私的録音録画補償金の行方が面白いことになっているようです

山本一郎です。条件闘争の果てに各社各部門の板ばさみになっても華麗な身捌きで存在感を消すスキルが身につきました。

ところで、日本の文化の明るい未来を実現すべく、音楽や映像にまつわる権利者団体の中の人などが定期的に文化庁へ集い、「著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会」という審議が開かれております。これまでの議事録については以下から閲覧することが可能です。

著作権分科会 著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会(文化庁)

今年の2月13日にも平成26年第10回の会合が執り行われました。まだ公式な議事録は公開されていないのですが、小委員会に出席した一部の人々がTwitter上でその模様等をツイートしておりまして、これがなかなか興味深い内容だったようでネット民の間でも話題になっていました。ここにその一部を拾い出してみることにします。

1021 / 椎名委員:ユーザーは「自由かつ無許諾で複製を行うことを通じて」文化的活動を簡便に行うことができる。機器製造者は製造・販売により大きな利益を得ている。一方権利者は日々行われる大量の複製から正当な対価還元を受けることができずにいる。

出典:茂木 和洋

ふむふむ、デジタルな時代にエンドユーザーはコピペし放題、デジタル機器を製造するメーカーはそうした製品が売れて儲かる一方、コピペされているコンテンツの権利者には一銭も入ってこないという指摘ですね。で、こういう事態に対して、権利者としてはどのような提案をするかというと以下のようになるようです。

1025 / 椎名委員:提言として「全ての私的複製に利用される機器を対象とした (対価還元制度)創設」を。対価還元の「支払い義務者は複製機能を提供する事業者に」

出典:茂木 和洋

1029 / 華頂委員:「テレビ録画可能なHDD録画機・外付けHDD・テレビチューナー付PCを政令により補償金対象として指定すべきである」

出典:茂木 和洋

こうした提案について、権利者団体とは相対する立場の視点から同委員会に出席している津田大介さんが以下のように説明しています。

審議会に来たら権利者団体が「(音楽や動画以外のデータも保存されることが多い)外付けハードディスクに補償金をかけろ」という主張をこの期に及んで高らかにしていたので、本当に大変なことだなぁと途方に暮れているところ。

出典:津田大介

【文部科学省著作権分科会著作物の適切な保護と利用・流通に関する小委員会速報】JASRAC、日本レコード協会、CPRAが著作権に関する新しい補償制度を提言。(1)対象は私的複製に供される複製機能とし、機器、媒体、サービスの別を問わず私的複製に供される複製機能を対象とする。

出典:津田大介

承前)(2)補償金の支払い義務者は複製機能を提供する事業者とする。複製機能を構成する機器、媒体、サービスなどの手段を利用者に提供する事業者を支払い義務者とする。とのこと。つまりYouTubeもGoogleもAppleもドコモもauもソフトバンクも全部補償金払えと。わーすごいなー。

出典:津田大介

なるほど、なるほど。今どきの記憶媒体はHDDだけでなく、SSDやUSBメモリ、SDカードなどと多彩ですから、さらに補償金対象は拡大していきそうですね。また、複製機能があると同定できるサービスもこの時代には数限りなくありそうです。これは権利者の皆さんからすればたくさん補償金を確保できそうで誠にいい話じゃありませんか。しかも、権利者団体側の論理に従えば、補償金を支払うのはメーカーやサービスプロバイダという営利事業者ですから、エンドユーザーには迷惑がかからないということのようです。しかし、事業者側はそうしたコストを価格に反映するので、最終的にはエンドユーザーが支払うことになりそうなのですが、そこは斟酌しないようです。まあしょうがないんですかね。

ほかにも、音楽等のデータを一切扱うことがない業務用HDD等はどういう扱いになるのか気になるところでして、当然のように津田さんがそこへ突っ込んでおりました。

1042 / 津田委員:音楽専用機器であれば別だが、汎用の複製機能全体に補償金に類するものを求めるということであれば、音楽等の複製を一切行わない利用者も負担をすることになる。到底納得感を得られるとは思えない。

出典:茂木 和洋

しかし、権利者団体側は全く動じておりません。意志は固いようです。

1043 / 椎名委員:専用・汎用という観点は常に問題になるが、メーカーの利益に注目すると質的に異なるのではないか。複製機能を持った機器を提供することで利益を享受する以上、権利者としては一定の負担を求めていく。

出典:茂木 和洋

で、残念ながらこの問題についての議論はこれ以上の有意義な進展は無かったようで、次回以降で世界各国の現状なども踏まえつつ改めて審議されることになるようです。

それにしても、権利者団体の皆さんはかなり思い切ったなという感が無きにしも非ず。なぜここまで強硬な意見を主張しているのかとぼんやり考えたとき、今や海外では音楽も映像コンテンツも、すべてがストリーミングの時代であることに思い当たります。音楽ならSpotify、映像ならNetflixなどが代名詞となっていますが、いずれも我が国ではまだサービスが始まっていません。

ただ、両社とも日本での事業展開するために準備中であることは確か。もし、こうしたストリーミングサービスが主流になると、人々ははたしてコンテンツを複製しようとするでしょうか。おそらく一部の非常に限られたコアなマニア以外は誰も複製という行為をしなくなる時代がやってくる可能性は高いです。もし、商業コンテンツの私的な録音や録画を誰もしなくなってしまったら、はたして権利者は私的録音録画補償金を請求することが可能でしょうか。まずそれは無理でしょう。

したがって、ストリーミングサービスがまだほとんど普及していないこの時点で、とにかく可能な限りの機器やサービスについて私的録音録画補償金の対象として公的に認めてもらい既成事実化することが狙いなのではないかと穿った見方をしてしまいそうです… が、さすがに日本の文化の明るい未来を考えている皆さんですから、そこまで呆けたことを考えているとは思えないわけでして、やはり不思議な事態に突入しているなと感じる次第です。

それにしても、津田さんは本まで出してネットで政治の動員が進むと喝破し煽った割にネットでの樋渡落選運動が実を結んだ佐賀県知事選をスルーしたり、個人情報保護法の改正では政府案が出て大勢が決した後に鈴木正朝先生呼んで番組やって時機を逸したりして微妙な雰囲気だったんですが、こういう彼本来の畑ではちゃんと議論し、きちんといい仕事をしているので変にオールジャンルを狙わず身の丈にあったピンポイントのジャーナリズムに徹したほうがいいんじゃないかと感じました。

もちろん権利団体が主張する「YouTubeもGoogleもAppleもドコモもauもソフトバンクも全部補償金払え」というのは、お金をかけて制作した権利物が歯止めをかけられず複製され放題になることに対する補償を求めるという意味では別に驚くような内容でもないので、まずはやるだけやってみて、駄目だったらその時考えるみたいな方向にいくんでしょうかね。引き続きの有識者議論を生暖かく見守りたいと思います。