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安保法案成立に反対した野党とデモ隊は、今後も日本の平和と安全を破壊し続ける気なのだろうか?

山田順作家、ジャーナリスト
ファンタジック・ジャパン(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

9月19日の未明、安全保障関連法が、大混乱のなか参院本会議で可決されて成立した。しかし、これで日本の平和と安全が強化されたかと言えばそうではない。日米安保はいまだに片務条約のままだし、日本の安全保障にはまったく役立たない日本国憲法は今後も存在し続けるからだ。

しかも、“空想主義集団”(ファンタジア住民)と化した野党の抵抗と、国会を取り囲んだ“反平和主義者たち”のデモはまだまだ続きそうだ。この人たちは「新法制の廃止を要求し、安倍政権との戦いを決して止めない」と言っている。

彼らはいったいいつまで、毎日、真面目に働いて暮らしている私たちの平和と安全を脅かそうとするのだろうか? 本当に日本のことを考えるなら、国会で「ピンク鉢巻」「牛タン戦術」「騎馬戦」「飛び乗り」をするだろうか? 国会の外で、「平和を守れ」「徴兵制につながる」「子供を守ろう」などとプラカードを掲げて叫ぶだろうか?しかも、自分たちの声を「国民の声」だと勘違いしている。

こうした点で、彼らはかつて小泉政権を熱狂的に支持した「B層」と重なる。

勝手に「平和を守れ」「戦争反対」と叫んでも、安定した同盟関係、集団的自衛権、抑止力としての軍を持たないと、「平和」は守れないし、かえって戦争に巻き込まれる。「平和を愛する諸国民の公正と正義に信頼して」(憲法前文)では、日本が世界中から孤立し、同盟国からも見放されて、いまや海外に展開する日本企業と日本人の経済活動と安全は脅かされるだけになる。

自分たちがリベラルで“正しい”とする『朝日』『毎日』などのメディアは、海外メディアが抗議デモを取り上げ、「ほら海外までこんな反応だ」と言いたいようだが、海外メディアはデモを季節外れの日本の“夏祭り”ぐらいにしか思っていない。日本のデモより、欧州に押し寄せる「難民問題」に紙面を費やしている。

もともと日本に大した興味がない海外メディアの関心は、中国の習近平国家主席の訪米と、25日に行われることになったオバマ大統領との首脳会談に移っている。なにしろ、今回は「国賓としての訪米」だ。

「中国による南シナ海での埋め立て問題、サイバーセキュリティー問題、中国発とされる世界経済の不安定化問題などについて議論を行うとみられる」と伝えらえるが、米中会談の成り行き次第では、日本の安全保障はさらに脅威にさらされる可能性がある。

なぜなら、中国は首脳会談の直前になって、わざと南シナ海での活動を活発化させ、「たとえアメリカがどんなに批判しようとも自らの国益を追求し続ける」というシグナルを発信しているからだ。

この中国の強気の姿勢に対し、アメリカ側は、伝えられるかぎり弱気だ。それが表面的なものかどうかはわからないが、オバマ大統領はやはり中国びいきである。たとえば、訪米初日のシアトルでアップルやグーグルなどのIT企業幹部とのイベント開催など、歓迎行事が目白押しだ。

日本が安保法案成立でごたつく間に、日本にとっては憂慮すべき報道があった。14日の『ワシントン・ポスト』は、習近平国家主席の訪米前にアメリカは中国に経済制裁を行わないとの、匿名の米政府関係者コメントを伝えた。11日に行われた米中高官協議での合意だという。

また、17日の『新華社通信』は、中国とアメリカが合弁企業を設立し、ロサンゼルスーラスベガス間を結ぶ全長370キロの高速鉄道(新幹線)を共同で建設する計画で合意したと伝えた。

私は9月初めから2週間ほど、アメリカにいた。アメリカのメディアは毎日のように、一気に大統領候補の人気者になったドナルド・トランプ氏の発言を流していた。彼は、9月15日、ロサンゼルスを訪れ、アメリカとメキシコ、中国、日本などの各国との間には貿易不均衡がありすぎると訴え、ロサンゼルス港を指差して、「日本は大型船で何百万台もの車をここに送ってきている」と言い放った。メキシカンたちは「人種差別主義者は帰れ」と叫んでいたが、聞く耳を持たなかった。

トランプ氏はアジア人が嫌いである。すでに、彼は8月のアイオワ州での集会で「日本が攻撃されれば、アメリカは助けに行かなければならない。だが、われわれが攻撃を受けても、日本は助ける必要はない。日米安保条約は不公平だ」と言っている。

まさか彼が大統領になるわけがないと安心していてはいけない。彼のこうした考え方は共和党だけではなく、民主党の間でも主流になってきているからだ。ここで付け加えておくが、トランプ氏はこれまで、米韓同盟についても「アメリカは韓国を守っても得るものはなく、守る必要はない」と言っている。

今回、なぜ日本が安保法案を成立させねばならなかったのは、明らかな理由がある。

それは、アメリカ軍がリバランス政策によって、アジア太平洋地域から引き始めたからだ。アメリカは2003年から、海外駐留軍の体制の根本的な見直し(Global Posture Review, GPR)に入り、その一環として、現在、沖縄の海兵隊を本格的にグアムに移転し始めている。

このアメリカの軍事後退を見越して、中国は東シナ海、南シナ海における軍備拡張をはかってきた。すでにフィリピンは、ミスチーフ礁を中国に奪われ、それまで実行支配してきたスカボロー礁まで失った。

アメリカではこの中国の動きを見て、「尖閣までそうしてはならない」という意見が出て、昨年、オバマ大統領が来日の際に、「尖閣は日米安保の適用範囲」と言うことになった。しかし、中国は相変わらず、尖閣への挑発を続けている。それなのに、辺野古基地建設には安保法案以上の反対運動がある。

アメリカ軍の沖縄からの移転費用の多くを日本が負担することで、すでに日米両政府は合意している。

かつて日本政府やメディアは「沖縄からグアムに移転するのは、海兵隊の司令部が中心。ヘリコプター部隊や地上戦闘部隊などの実戦部隊は沖縄に残る」としてきたが、こがウソだったのは、いまや明らかだ。

発表されているアメリカ軍の移転計画では、現在約2万人の在沖縄海兵隊は、約9000人がグアムやハワイ、オーストラリアなどに移転。このうち、グアムには約4700人で、司令部ばかりか実戦部隊も移転してしまうからだ。

すると、この移転で沖縄に残る海兵隊の兵力は1万1500人となる。ただし、移転が完了するのは2020年だ。つまり、沖縄に残るヘリ部隊のために辺野古の新基地が必要なのではなく、日本自身がアメリカ軍移転後の軍事的空白を埋める必要に迫られている。

アメリカは口では「日本を守る」と言いながら、実際には、日本防衛の負担を減らしているからだ。

このようなアメリカ軍のアジア・太平洋地域からの後退がわかれば、なぜいま日本政府が集団的自衛権をめぐる憲法解釈を変えなければならなかったのかは、明白だ。アメリカはかなり以前から「日本は自分たちで守れ」というメッセージを送ってきたのだ。

野党も抗議デモの方々も、「国民の声」を代表しているかのように振る舞い、今回の法案成立で、「日本の民主主義は死んだ」などと言っている。しかし、民主主義は空想の上には成り立たない。私たちの目の前にある現実にどのように対処していくかを決めるのが民主主義だ。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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