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世界経済は成長エンジンを失い日本は不況突入へ!

山田順作家、ジャーナリスト
国連で演説する安倍首相(写真:ロイター/アフロ)

■世界情勢を展望してみると「悲観材料」ばかり

欧州に難民が押しかけ、ドイツ経済がフォルクスワーゲンの不正問題で失速。チャイナショックで中国経済のバブル崩壊が判明。ブラジル経済はオリンピックが開催できるかどうかも危ぶまれるほどの落ち込み。ロシアはシリアで空爆を始め、地上ではイラン軍がシリア政府軍を支援。石油価格は落ち込んだままで資源国の財政は悪化。FRBは利上げができない状況に。

こう並べると、いまの世界は「悲観材料」ばかりである。その結果、世界の投資家たちは、完全に目標を見失ってしまった。

「これまではインデックスさえ持っていれば安心だった。世界がどんなに混乱しようと、全体では成長を続ける。しかし、今後はインデックスでさえ不安だ」という声が聞こえてくる。

これまでの世界経済には、成長を期待させるテーマがあった。たとえば、ITによるデジタルエコノミーの進展、新興国経済の興隆、中国の大発展など。しかし、いまはそれがない。

中国の習近平主席の国連演説に出席者は少なく、その少ない出席者も真剣に耳を傾けていなかった。それよりもっと少なかったのが、日本の安倍首相。会場はガラガラだった。

■金融政策は実体経済には効かず資産に効いただけ

リーマンショック以後、世界中で非伝統的な金融政策、つまりマネーの量を増やすという「量的緩和」が行われた。日本は、アベノミクスでこの流れに乗った。ところが、その結果はいまや明らかだ。

量的緩和でアメリカは持ち直したが、成長しても所得が増えたのは上位2グループのみで、格差がよりいっそう開いた。

結局、このような金融政策は実体経済には効かず、株価、地価などの資産に効いただけだった。これは、日本も同じだ。株価は上がったが、給料はまったく上がっていない。もし、このまま世界中で緩和政策が続けば、一般層はますます貧しくなり、資産を持つ層だけが豊かになるというイビツな社会になる。そうなると、資本主義のダイナミズムは失われ、最終的に世界は成長しなくなる。そして最後には、行きすぎた量的緩和の反動で資産価格の下落が起きる。資産を持つ者まで貧しくなる。

■7-9月期もマイナス成長で「不況」突入は確実

こんな状況のなか、もっとも悲惨な結果になりそうなのが、日本経済である。首相は勝手に「アベノミクスは第2ステージに入った」と宣言したが、現在、刻一刻とアベノミクス以前よりもひどい状況が迫っている。

すでに、4-6期はマイナス成長が確定した。続く7-9月期は持ち直すと言われてきたが、いまやそういう見方は吹き飛んだ。経済産業省が9月30日発表した8月の鉱工業生産指数速報値を見ると、前月比0.5%低下の97.0で2カ月連続の低下。在庫率指数は6.1%上昇の119.1と、リーマンシック時と変わらない。2期連続のマイナスは、すなわち「不況」突入ということだ。

これを回避するため、政府は補正予算を組み、また無駄な財政出動をする。そして、日銀は再緩和(バズーカ砲第3弾)に踏みきるかもしれない。メディアは盛んに「補正予算、追加緩和が期待される」と書いているが、いったい誰のためにそんなことをやるのだろうか?

■外国人に見限られ、GPIFも日銀も弾が尽きる

すでに、外国人投資家は中国に続いて日本を見限った。

それを象徴するのが、東京株式市場から、いっせいに外国人が逃げ出したことだ。9月第2週に、外国人は1987年のブラックマンデー時に匹敵する1兆円以上を「売り越し」た。そして、第3週も6週連続となる7857億円の「売り越し」が記録された。

外国人売りによる株価を支えているのは、ご存知、GPIFによる公的資金だが、その弾も尽きようとしている。GPIFが8月末に発表した4-6月期の運用実績によると、株式の組み入れ比率が約23%。目標は25%だから、もう購入資金がほとんどない。弾が尽きようとしている。日銀のETF買いも弾がない状況だ。

これまでは、「量的緩和=円安=株高」という“公式”が成り立った。しかし、この“公式”が成り立たなくなる日が来るかもしれない。

■生活物価は上がっているのに給料は上がらない

株価より、一般国民の生活にとって大事なのは、給料が上がるかどうかである。10月7日の記者会見で、日銀の黒田総裁は「賃金は上昇しているが、最高水準にある企業収益や人手不足を勘案すると賃金はさらに上昇していく余地はある」と述べたが、これは強弁だ。

黒田総裁のこの発言は、は、10月5日に厚生労働省から発表された8月の毎月勤労統計調査(速報値)を受けてのものと思われるが、その数値は表面上のものにすぎない。

発表では、実質賃金指数は「前年同月より0.2%増、2カ月連続のプラス」だが、これは物価の下落に助けられてのものである。たとえば、7月は全体で0.3%の低下である。しかし、いちばん低下したのはガソリンなどエネルギー価格で、0.8%も下がっている。

ところが、毎日の生活に欠かせない生鮮食品は上がり続けている。7月は前年同期比で7.2%増、8月は7.3%増である。ということは、クルマを持たない人にとっては、実質賃金は低下している。いまの、若者たちはほとんどマイカーを持っていない。また、日本の人口の約3割、約4000万人いるという高齢の年金生活者も、その多くがクルマとは関係のない生活をしている。

■中国の消費の冷え込みのすさまじさ

私がたびたび取材している中国進出企業のオーナーは、先々週、上海に出かけた。「中国撤退を決めたので、その処理のためだが、うまくいくかどうかわからない」と不安げだった。

すでに、上海からは多くの外国人が逃げ出した。外国人居住区として発展した古北新区では、外国人向けマンションの住民がどんどん減っている。

「カルフールに行っても、外国人の姿はまばら。スターバックスに行っても外国人はほとんどいなくなった。昔は、行列ができて入れないこともあったが、いまはガラガラだ」と言う。

中国の消費の冷え込みは、もはや救いがたいレベルに達している。中国自動車工業協会が8月に公表した数字は衝撃的だった。なんと、7月の全国の自動車生産台数は151.8万台で、前年同期比で約 11%減、前月比では約18%減である。自動車も売れなければ、スマホも売れていない。4-6月期の中国のスマホ販売台数は、前年同期比で約4%減、四半期ベースで初めて前年を下回った。

こうした中国経済の崩壊の影響をもっとも大きく受けるのは、日本である。日本のメディアは、相変わらず中国人観光客の「爆買い」報道を続けているが、もうじきこれも止まるだろう。

■誰も聞いていないのに難民支援に約8億1000万ドル

前記したように、安倍首相は、9月29日に国連のガラガラの議場で演説をした。そうして、シリア難民支援に、ポンと約8億1000万ドルを拠出すると表明した。これとは別に中東・アフリカの紛争地域の復興支援にも約7億5000万ドルを出すと言った。

難民と中東・アフリカ支援金、合わせて15億6000万ドルは、円換算で1870億円にも達する。いったい、どこにそんなおカネがあるのか。

安倍首相は就任以来、世界中でバラまきを続け、その額30兆円に達するとされている。消費税1%の税収は約2兆円とされるから、すでに私たちは消費税15%分を世界中にバラまいたことになる。

■失われた「大国ニッポン」をひたすら追い求める愚

というわけで、私たちは、今後日本を襲うアベノミクスの反動による大不況に備えておくべきだろう。メディアの報道を漫然と見ているだけでは、将来を見誤る。

この10月末から、安倍首相はまたまた得意の「地球儀外交」を始める。まずは、中央アジア諸国を歴訪し、11月はAPEC、ASEAN、COP21と国際会議に次々に顔を出す。おそらく、そのたびにまた多額の資金がバラまかれるだろう。

安保法案審議で、左翼メディアや反対派は「民主主義の危機」を訴えた。しかし、アベノミクス第2ステージのほうがはるかに民主主義の危機である。なぜなら、こんな状況なのに、首相と政府は、すでに失われた「大国ニッポン」をひたすら追い求めているからだ。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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