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トランプのアメリカを受け入れられる不思議。本当に日本人なのか?

山田順作家、ジャーナリスト
トランプタワー前に集まった抗議する人々(写真:ロイター/アフロ)

トランプショックから抜けきれない。CNNをつけ、NYの反トランプデモを見ていた。ユニオンスケアから57丁目のトランプタワーまで行進する若者たちの心情が痛いほどわかる。トランプタワーの前に横付けされたトラックが、分断されたアメリカを象徴している。アメリカは変わってしまった。自由と平等、そして世界に開かれた国ではなくなってしまった。

トランプ当選は、やはり「悪夢」である。とてつもない喪失感がある。ヒラリーかトランプかという予想を外したからではない。トランプの当選がないとしたことは、職業的に不明を恥じるしかないが、一人の日本人に帰ればトランプ当選は受け入れがたいことだ。

トランプ当選を当てた評論家が、いま持ち上げられているが、それはそれでいいと思う。職業的にいい仕事をしたことに間違いないし、見事だからだ。ただし、この人たちが心情的にトランプを応援していたとすれば、その心情は理解できない。なぜなら、トランプは、白人の貧困層や転落中間層の心情を吸い上げて当選したからだ。

つまり、「俺たちが不幸になったのは、移民のせいだ。彼らを排斥しろ」という訴えの根底には、人種差別がある。

差別されているのは、黒人、メキシカンなどのヒスパニック、エイジアンなどである。つまり、私たち日本人は、トランプによって憎悪を植えつけられた白人に差別される側に位置する。「出ていけ!」と言われているのも同然だ。

「隠れオバマがいっぱいいた。裕福な白人も本音を言うとトランプ支持だった」と解説している人がいたが、それが本当だとしても、この現実は日本人としては悲しいことだ。そんなことを得意がって“アメリカ通”として話すのは、自分が白人の側だと勘違いしているとしか思えない。本当に日本人なのだろうか?

自由と平等、そして開かれた国の恩恵を受け、子供をアメリカの大学に留学させた親としては、トランプのアメリカは、国家理念を捨てかねない危険な国になったとしか思えない。その意味で、トランプのこれまでの数々の暴言が、単なる演出にすぎなかったことを願っている。ただ、テレビ討論や演説を見たかぎりでは、彼の本音としか思えなかったが-----。

私たち日本人は、トランプに投票したアメリカの下層白人より下に位置する。まして、東部のエスターブリッシュメントから見れば極東の単なるイエローにすぎない。レイプ魔と言われたメキシカン以下かもしれない。

日本人でトランプを心情的に受け入れられるのは、中西部に行って白人から「このジャップが!」などと言われたことがない人か、それともこの国で自分が日本人であるという自覚なしに育った人だけだろう。

NYの反トランプデモのなかにはNYUの学生がいっぱいいた。彼らがなぜデモをしたのか? 改めて考えてみてほしい。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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