森喜朗さん、お詫びして辞任するべきところが責任を綺麗さっぱり他人に押し付け開き直る名人芸を披露

山本一郎です。あまり炎上は好きではありません。

ところで、安倍政権がついに新国立競技場の計画見直しを発表しました。安保法案の問題とバーターにしているあたり、時期を待っていた節はありますが、7月3日から5日にかけての世論調査で不支持率の構成要因を見ておりますと安保法案よりも新国立競技場問題のほうが全年齢男女で7%も「どちらかというと不支持の理由になっている」「不支持の理由になっている」が高いという結果になっておりましたので、対応待ったなしであったと言っても過言ではありません。

首相が新国立競技場計画の見直し正式表明へ(共同通信 15/7/16)

また、折りしも選考委員でただ一人の建築家であった安藤忠雄さんが記者会見をして、これまた「俺知らねーし」という素敵なお話をされていたのもあって、いままでは「有力者の首に誰が鈴をつけるか」が注目されていたのが、今後は「誰がどう責任を取るのか」「炎上を鎮め、再始動させるにはどうするのか」が焦点になってきたわけであります。

その渦中であるところの森喜朗さん、産経新聞に7月14日の日付でインタビューに応えた内容が今日掲載になっておりました。時期を見て抱いていたのかもしれませんが、追い討ちをかけるように読売新聞でも工期短縮の提言書が出ていることが報じられ、いい感じで計画是正に向けて外堀が粛々と埋まっていっているあたりに本件解決への道筋がおぼろげながら見えているのが安心材料でしょうか。

森喜朗元首相 「新国立競技場の経緯すべて語ろう」(産経新聞 15/7/17)

安保法制→新国立見直しからの森喜朗さん単独インタビュー(やまもといちろうBLOG 15/7/17)

新国立「アーチなしで屋根工期半分に」…提言書(読売新聞 15/7/17)

で、ここまで騒ぎになったわけですけれどもすでに去年、問題があることについては森さんご自身がそう仰っており、文科省幹部も危機を充分に認識していたことはすでに当ヤフーニュース個人でも説明してきたとおりです。

もちろん、森さんは上記産経新聞のインタビューでは「経緯をすべて語ろう」と言っているのであって「組織のトップとして責任をすべて取ろう」と腹を括っているわけではないのがポイントなんですけれども、このあたりは常識的には組織としての責任問題であり、問題の理由が何であれ責任者が何らかの進退を詳らかにするのが筋論であります。というか、ここまでのことをやっておいて、まだ組織委員長として座ろうとしている魂胆が素晴らしいというか、自分は悪いことをしていないという森さんの精神は炭素繊維なみのしなやかな強靭さを持っておられるのかもしれません。

東京五輪の見積8000億円 森元総理「全部再検討を」(テレ朝ニュース 14/10/24)

新国立競技場が「もんじゅ」「えふいち」処理みたいになってる(ヤフーニュース個人 山本一郎 15/7/14)

単純にプロジェクトが炎上した責任を取ってトップが辞めてねという話以上に重要だと思うのは、森さんの経緯の説明を聞いても金額の妥当性について優先順位の低いものを切って、計画上の総額を圧縮する具体的な指揮をとっていないように見えることです。決まった予算が膨れ上がったとき、計画を見直すことはトップの最低限の責務ですが、昨年10月に東京五輪の見積もり8,000億円で森さんが「再検討」とまで言及しているにもかかわらず、今回の産経新聞の記事でも同じ金額が乗っかっていて、目を疑いました。まさか半年以上、計画上の予算削減に何一つ手をつけていなかったとは思いませんでした。

森さんは誠実な人物なのは間違いないのですが、経緯を見る限り無能としか思えません。

森喜朗会長:「もう一度、全部、検討し直してみましょう。そうしないと、8000億円近いお金を東京都が出さなきゃいけない」

森会長は、建設工事の人件費や資材費の高騰で競技施設の整備費の見積もりが8000億円近くに膨らんでいると明らかにしました。これは、開催都市に立候補した時に発表した1538億円の5倍以上になります。そのため、施設の大幅見直しを、都だけでなく組織委員会が直接、整備する施設でも進めているとしました。

出典:東京五輪の見積8000億円 森元総理「全部再検討を」

上記が昨年10月、以下が今回産経新聞のインタビューで出た今年7月14日の内容です。

問題は総事業費だけど、そこは腹をくくって国家的事業だからということで納得してもらうしかないんです。大事なことは、五輪は国と東京都と組織委員会が協力してやることなんです。そして経費を徹底的に精査すること。僕が組織委員会にきて2000億円くらいはすでに圧縮したよ。

それでも東京都が3000億円、組織委員会もトータルで7000億~8000億円はかかる。でも国は2520億円しか出さない。おかしいと思いませんか。3対8対2だよ。

出典:森喜朗元首相 「新国立競技場の経緯すべて語ろう」 

「国家的事業だから帳尻が合わなくてもどうにか国が金を出すだろう」という甘えでもあったのかもしれませんが、その国というのは国民の税金であることが完全にメカ次元に飛躍しております。開催都市に立候補した1,538億円を目指して計画を立案することが大前提なのに、見積もりが5倍になって、そこから自己申告ながら2,000億圧縮したところで予算は4倍強になってしまいます。

しかも、東京都が3,000億、組織委員会が8,000億、国が2,520億となると、足し算ですでに1兆円超えるんですよね。そんな話は初めて聞いたわけです。これに周辺事業費がさらにかかるので、当初予算からするとこれも2倍です。

東京オリンピック 2020 計画書(150ページ)を熟読してみました。(wan55 2013/10/4)

2020年 東京オリンピック/建設予算4554億円 超過は2倍か?(JC-net 2013/10/29)

13年10月の時点で計画書に記された金額の2倍以上になっているわけですが、今年2月に出た2020基本計画書でも大層なことが書いてあります。

東京2020開催基本計画

5.5 予算構造

5.5.1 予算

立候補時の東京 2020 組織委員会予算は、競技の運営、仮設会場の建設など大会運営に

かかる経費を計上し、その予算は 34 億 US ドル(3,013 億円)となっている。

出典:東京2020開催基本計画

これはいま問題になっているキールアーチつきメインスタジアムだけではなくて、有明アリーナやオリンピックアクアティクスセンターといった周辺施設の建設や、既存設備の代替もセットでのお値段になっております。もうこの対外的に発表されている基本計画の時点で、上記森さんが仰った東京五輪2020開催計画上の数字と大幅な齟齬があるわけですね。

デスマーチです。デスマーチですよこれは。

責任感や職業倫理で引け目を感じて多大な責任と膨大な業務を背負わされる官僚や都職員は逃げて! 早く逃げて! という感じが否めません。マネジメントが不在の大本営というのは、太平洋戦争だろうが原発処理だろうがマクドナルドだろうがだいたい似たような結論に陥るというのが戦前から変わらず日本が世界に伝えるクールジャパン的伝統芸なのかもしれません。

しかも、代案・代替案はいくらでも思いつくのがとても悲しいんですよね。あーあ、といったところでしょうか。

同じ炎上を起こしたくなければ、実力や権力はあっても能力の乏しいトップは挿げ替えたほうがかかるコストが下がり無駄な税金を投入しなくて済むと思うわけですけれども、問題は森さんに替わる人物が見当たらないってことなんですよね。単に著名なら良いということなら三顧の礼でビートたけしでも連れてくれば済むんでしょうが、単なる飾りではだめだ、何かあったときにちゃんと捌ける人が良いということならば、相当ちゃんと人選しないと駄目なんじゃないですかね。

個人的には王貞治さんを推挙しておきたいと思います。