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「日本を戦争ができる国にしていいのか」論議の的外れ。言葉遊びはもうやめませんか?

山田順作家、ジャーナリスト

■日本ははなから戦争ができる国ではないのか?

私の考えだと、「日本を戦争ができる国にしていいのか」と問うこと自体がおかしい。なぜなら、自衛隊という軍隊を持っている以上、日本ははなから戦争ができる国だからだ。

本来、国家というものは戦争遂行能力持つ軍事組織がなければ成り立たない。日本にはそれがある。それなのに、こんなことを問うのは滑稽だ。しかも、それを大メディアが言っている。

それでもしこの一文を英語に訳せば、日本についてほとんど知らない英語の一般ピープルは「日本は軍隊を持っていないのか」と思うだろう。

また、「アメリカが戦争を始めたら一緒に戦うことになっていいのか」「他国の戦争に巻き込まれる恐れがある」「自衛隊は海外に出すべきではない」などと主張する人々がいる。これも、私にはなんのことかまったくわからない。

まず、日本はアメリカの同盟国なのだからアメリカと一緒に戦うのは当然だ。これまで、屁理屈をこねて、それができないとしてきたこと自体が間違っている。

また、現在はサイバー空間、宇宙空間も戦争領域だ。それなのに、「自衛隊は海外に出してはいけない」などと、100年前の地政学アタマの人々がいることに、驚くばかりだ。

■「わが軍」をなぜ使ってはいけないのか?

そう言えば、先日、安倍首相が自衛隊を「わが軍」と言ったことに、朝日新聞や野党が噛みついた。結局、首相は「もう言わない」と宣言して決着したが、なぜ「わが軍」と言ってはいけないのか、私にはさっぱりわからない。

もちろん、「わが軍」が「私の軍隊」(my troops、my military)という意味なら、言ってはいけない。なぜなら、自衛隊は首相の私設軍ではないし、首相は民主国家のリーダーであって「王」ではないからだ。

しかし、日本語で「わが〜」は「われわれの〜」という意味だ。「わが国」「わが社」「わがチーム」などと言ったとき、それを「私の国」「私の会社」「私のチーム」とは誰も受け取らない。かつて長嶋茂雄氏は「わが巨人軍は永遠に不滅です」と言ったが、この「わが」は「われわれの」だ。

ならば「わが軍」は「われわれの軍」(our troops)なのだから、どこも不自然な点はない。どの国の首相でも、こう言うだろう。

■現実に存在しているものをそう呼んではいけない不思議

とすると、批判側は「軍」がいけないと言いたいらしい。しかし、自衛隊は「軍」以外のなにものでもない。憲法解釈がどうであれ、現実に存在しているものをそう呼んではいけないと言っているのだから信じがたい。

どうしてもそうしたいなら、憲法を変えるか、自衛隊をなくすしかない。しかし、彼らはそうは主張しないのだから、その主張は単なるお子ちゃま問答だ。

ところで、世界どこにも「軍」(force : フォース)を「自衛隊」などと呼ぶ国はない。自衛隊を英語にしたときの「self-defense force:セルフ・ディフェンス・フォース」などという言い方は、英語世界にはありえない。

外国人に「自衛隊ってなに?」と聞かれたら、「Japanese force」「Japanese troops」(日本軍)か「our force」「our troops」(わが軍)と答えるのが自然だ。

アメリカ人なら誰でも自軍を、「our troops」「our force」と言うだろう。陸軍なら「our army」、海軍なら「our navy」だ。だから陸上自衛隊は「陸軍」(Japanese army)だし、海上自衛隊は「海軍」(Japanese navy)と呼ぶしかない。

英語のテストで、自衛隊の英訳を「Japanese force」「Japanese troops」(日本軍)としたとき、「×」になるのだろうか?

■国家の閣僚が「上から目線」で言うのは当然

さらに不思議なことがあった。沖縄県知事の翁長氏が菅官房長官の「粛々と」を「問答無用という姿勢が感じられる」「上から目線」と批判したことだ。実際に「粛々とやっている」のだから、そんな言葉狩りをしても「粛々作業」はなくならない。

それに、「上から目線」でどこがいけないのか? 自治体の長と国家の閣僚が対等なわけがない。上から発言するのは当然だ。

基地問題は安全保障にかかわる重大な問題である。それなのに、翁長知事は「(米軍基地が)県民に大変な苦しみを今日まで与えてきた」などと言っていた。私は神奈川県民で横浜在住だが、米軍基地を苦痛に思ったことは1度もない。

基地がいらない、アメリカ軍は出て行ってほしいなどと思ったことも1度もない。逆にもっと基地をつくってほしい、横須賀には第七艦隊をもっと派遣してほしいし、オスプレイにも来てほしいと思っている。

■沖縄県知事は県民の安全を脅かす平和破壊主義者

普天間基地の代替として辺野古基地ができる。

しかし、アメリカ軍のリバランスは進み、今後、沖縄駐留海兵隊の半分の約9000人がグアムに移転する。つまり、沖縄防衛の戦力は少なくなる。

それなのに、「基地はいらない」「アメリカ軍は出て行ってほしい」と主張するなどいうことがありえるのだろうか? 翁長知事はアメリカ軍に替わる隠しボデイガードでも持っているのだろうか?

知事の仕事は、沖縄県民全体の安全と平和を守ることだ。ということは、彼は平和主義者ではないということになる。平和を維持するためには、軍事力のバランスを考え、戦略上重要なところに基地を置かなければならない。これが、軍を抑止力、自衛戦力と考えた場合の常識だ。

沖縄になにかほかに自衛策があるのなら別だが、同盟国アメリカの基地を拒否するのだから、こんな無責任な平和破壊主義者はいない。

■誰が見ても「いずも」は護衛艦ではなく空母

まだまだ、不可解なことはいっぱいある。

先日、自衛隊最大の軍艦「いずも」が就役した。そのとき、どの新聞も「いずも」を最大の護衛艦と呼んでいた。また見出しは、どこも「最大の護衛艦が就役」となっていた。しかし、「いずも」は護衛艦ではなく空母である。写真を見れば、どんな人間でもこれを空母と言うだろう。一目でわかる「フラップトップ」だ。

「いずも」に関する、読売新聞の記述は次のようになっていた。

《「いずも」はヘリコプター5機が同時に離着艦できる甲板を持つ「ヘリ空母型」の護衛艦で、全長248メートル、最大幅38メートル、排水量1万9500トン》

“「ヘリ空母型」の護衛艦”とは、どういうことなのだろうか? そんな軍艦は世界のどこにもない。

すでに、「いずも」以前に日本は空母を持っている。「いずも」より小型のヘリ空母「ひゅうが」だ。また、この先「ひゅうが」型がもう1隻、「いずも」型がもう1隻できるので、日本は空母を4隻保有することになる。つまり、海上自衛隊は機動部隊(task force)を持つことになる。

ところが、報道をそのまま受け取る人は、日本には空母はないと思い込む。

■日本海軍(海上自衛隊)には2種類の船しかない

海上自衛隊の人間に聞くと、海上自衛隊の艦船には2種類しかないという。ここからは、面倒くさいので、海上自衛隊を「海軍」と書く。

いまの日本海軍は、世界の国々で「巡洋艦」「駆逐艦」「フリゲイト艦」と呼んでいる水上戦闘艦をすべて「護衛艦」と呼んでいる。だから、空母も護衛艦になるのだという。これは、防衛省の訓令で定められているそうだ。

となると、現在の日本海軍には、水上戦闘艦である護衛艦と、水中戦闘艦である潜水艦の2種類しか存在しないということになる。

しかし、これは欺瞞だ。ライオンをネコと言っているのと同じだから、海外から見たら、日本はなんて不誠実な国だということなる。それをそのまま報道するメディアは、嘘つきメディアということになる。

現在、護衛艦と言っている船は、ほぼすべて駆逐艦(destroyer)だという。駆逐艦は敵の攻撃から味方艦船を守るのが役目だ。だから、護衛艦というカテゴリーに入る空母などあるわけがない。そもそも空母は、駆逐艦に守られるもののだ。

■世界に通用しない自衛隊の階級の呼び方

ところで、自衛隊の階級の呼び方もおかしい。

自衛隊は軍隊ではないとしなければいけないので、このような言い換えをしたのだろうが、これもまた国際的に通用しない。また、歴史的な整合性もなくなり、混乱を招くだけだ。

軍人の子供が「うちのパパ、1尉なんだよ」なんて言っても、誰もわからない。

なにしろ、現在の日本軍には「大将」がいない。単なる「将」とだけ呼ぶ。少将は「将補」だ。なんのことかわからない。

これはどの階級も同じで、常に次のような階級の常識的な言い方と対応させなければならない。

大佐は「1佐 」中佐は「2佐」少佐は「3佐」 大尉は「1尉」中尉は「2尉」少尉は「3尉」軍曹は「1曹」一等兵 は「1士」。

しかも、海外メデイアや外国人に紹介するときは、海上自衛隊1尉なら海軍大尉だから「ルテナ:Lieutenant」、陸上自衛隊1尉なら陸軍大尉だから「キャプテン:captain」と言い換えなければならない。本当に煩わしい。

こんな馬鹿げたことを、いったいいつまで続けるのだろうか? 

■日本が戦争したくてもできない3つの理由

戦争や軍事の論議は、平和のために行う。現実を見て見ぬふりをして、言葉の言い換えをしてもなにも解決しない。言い換えや、現実的に成立しない話を元にするのでは、かえって危険を招く。

そこで、最後に「日本を戦争ができる国にしていいのか」と問うなら、次の3つの現実を、もっと真剣に考えてほしいと主張したい。なぜなら、この3点を解決しないと日本は戦争などできないからだ。

(1)日本は軍隊を持っているし、兵器もある。しかし、戦う現場兵士が高齢化して、とても戦える組織ではない。少子化で若い兵士も入って来ず、現在の日本軍は階級が上のロートル兵士ばかりになっている。こんな軍隊で戦争をやったら即負けるだろう。本当に戦争ができる国にするなら、ロボット兵士軍団をつくり、サイバー攻撃部隊を強化するしかない。

(2)戦争するためには莫大な戦費が必要になる。では、そのカネをどうやって工面するのか? 増税だとしたら、国民が大反対する。では国債の発行かというと、これ以上国債を発行してそれを日銀に引き受けさせたら、債務のGDP比240%という国だから、確実に破綻する。破綻しなくとも、円安大インフレになり、国民は疲弊する一方になる。

(3)戦争をするということはアメリカ軍と共同の軍事作戦を行うということ。とすると、英語が共通言語になるが、日本軍兵士の99%は英語ができない。たとえば、弾が飛んできて「deck!」(伏せろ!)と言われても、誰も伏せないから即死かもしれない。

アメリカ軍と共同作戦を行いたいなら、法律を変えるより、自衛隊員に英語の勉強をしてもらうことのほうが先だろう。

−というわけで、もうそろそろ言い換えをやめましょう。言葉遊びをやめましょうと、言ってみたい。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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