自宅に間借り? 仕事場に別居? 増える「ホームレス夫族」

居候

間借

客人

「女三界に家なし」

今では死語に近いこの諺、ほとんどの人が言葉自体を知らないだろう。「三界」とは「欲界・色界・無色界」を示す仏教用語、すなわち全世界の意。

つまり、女の人生にはどこにも安住できる場所がないという意味。女は「三従」、幼少時は親に従い、結婚生活では夫に従い、老いた後は子に従う、一生の間、どこにも自分の居場所が見いだせない。

もちろん、今時、「三従」を持ちだしたら、笑われるだけか、非難の的になることは容易に想像できる。それでも実際、「従う」という自分をまるで生殺しにしたかのような従順ではないにしても、親の強烈なコントロールを受けながら育ち、経済力を握る夫に気兼ねをし、夫を見送った後は息子の嫁に遠慮しながら同居生活をしている女性は、今でも多いことだろう。

ところで、今現在は、男性であっても「家のない」情況に追い込まれている場合がある。それは住む家がないという意味ではなく、家を持っていたとしても、そこに心安らぐ自分の居場所がないということ。たとえば、こんなふうに。

長い通勤時間を経てようやっと家に帰り着くと、そこはモノ溢れの住空間。モノがのさばり大きな顔をしている。大小様々な整理ダンスや収納家具が空間を圧迫している。食卓の上も半分は雑多なモノたちが載ったまま。そんな状態で、どうやって食事をゆったりと愉しみ、どうやって寛いだらいいのだろう。

当然ながら、家をそんな状態にしてしまった妻にも正当な言い分はある。そう、妻も忙しいのだ。妻自身もパートタイムに出て家計を助けているし、育ち盛りの子供の世話も大変、家事は食事づくりと洗濯で手一杯。とても、家をキレイにキープしておく時間や心の余裕などないのだ。

そんな妻に、家の惨状について少しばかりの苦言を遠慮がちにでも呈せば、ただでさえ不機嫌な妻はもっと不機嫌となり、逆に食ってかかってくるか、ダンマリを決め込むか、あるいは、聞こえなかったフリをするか。おそらく、たいていの場合、「あなただって、少しは片づけてくれたっていいじゃない」という反撃が返ってくることだろう。

かくて、家には自分の居場所がないことを悟った夫は、そう、物理的にはモノに乗っ取られ、心理的にはまるで居候のような気持ちとなった夫は、会社での残業を選ぶ。なぜなら、そこで感じることができる自己効力感の方がずっと心地が良いのだから。

ところが、会社は残業を許してくれないご時世。夜の8時には帰宅を促す社内アナウンスが流れ、10時には一斉に電気が消される。半ば強制的な処置で帰宅せざるをえなくなった夫は、健気にも自分の気持ちの立て直しを図る。

所詮、家は主婦業を担っている妻の天下、住まいの管理の主導権は妻にあるのは当然のこと、自分が口を挟む権利はあっても資格はないとあきらめる。そうして夫は、家での間借り人の道を選ぶ。家の片隅に自分の趣味のコーナーがあればそれでよしとしよう。趣味の漫画本をぎっしり詰め込んだ本棚、好みのフィギュアをいっぱい飾った棚さえあればいい。他は目をつぶることにしよう。

けれど残念ながら、この選択も敢えなくついえる。そんなヤクザな漫画は子どもの教育に良くないと妻に諭される。好きで集めたフィギュアも、そんなしょうもないものと妻にそしられるだけ。

さて、これが経済力の高い多忙な夫ならばどうするか。この場合、仕事場と称して別に居を構える選択肢がある。そうやって自分の根城を確保することもできる。そして、忙しい仕事の合間を縫ってたまに帰宅をすれば、そこではまるで客人としての待遇が待っているはず。「だって、俺はたくさんのお金を妻に運んでいるのだから」と期待もある。要は、少しの間、片づいていない家の居心地の悪さに息をこらして、かりそめのもてなしを受ければいいだけのこと。

けれど、これも残念ながら夫の期待どおりにはいかない。仕事にかこつけて家族をないがしろにする夫として、妻の怒りをもろにぶつけられるか、冷ややかな態度で扱われる可能性の方が大いに高いのだから。だとしたら、夫の足は家からますます遠のくばかり。

「ホームレス夫族」

私の元には、こんな居場所を喪失している夫族からの相談が増えている。いいえ、相談というより、まだまだ、愚痴か不平で止まっているといってもいいかもしれない。なぜなら、たいていの夫は、家庭での自分の待遇を果敢に変えていこうという気概は持ってはいないから。なぜなら、夫婦の関係改善に面倒にもエネルギーを使うくらいなら、仕事にそれを注ぎたいと考えているから。

それしても、あまりに多くの妻と夫が、住空間の有様が自分たち夫婦の関係にどれほど影響を与えているかに気がついてはいない。荒んだ住空間は、夫婦の関係を消耗させるだけだということを知らなさすぎる。

だからなのか、私の元を訪れる片づけに悩む妻と夫に対して、私は断捨離指南とともに、夫婦関係の再構築のカウンセリングまでしなくてはならなくなるのです。

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*「断捨離(R)」は、やましたひでこ個人の登録商標です。