかもしれないと、思う。(5)の「すでに移民を受け入れた欧州諸国は失敗している」かどうかはわからないが、移民を受け入れれば、これまでの日本社会が大きく変わることは間違いない。その意味で、反対派は「変わってほしくない」と願っているようだ。

■なぜ移民を受け入れるのか?賛成派の主張

では、賛成派はどう考えているのだろうか?

賛成理由は、大きく分けると、次の3つになるだろう。

(1)雇用対策として移民が必要。とくに建設業や外食産業で人手不足が起っているので、移民によりこれを解消できる。

(2)少子高齢化で人口が減るので、移民によってこれを補うしかない。

(3)人口減社会では経済成長できない。経済成長を維持するためにも移民は必要。

この理由もまた、たしかにそのとおりだと思う。なにしろ、日本の人口減は急速に進んでいて、毎年20〜30万人も減り続けている。このままいくと、若い世代が減り続け、現在の社会保障は維持できなくなるからだ。人口減による日本衰退を解決するには、移民に頼るほかないというのが、賛成派の考えである。ということは、賛成派もじつは反対派と同じように、「変わってほしくない」と本音では思っているようだ。

■移民論争は身勝手。来るほうの立場を考えていない

そこで、私が言いたいのは、反対派も賛成派もどちらも身勝手な理屈を並べているだけ、ということだ。日本政府の移民受け入れ策の検討理由も、本当に身勝手だと思う。なぜなら、来るほうの移民の立場など、ほとんど考慮していないからである。

問題は、移民に「反対か?賛成か?」ではない。来るほうが、「来たいか?来たくないか?」である。つまり、いまの日本が移民するのに値する国かどうか? 世界に、日本に来て暮らし、日本人になりたい人間がどれほどいるか?ということではないだろうか? これが議論されなければ、移民論争は無意味である。

これまでの移民受け入れのための議論を聞いていると、日本が受け入れたい移民は、次の3種類のように思う。

(1) 富裕層(お金持ちで日本に投資し、お金を落としてしてくれる人々)

(2)高度人材(高いスキルを持つ技術者、科学者、ビジネスエリートなど)

(3) 労働者(日本人の人手が足りない建設労働、店舗労働、介護労働などに従事してくれる単純労働者)

では、これらの人たちが、本当に日本に来るだろうか?(1)(2)(3)を、順を追って見てみたい。

■富裕層にも高度人材にも日本は魅力がない

(1)の富裕層が求めているのは、有利な税制、投資ができる自由な金融環境、子弟のための高度な教育環境、ハイライフを送れる高度な衣食住環境の4つである。これがそろっていないと、彼らは来ない。日本にはこの4つともない。日本は、税金は高いうえ、金融サービスは世界最低で、英語はほとんど通じない。食文化は世界でも有数だが住環境はよくない。つまり、日本は、富裕層にはほとんど魅力のない国である。

かろうじて中国の富裕層の一部が、環境のよさを求めて来るかもしれない。しかし、欧米富裕層は、間違ってもやって来ないと、私は思う。

(2)の高度人材も絶望的だ。高度なスキルを持つ技術者や科学者、そして起業家は、まずアメリカを目指す。それは、待遇のよさ、研究・労働環境のよさ、ハイレベルの教育環境では、アメリカが世界一で、彼らをどこの国よりも歓迎しているからだ。

これはスポーツでも同じ。イチローもマー君も行ってしまった。その逆で、日本のプロ野球に来る人材を見ればわかるように、日本に来るのは2、3流人材だけである。

移民反対論者の一部に、「高スキルの移民だけは認めてもかまわない」と述べる人たちがいる。その気持ちはわかるが、その論説は滑稽としか思えない。

■若者たちが目指すのはアメリカ、日本は3番手以下

では(3)の労働者はどうだろうか?

単純労働者(マニュアルレーバー)について述べる前に、ホワイトカラー層に関して言うと、外国人はまず日本企業では働かない。なぜなら、成功報酬でなく年功給であること、あまりにも残業が多く、ジョブディスクリプションが明確でないため公私の境目がないからだ。

これは、欧米人ばかりか中国人やインド人であっても耐えられない環境だから、エリートホワイトカラー層の移民など、まず来ない。

これまで私は、途上国に取材で行くたびに、若者たちに、「日本に留学したいか?」「日本企業で働きたいか?」と、何度も聞いた。聞くたびにがっかりしたのは、一部の日本好きの若者を除いて、ほとんどの若者が「ノー」と答えたことだ。

彼らは、まず英語を学び、成績が優秀なら真っ先にアメリカを目指し、続いてイギリス、オーストラリア、カナダなどの英語圏、フランスやドイツなどの欧州を目指している。アジアでは、日本よりシンガポールや香港だった。つまり、日本に来るとしたら、彼らのなかでも3番手以下の層だけだ。

■現在のままなら単純労働者もやって来ない

ということは、じつは、単純労働者も来ないということになる。

建設労働者は来そうだと思う人がいるかもしれないが、日本よりドバイやカタールなどのほうが、日本より稼げる。最近は、新興国の発展が目覚ましいから、建設労働の仕事は日本以上にある。

それ以外の単純労働はどうだろうか?

たとえばフィリピンは世界中にメイドを輸出しているが、彼女たちはやはり、富裕層が多く待遇がいいシンガポールや香港、ハワイ、カリフォルニア、フロリダ、イギリス、スイスなどに真っ先に行く。日本はもっとメイドや介護などのサービス労働者を受け入れるべきだという話があるが、受け入れてもまず来ない。最近は、外国人実習制度による単純労働者や、不法移民でさえ日本を目指さなくなっている。

最近の円安も移民に対してはマイナスに働いている。円はドルだけではなく、人民元に対しても大幅に下げている。その結果、日本のコンビニで働いている中国の若者たちのなかには、帰国する者まで出ている。

日本はいまや、単純労働者にとっても「お金が稼げない国」になっている。

■日本を移民したい国にするのが、まずやるべきこと

というわけで、現在、日本で行われている移民受け入れの論争は、まったく無意味だ。かりに受け入れると決めて、法制度を整備したとしても、来るのは日本が本当に欲しい「人材」ではない人々だろう。

反対派は移民を解禁すれば、中国や韓国、東南アジア、中東、中南米などから、移民が押し寄せる。そのため、治安が乱れ、日本人の雇用は奪われ、日本が日本でなくなり、日本文化は破壊されると言う。本当にそうだろうか? 私には、現実を見ない単なる過剰反応にしか思えない。

そこで、反対派、賛成派ともに言いたいのは、反対・賛成するより以前に、日本が移民したくなるような国になる下地をまずつくることだろう。賛成論を唱えるなら、まずそうしなければ、いくら制度をいじってみても無駄だ。

たとえば、エストニアではすでに「eレジデンシー(電子居住)」が始まっている。これは、エストニア国内に住んでいなくとも、エストニア居住者と同じようなことが可能になるというシステムだ。つまり、ヴァーチャル移民である。  「eレジデンシー」の狙いは、オンラインサービスの充実で、エストニアへの投資を増やすことである。エストニアは、今後、ヴァーチャル大使館を開設し、2025年までに1000万人の電子居住者獲得を目指している。

■私たちが問われているのは移民の是非ではない

最後に、移民反対派にも言いたい。移民に反対したいなら、まず日本を移民がどうしても来たい国にすべきだ。そのうえで移民を禁止すべきだ。単純に現状維持でこのまま反対を続けていると、彼らが望む日本が日本であり続ける、日本文化は守れるということにもならないからだ。

なぜなら、人口減で日本が衰退し続ければ、結局、日本の文化・伝統を継承する次の世代がどんどん少なくなってしまうからだ。移民亡国論者は、皮肉なことに、日本の文化・伝統を衰退に導こうとしている。

移民を巡る論議は、移民の是非を争っている限り、なにも解決しない。

私たちが問われているのは、移民を受け入れるか受け入れないかではない。どうやって、いまの日本を次の世代、そのまた次の世代に受け渡していけるかである。

その方法を、賛成派も反対派も真剣に議論すべきときに来ていると思う。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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