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「尖閣の波高し」と「50年国債」という戦後日本最大の危機

山田順作家、ジャーナリスト
中国海警(写真:第11管区海上保安本部/ロイター/アフロ)

■一気に高まった尖閣諸島での日中対決

まずは、外交危機というか、日本の平和と安全の危機が、このオリンピク期間中に一気に進んだ。中国公船による尖閣諸島周辺の接続水域と領海への侵入が繰り返されてきたからだ。これは明らかな中国による挑発行為で、日本の出方が試されている。

今回の挑発は、これまでと比べると明らかにレベルが上だ。大漁船団は、民兵が乗る武装漁船団だし、一緒にいるのは中国の沿岸警備隊「海警」(コーストガード)だからだ。これに、もし中国海軍の軍艦が加われば、日本も海上自衛隊(日本海軍)の艦船を出さざるをえなくなるだろう。

ここまで来ると、これは、第二次大戦以後、日本が直面した最大の「国家的危機」と言えるのではないだろうか?

■国際法を守らないと宣言した中国

尖閣諸島の波をここまで高くしたのは、オランダのハーグの国際仲裁裁判所が下した判決が、中国の主張を全面的に否定したからだ。そのため、日本のお目出度い一部メディアと評論家は、「これで中国は国際的に孤立する」「中国は海洋大国化計画を見直さなければならなくなる」「日本は有利になった」と論評したが、その論評はまったく甘いばかりか、正反対だ。

逆に日本が圧倒的な窮地に陥ってしまった。

なぜなら、この判決を中国は「無視する」としたからだ。中国は次のようなステートメントを出した。「仲裁裁判の判決は無効で拘束力はない。中国は、これを受け入れず認めない」

つまり、中国は世界に向かって国際法を守らないと宣言したわけで、これが日本にとって一大事でなくてなんだろうか?

もはや、中国と話し合いなどできるレベルではなく、解決策があるとすれば、それは「力」によるもでしかないことになってしまった。

■「海上警備行動」を発令できるのか?

いずれ向こうは海軍を出してくる。いや、すでに、今年の6月9日未明、中国海軍のフリゲート艦は尖閣諸島の久場島周辺の接続水域に入っている。6月15日には、中国海軍の情報収集艦が鹿児島県の口永良部島付近の領海に侵入、16日には同じ情報収集艦が沖縄県の北大東島周辺の接続水域を航行したことが確認された。

となると、レベルは「軍」対「軍」になるわけで、日本も防衛大臣が海上自衛隊(海軍)に対して自衛隊法82条により、海上警備行動を発令することになる。これは、武器を使用していいという命令だ。

すでに、海上警備行動は1999年の「能登半島沖 不審船事件」のときに発令されている。しかし、これは北朝鮮に対してだから、はたして中国に対してもこれをやれるのかどうか?

安倍首相の真価が問われるだろう。

■南シナ海と東シナ海はかつて日本の海だった

これまで中国は、「海洋強国」などという馬鹿げたスローガンを勝手に掲げ、フィリピンやベトナムなどから島嶼領土を奪い、南シナ海を中国の内海化することに成功した。したがって、尖閣も同じことになれば、今度は東シナ海も中国の内海化しかねない。

しかし、東シナ海と南シナ海の全域を支配した国家は、歴史上、日本しか存在しない。1942年の大日本帝国は、その意味で、世界史上、最強の海洋強国だった。現在の中国の比ではない。

ただ、東シナ海と南シナ海の全域を支配したといっても、それは拠点の支配であって、地域全体を支配したわけではなかった。その意味で中国がいまやっていることは、時代錯誤の「漫画」だと、日本は彼らに気付かせなければならない。

はたして、そんなことができるのだろうか? 日本は戦後1度も「力の外交」をやったことがない。

■企業決算も貿易統計もズタズタ

もう1つの日本の危機は、言うまでもなく経済である。すでに、アベノミクスの失敗は明らかで、ここに来てそれがより鮮明になっている。もういちいち数字を挙げていくのも虚しいが、以下、いくつか示してみると、次のようになる。

時事通信が8月11日に配信した記事によると、上場企業の4-6月期決算は金融を除き、なんと15.9%の経常減益になっている。この15.9%の減益は1ドル110円台が前提になっているので、100円台となればさらに落ち込むだろう。

こうした日本企業の業績悪化は、貿易統計にも表れている。この7月の貿易統計は、輸入が−24.7%(5兆2149億円)、輸出が−14.0%(5兆7284億円)と、輸出入とも大幅に減少しており、日本経済は縮小を続けている。金額ベースでは、輸出は10カ月連続減少、輸入は19カ月連続減少である。

■消費も低迷しマンションも売れない

国内消費もまったくふるわない。日本百貨店協会が発表した7月の全国百貨店売上高は、1年前に比べ0.1%減少の5598億円にとどまったが、訪日外国人客の売上高は−21.0%で、4カ月連続の減少である。つまり、これまで頼りにしてきた「爆買い」は完全に終了してしまっている。

これは、爆買いに集中依存してきたラオックスの業績に顕著で、ラオックスは第2四半期にとうとう赤字に転落している。売上−22.4%、営業益−90.9% 経常益−91.6%である。

マンション販売もふるわない。

不動産経済研究所が8月15日に発表したマンション市場動向調査によれば、7月の東京都区部のマンション契約率は56.5%と7月としては2008年以来の低さとなっている。首都圏全体では63.3%と昨年に比べて20.4ポイントも落ち込んでおり、首都圏全体でマンション不況となっているのは明らかだ。

■50年国債とヘリコプターマネー

すでに、日本の金融は機能不全に陥り、長期金利はマイナスのまま。そのため、三菱東京UFJ銀行は国債の買い取を中止して持ち高を減らしているし、ほかの銀行も同じように国債の持ち高を減らしている。国債の買い手は日銀だけという有様だ。

その日銀は、ETF買いを拡大し、株価を必死で支えている。これがいつまで続くのかわからないから、株価はこのところ「夏枯れ」状態で動かない。

そんななか、麻生財務相は黒田日銀総裁と会談し、「40年国債」の増発をほのめかした。さらに、WSJ(8月6日)は、「日本政府は戦後最長の年限となる50年物の国債発行を検討している」と報道した。こうなると、もう「永久国債」と言え、それが償還される可能性は限りなくゼロだ。

このところ、ヘリコプターマネーの導入まで囁かれているが、ヘリコプターマネーは現行法令上の禁じ手である。これをやったら、財政や通貨の信認は確実に失われる。

日本経済は、もはやギリギリのところまで追い詰められているとしか言いようがない。

この秋は、本当にやるせのない秋になりそうだ。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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