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イスラム国人質事件報道に関する「素朴な疑問」いくつか……

山田順作家、ジャーナリスト

■ウソつきキャスターにウソつき評論家

どの局でも、キャスターからゲストコメンテイターまで「国民のすべてが後藤健二氏の生還を願っています」などと言って、悲痛な顔をしている。

しかし、国民の半数以上は彼の生還など願っていない。そんな世論はほとんどない。あるのは、自己責任論の方で、「危険を承知して自分の意志で行ったのだから、それで拉致されたからといって自業自得。政府がわざわざわれわれの税金を使って救済活動する必要はない」というのが、密かに形成されている国民の大方の意思だ。

それを無視して、白々しい報道を続けるテレビ局は自己矛盾を感じないのか? とくにいつもなにかあれば「国民が、国民が」というキャスターたちは、なんでこんなウソを平気でつけるのか?

■後藤健二氏がイスラム国に行ったのは「湯川さんを助けるため」というのは本当か?

「自分の責任でイスラム国支配地域へ行く」 とするビデオを残した後藤健二氏だが、その目的は湯川遙菜氏を助けるためだったという。しかも計画では2泊3日で戻ることになっていた。

となると、そういう筋書きができていたから行ったのだろう。しかし、向こうに行ったら、筋書きは通用しなかったというわけだ。あるいは裏切られたのか?

だいたい、幼馴染でもなければ親友でもない、取材で知り合っただけの人間を助けに行くなど、常識的におかしい。ジャーナリストとしての仕事の範囲も超えている。メディアは2人の正確な関係を伝えていない。

■後藤氏たちの資金源は?

フリージャーナリストはボランティア活動家ではない。メデイアなどから取材資金を渡されなければ、動けない。後藤氏に関してはテレビ局のお金が渡っていたのは確かだろう。

だから、テレビ局にも一端の責任はあるのに、そんなことは一言も口にしない。

また、後藤氏以上に資金の出処がわからないのが、湯川遙菜氏だ、彼はいったい誰から資金を得て、英語もしゃべれない、イスラムに興味も人脈もないのに、レバノンやシリア、イラクなどに、頻繁に出入りしていたのか?

だいだい、人の命と武器を売り買いしている地域に、カネ(工作資金)も持たずに出かける人間などいない。

■突然起こった事件なのか?

今度の事件が起こって初めて明らかになったのは、昨年11月の時点で、イスラム国から身代金10億円を要求するメールが入っていたことだ。この件は、1月20日に初めて報道された。

ということは、政府関係者からのリークということか? とすれば、今回の事件は突然起こったのではなく、昨年から水面下ではずっと続いていたことになる。

実際、ジャーナリストの常岡浩介氏とイスラム学者の中田考氏は、昨年9月初旬にイスラム国の拠点都市、ラッカに行き、司令官のウマル氏と面会して湯川氏の動静を聞いている。

日本政府がこれまでなにをしていたのか?は、まったく謎だ。なにもしていなかった可能性が高いが……。

■情報収集中、会議中の白々しさ

政府首脳は、会見ではいつも必ず、「情報収集中」と言う。しかし、日本政府が情報を集めてそれを分析し、処理する能力があるとは思えない。また、官邸や外務省前などからテレビ局は中継しているが、こんなところに情報があるわけがない。官邸で行われていた会議が終わった。電気が消えたなど、どうでもいいではないか?

■「イスラム国」と言うのは止めてほしい

「イスラム国」と言うから、誤解を招く、本当に国だと思っている人間まで登場する。なにしろ、後藤健二氏の母は、会見で外国人記者から説明を受けるまで、イスラム国についてほぼなにも知らなかった。

イスラム国というのは、彼らが勝手に「Islamic State」と言っているだけにすぎない。実態は、単なる「イスラム教徒を名乗る暴力集団」だ。英語では「ISIL」(Islamic State in Iraq and the Levant)と言ってみたり、「ISIS」(Islamic State in Iraq and al-Sham)と言ってみたりするが、どちらも訳すと長いし、このままだとなんだかわからない。

だから、「イスラム暴力団」くらいの表現がちょうどいい。なぜなら、彼らはイスラム教徒からも爪弾きの頭の中がお花畑の原理主義者で、宗教心など一欠片もない集団だからだ。キリスト教世界にもマフィアがいるし、日本にもヤクザがいるように、単なる非合法集団である。いずれ、有志連合によって粉砕されるとしても、「国」などつける必要はないと思う。

また、戦争とは「主権国家」同士がやるもので、イスラム国を攻撃したからといって、それは戦争ではない。この辺が、日本のメディアを見ているとわからなくなる。

■「人道支援」のウソ

「人道支援」などというのは、援助する場合の表向きの理由で、お金による援助だった場合、使い道は相手国次第だ。つまり、日本政府がやっていることは、法的偽装(リーガルフィクション)である。

また、「後方支援」という言葉が日本国は大好きだが、これはロジステック(兵站)だから、戦争の一部である。戦争とは前線の兵士だけで行うものではない。補給部隊、補給路、補給物資を含めてすべて戦争だ。戦争に、前線も後方もない。援助はすべて支援であり、実際に戦うことと同義だ。

ただしイスラム国との戦争は、戦争ではない。単なる暴力集団の駆逐作業である。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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