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朝日新聞「安保法制反対キャンペーン」は、自身の由緒ある歴史と伝統を無視した愚挙

山田順作家、ジャーナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

安保法制をめぐっての新聞メディアの対極した報道が続いている。単純に分けて、朝日、毎日は反対、読売、産経は賛成と言っていいだろう。その結果、前者は「リベラル」(左)、後者は「保守」(右)ということになっている。

しかし、私はこうした線引きを信じておらず、そもそも新聞には言論はないと思っている。マスメディアが信用できるとしたら、それはたった一つ「大衆迎合主義」ということだ。

ほかのビジネスと同じように、「お客様は神様」で、「消費者のニーズにあった商品」をつくっているからだ。

こうした観点から言うと、最近の朝日新聞はどうかしてしまったとしか思えない。なぜなら、日本を代表する新聞という由緒ある“歴史”と“伝統”をすっかり忘れてしまったからだ。

朝日の伝統というのは、「大衆迎合主義」「部数至上主義」である。これまでは「平和と民主主義を守る」ことでずっと売れてきたので、リベラル言論をやってきた。

しかし、戦前を見ればまったく反対で、ひたすら「戦争せよ!」と論陣を張っていた。そのほうが売れたからだ。日中戦争時には、蒋介石のバッグにいる英米を敵視し、「大英帝国と一戦を辞さず」などと書いている。

朝日の論調が明らかに大衆迎合主義になったのは、満州事変が起こってからである。当時、1931年に約140万部だった部数は、1938年、日中戦争に突入すると250万部に達し、その後も増え続けた。朝日新聞の戦争報道は他紙を圧しており、戦地へ特派員を大量に派遣し、講演会や映画でも儲けた。朝日新聞は、マーケットリサーチに長け、経営としては、そのときどきに正しい判断をしてきたのである。

その結果、1941年、東条英機内閣ができたときは「国民の覚悟はできている」と書いた。つまり、朝日は日本国の安全保障を最優先で考え、国を守って戦いたい日本国民とともに歩んできたのだ。

この朝日の伝統は、戦後も一貫してきた。だから、新しく国を守ってくれることになったアメリカ占領軍には恭順を示した。彼らが持ち込んだリベラル思想、民主主義、憲法を日本人が熱烈に歓迎したので、それに即して紙面をつくった。「戦争は間違っていた」「憲法を守る」「民主主義を守る」と書けば、部数は増えた。

1960年の安保では「暴力を排し議会主義を守れ」で部数を伸ばし、「平和の祭典」東京オリンピック後の1965年、朝日新聞は日本の新聞で初めて500万部に達した。そして、その後も順調に部数を伸ばし、1990年代に入ると部数はついに800万部を突破した。

日本の新聞の部数は1997年以来減ってきたが、昨年、朝日はほぼ一人負けの部数減に見舞われた。次が、2014年12月の主要4紙のABC部数だ。( )内は前年同月比である。

朝日新聞 680万9049部(−70万7509部)

読売新聞 914万2753部(−62万4968部)

毎日新聞 327万7062部(−5万1657部)

産経新聞 160万6021部(+9395部)

朝日の部数減は70万7509部、なんと全部数比で10%を超えている。朝日より部数が多い読売も約62万だからそう変わらないとも言えるが、これは読者の新聞離れ(とくに若者の紙媒体離れ)の結果と考えられる。朝日は、そうした読者の新聞離れ以上に部数を落としているのだ。

ところが、産経だけは部数を伸ばしている。

これは、やはり「従軍慰安婦」「吉田調書」誤報問題が大きく響いたと言うしかない。そもそも、朝日がこの問題で謝罪会見を行ったのも、「このままでは部数減が止まらない」と判断したためだったはずだ。

現在、朝日の実売部数はABC部数を基に「公称700万部」ということになっている。しかし、ここには読者に配達もされず購読料も発生しない「押し紙」が含まれるため、本当の部数はもっと少ない。押し紙率を2割から3割とすると、朝日の実売部数はせいぜい500万部だろう。

とすれば、これは深刻な問題だ。とりあえず、この部数減を少しでも押しとどめるには、方策は一つしかない。満州事変当時に帰り、読者にきちんと迎合するのだ。ビジネスにならなくなったリベラル(左)を捨て、ビジネスになる保守(右)に切り替えるべきだ。

そもそも日本のリベラル言論と保守言論は、ともに欧米とは違う「ねじ曲がった」現実無視言論だから、そんなものにとらわれる必要はない。朝日は自分たちの「歴史」と「伝統」に立ち返って、国民の気持ちを汲み上げることに専念すべきだ。つまり、大衆迎合すべきなのだ。得意の誘導世論調査ではなく、本当のマーケティングをやれば、いまの大多数の日本人がなにを考えているかわかるはずである。そうして、正しい経営判断をすべきである。

私は長年、朝日を愛読してきた。読めば、日本人がなにを考えているかがよくわかったからだ。しかし、最近の朝日ではこれがわからない。いくら、読んでも現実無視のファンタジー少数意見が山ほど載っている。

安保法制は、朝日が言うように「戦争法案」である。これで、米軍といっしょに戦争ができる。だから反対する理由(違憲ということは別にして)はない。

つまり、これをしっかりとビジネスに結びつけなければ、伝統ある朝日新聞とは言えない。「慰安婦」という嘘でも、しっかりビジネスしてきのだから、一刻も早く、本来の姿に立ち返ってほしい。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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