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映画泥棒はなぜ男なのか

山口浩駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部教授

もう誰か指摘しているかもしれないが、最近ある人からいわれて「あっ」と思ったことがあったので書いておく。まずこの映像を見ていただきたい。

映画館で必ず見る「NO MORE 映画泥棒」の動画だ。著作権侵害を戒める啓発のためのものだが、このYouTubeの動画には3つのバージョンが入っている(なんでこの動画がここに上がっているのかはこの際問わない)。ご存じの方も多いと思うが、著作権法の改正にともなって変わってきているのだ。

動画の最初は今のバージョン。違法アップロードされた動画のダウンロードに罰則がついた2012年10月以降のものだ。2番めの動画は違法アップロードされた動画のダウンロードが違法化されたが罰則はなかった2010年1月から2012年9月までのもの、3番めの動画はそれ以前のものだ。

だんだん規制が強化されてきたわけだが、ここで取り上げたいのは著作権法の問題ではない。2番めの動画、つまり、いわゆる違法ダウンロードの違法化が行われた時点(つまる罰則がつく前)の動画では、違法ダウンロードをしているのは女性だった。それが、違法ダウンロードに罰則がついた以後の動画では、違法ダウンロードをしているのが男性に変わっている。

なぜだろうか。この動画を作った人の真意はもちろんはかりかねるが、見た者の1人としては、「女性を逮捕するという図を避けたかったんだな」というのがすなおな感想だ。何か事情があるのかもしれないが、罰則化前は女性だったものを罰則化後は男性にわざわざ変えたというのは、少なくともそうとられてもおかしくはないということを承知の上でやっていると考えていいと思う。

観客への配慮、という要素はあるだろう。映画の観客の男女比についてはよくわからないが、ひょっとしたら女性の方が多いのかもしれない。だが、仮にそうでなかったとしても、女性を悪くいわない、女性を悪者にしないというのは「経営」的には正しい態度、と考えられているのではないだろうか。男性を悪く描いても文句をいう男性はいないけど女性を悪く描くと文句を言う女性はいる、というのはよくいわれることだし。

そもそも、件の「映画泥棒」氏にしたって、最新のバージョンで複数人が出てくるのであれば、その中の1人ぐらいは女性にしておいてもおかしくはないはずだ。もちろんつかまえる側の警察官氏も同様(女性の映画泥棒を男性の警察官がつかまえるとまたそれで何かいう人が出てくるかもしれないが)。ずっと以前、今はなき消費者金融大手、武富士のCMで有名だった「武富士ダンサーズ」も、当初は女性だけだったのがその後(申し訳程度にだが)男性も加えるようになったと記憶している。「映画泥棒」の例をみると、逆方向の配慮は不要ってことなんだろうが、釈然としないものは残る。

こういうことを気にする人がどのくらいいるのかはわからないが、少なくともジェンダーとかいろいろ言ってる方ならちょっとぐらい気にしてもばちは当たらない、のではないかな。

駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部教授

専門は経営学。研究テーマは「お金・法・情報の技術の新たな融合」。趣味は「おもしろがる」。

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