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「舛添劇場」が終幕して「参院選」に突入---未来がまったく見えない日本経済

山田順作家、ジャーナリスト
先が見えない日本経済をいったいどうするのか?(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

■「舛添“逃げ切り失敗”劇場」の終焉

この2カ月間、騒ぎに騒いだ「舛添“逃げ切り失敗”劇場」だが、6月20日の「無言逃亡」によって、あっけなく終幕した。残ったのは「セコイ」という言葉だけだったのではないか?

舛添氏はたしかに許せないが、彼がこうしたことができたのは、自治体の条例、政治資金規正法などが「ザル法」だからだ。さらに言えば、日本の政治が民主体制とは言い難い、異質のシステムで動くからだ。

今回のことのきっけとなった「文春砲」が放たれるまで、舛添前知事の評判はよかった。それは、彼が頭脳明晰のゆえに、この日本システムをよく学習してきたからだ。それは、一言で言うと「バカ殿システム」(=神輿システム)である。

日本の組織においては、トップは下に担がれる「神輿」、つまり「バカ殿」でいいのである。いくら、自分をアタマがいいと思っても、そのアタマを使ってはならない。アタマがいいほど「バカ殿」を演じなければ、必ず「神輿」を外される。

舛添氏と同じく金銭疑惑で辞任した猪瀬直樹前知事は、行政改革をやろうとした。バカ殿ではなかった。そのため、労働組合の強い反発を受けた。しかし、舛添氏は改革などいっさい言い出さず、官僚の言いなりに都の財源を気前よく使った。事務方が用意したファーストクラス、5つ星スイートで、「海外視察豪遊」を楽しんだ。「公用車で別荘通い」「家族で巨人戦観戦」、「美術館巡りという“趣味視察”」を存分に楽しんだ。

東京五輪の“裏金招致”疑惑の追及などには無関心で、まして、五輪利権で潤う既得権者のために、いくらでも都の資金を投入することを許した。

こんな担ぎ易い「神輿」はない。しかし、メディアは「神輿」ばかり追及し、「バカ殿」遊びをさせてきた都の役人、都議会議員を追及しなかった。「ザル法」改正のキャンペーンすらしなかった。

こうしていま、私たちは途方もない虚脱感のなかにいる。

自民党の都議5期を務める重鎮・野村有信都議の言葉を覚えているだろうか?

「侍で言えば、打ち首よりも名誉ある切腹のほうがいいでしょ。最後の引き際は尊敬すべきだと思いますよ。そう思って、みなさん、許してあげましょう」

こう言う議員は、タイムマシンに乗せて、戦国時代・江戸時代に追放してほしい。

■誰も争点がわかっていない「参院選挙」

7月10日の投票に向けて、参議院選が始まった。メディアは与党が改選議席121のうちの過半数61を取れるかどうかということばかりに注目している。

それで、安倍総理のこれまでの演説を聞くと、目眩を覚える。

「参院選の争点は経済政策だ」「有効求人倍率は24年ぶりの高い水準だ。アベノミクスをやめてしまえば、4年前に逆戻りだ」「アベノミクスはまだ途上だから、アクセルをふかす」

ついこの前、サミットのときは「世界経済はリーマンショック前と同じ状況にある」と言って、消費税増税を延期したことを忘れ、日本経済は好調であるかのように言っている。どういう現実認識をしているのだろうか?

ところが、野党も野党だ。

「アベノミクスはすでに限界にぶち当たっている」と批判だけを繰り返し、「憲法改正反対」などと、現時点においてどうでもいいことを訴えている。こちらも聞けば聞くほど目眩がする。

■地銀の崩壊・再編が進んでいる

昨年から地方銀行の再編が加速化している。列記してみると次のようになる。

・横浜銀行と東日本銀行

・鹿児島銀行と肥後銀行

・トモニホールディングス(徳島銀行+香川銀行)と大正銀行

・足利ホールディングスと常陽銀行

・東京TYフィナンシャルグループ(東京都民銀行・八千代銀行)と新銀行東京

・ふくおかフィナンシャルグループと十八銀

・千葉銀行と武蔵野銀行

これはアベノミクスが引き起こした「金融抑圧」の影響が大きい。また、昨年、金融庁長官が畑中龍太郎氏から森信親氏に代わり、その結果、金融行政が大転換したことも大きな原因だ。 

それまで地銀は「金融検査マニュアル」に沿って不良債権を処理し、バランスシートの改善ばかりに力を入れてきたが、森長官は「地方創生」への貢献度を求めるようになった。

さらに今年になって日銀が「マイナス金利」を導入したので、地銀の収益力は著しく低下した。

地銀関係者からは金融庁に対して「怨嗟の声」も上がっているが、国の政策である以上、従う以外に道はない。地銀の若手行員のなかには、「将来が見えない。早めに転職したほうがいい」と言う者までいる。

もう一つ、フィンテックが進んでいることも、銀行の収益力を圧迫している。この流れに乗ることが、いまや銀行の大きなテーマだが、フィンテック革命が進めば進むほど、銀行は“中抜き”されるので、予断を許さない。

■「AI革命」はなにをもたらすのか?

今年は「AI革命元年」と言われている。人間と対話できるAIロボット「ソフィア:Sophia」が登場したり、マイクロソフト社が開発したAIチャットボット「テイ:Tay」が登場したりと話題に事欠かない。

また、韓国で行われたAIと囲碁の世界チャンピオンの対決で、AIが4勝1敗とチャンピオンに圧勝したことは、私たちに大きな衝撃をもたらした。

AIはもはやSFの世界の話ではなく、現実の話である。AIとはいかなくとも、たとえばスーパーのレジが自動化されたこと、会計ソフトが複雑な税務処理をしてくれることなど、IT化の流れの行き着くところは、やがて人間がAIにとって代わられるということだ。

話題の自動運転車(ロボットカー)もAIを搭載する。しかもその実用化は2020年に達成される見込みだ。

前記した金融のフィンテックも同じだ。

さらに、医療でも将来はAIが行うだろう。現在、医療の世界では「スマホ診療」とか「遠隔診療」という「ヘルステック」(「ヘルス(健康)」と「テック」との合成語)が進んでいる。

たとえば、スマホによって自宅にいながら医者の診断を受ける「スマホ診療」では、専用アプリをインストールしたスマホやタブレット端末により、内臓カメラで顔色や患部の映像および血圧などのデータを送る。そうすると、医者はそれを見ながら診断を下し、投薬を指示したり、来院での診察を指示したりする。

「遠隔診療」では、仮想現実(Virtual Reality:VR)の技術を組み合わせた“3D(3次元)遠隔診療”も実用化されつつある。 VRを使うと、手術シミュレーションや遠隔手術も可能になる。AIがさらに発達すれば、ロボットによるVR手術も可能だという。

こうなると、医者の役目をAIが行えば、将来的に医者はいらなくなる。

■ヘッジファンドも「AIトレード」に移行

話を「フィンテック」に戻すと、衝撃的なのは、昨年からヘッジファンドがAIトレードを始めたことだ。アメリカの大手ヘッジファンド「ブリッジウォーター」や「ルネッサンス・テクノロジーズ」では、AIを導入して取引を始め、それなりの成果を上げているという。

「AIトレード」は、これまでのコンピュータによる「HFT(超高速取引)」とはまったくの別のものである。HFTは、たとえば先物と現物のわずかの差を突いて、ネットを通して瞬時に大量の売買をすることで収益を上げる。

しかし「AIトレード」では、相場を動かすあらゆる動き、たとえば世界各国の政治状況、経済指標、中央銀行の政策、要人の発言、市場のセンチメントから、企業業績にいたるまでをディープラーニングさせて、投資銘柄を決定する。さらに、いくつかのAI同士を対決させ、生き残った最強のAIに最終取引を任せる。

こうなると、相場を予想するエコノミストはもとより、ヘッジファンドの運用を管理するクォンツ(人間)もいらない。黒田バズーカ砲のサプライズ緩和も、AIは想定の範囲に入れられるのだ。

もし、こうしたAIを政治の世界に持ち込めば、財政・金融政策を決める官僚や政治家も不要になるだろう

■たった2年で終わった「爆買い」

去年、あれほどメディアが騒いだ中国人の「爆買い」は、すでに終わりつつある。それを象徴するのが、ヤマダ電機が「爆買い」吸収のためにつくったJR新橋駅前店(免税専門店)を5月の連休明けに閉めたことだ。JR新橋駅前店は2015年春にオープンしたばかりなのに、たった1年で見切りをつけたのである。

爆買いを加速させたのは「円安」と「中国経済の発展」だった。いまや、この2つはなくなりつつある。

おまけに中国政府は、この4月、高級品の関税を引き上げ、越境EC(電子商取引)に関する税制を変更した。これで、事実上免税だった個人輸入扱いの荷物に一般貿易並みの税金が課されるようになった。

もはや業者にとっても、個人旅行客にとっても日本での「爆買い」は旨味がなくなってしまった。

その結果、日本百貨店協会がまとめた4月の全国の百貨店のインバウンド向け売上高は3年3カ月ぶりに前年割れした。百貨店売上の落ち込みは大都市ではそれほどもないが、地方では激しい。10大都市ではマイナス2.6%だが、そのほかの地区ではマイナス6.2%である。

この爆買い終了をいちばん反映しているのが、いまや中国企業となった「ラオックス」の株価だ。ラオックの株価は現在80円台だが、2014年8月は50円台で、その後急上昇して2015年7月にはなんと564円をつけた。しかし、爆買いが減るにつれてこの1年で急降下してしまった。

■東大がアジアの大学で7位に転落

6月22日、THEによるアジア大学ランキングが発表された。それによると、これまでずっと1位だった東大は、一気に7位に落としてしまった。

1位 シンガポール国立大学(シンガポール)

2位 南洋工科大学(シンガポール

2位 北京大学(中国)

4位 香港大学(香港)

5位 清華大学(中国)

6位 香港科技大学(香港)

7位 東京大学(日本)

8位 浦項工科大学(韓国)

9位 ソウル大学(韓国)

10位 韓国科学技術院(KAIST)(韓国)

この事実はなにを物語るのだろうか?

これまで日本の東大は、アジア各国の2番手の留学組(1番手は欧米留学組)にとって、目指すべき大学の一つだったが、そうではなくなったということだ。

もはや、日本の大学は完全にガラパゴス化し、東大でさえ魅力的でなくなった。それは、日本人の若者にとっても同じで、今後、日本の優秀な学生は東大をスルーして欧米に直接留学する傾向が強まるはずだ。

人材の劣化が進めば、日本経済にとって大きなダメージになる。

■国債残高が35%になった日銀

株価下落のなか、日銀とクジラによる株価の下支えは続いている。日銀のETF買いは年間3.3兆円だから、まだ玉は残っている。

しかし、日銀の国債保有残高は、6月10日時点で373兆円に達した。これは国債発行残高の35%にも上る。このままいくと、あと2年以内に500兆円になりGDPと同規模になる。

世界の先進国に、こんな中央銀行はない。国債はリスクなしとされるが、いずれ日本国債はジャンク債扱いになるはずだ。

そうなれば、長期的には必ず円安になる。これを歓迎する向きがあるが、本当にそうだろうか?

現在、円が100円を切ると言っている人間たちがいるが、彼らは目の前の相場しか見ていない。また、いまだに経済記者は「円は安全資産」と書いている。信じないほうがいい。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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