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2013年のロック・ミュージックを振り返る

山崎智之音楽ライター
Queens Of The Stone Age by Nora Lezano

エルヴィス・プレスリーが「ザッツ・オールライト」でデビューした1954年をロック元年とすると、2014年はロック生誕60周年ということになる。

(AC/DCは「ロック魂 Let There Be Rock」でロックの誕生を1955年としているが、それは彼らが敬愛するチャック・ベリーのデビューが1955年だということ、そして歌詞のjiveとfiveの韻を踏ませるためだろう)

さすがに60年目前となると、そうそう斬新な表現は出てこないもの。2013年のロック界には、新旧アーティスト取り混ぜて、オールドスクール旋風が吹き荒れた。

●ベテラン勢の大活躍

今年活躍したロック・ミュージシャンは、還暦オーバーが珍しくない。71歳のポール・マッカートニーは11月に東京ドーム3回公演を含むジャパン・ツアーを大成功に収めたし、メンバー4人のうち3人が70代であるローリング・ストーンズもロンドンのハイド・パークでの約15万人を動員する2回の野外コンサートを行った。

66歳のデヴィッド・ボウイによるアルバム『ザ・ネクスト・デイ』は世界中のチャートを席巻したし、今年で68歳となるレミー率いるモーターヘッドはアルバム『アフターショック』で極悪街道を爆走し続ける。65歳のオジー・オズボーンとトニー・アイオミが再合体したブラック・サバスの『13』も、世界のメタル・ファンが抱くサバス像を現代に蘇らせた。

2013年のツアーで2億ドル以上(約200億円)の売り上げを達成したボン・ジョヴィは彼らと較べるとまだ若いが、ジョン・ボン・ジョヴィは51歳だ。

かつて“30以上は信じるな”と声高に叫んだロック世代だが、現代のロック・アーティストの高齢化は、政治家以上のものだ。

ちょっと前までロッカーの死因といえばドラッグのオーヴァードーズや自動車事故、吐瀉物を喉に詰まらせる、ステージ上の感電死などが多かったが、近年はガンや心不全など、“普通の”死に方が主だ。

●新世代アーティストによる旧世代の継承

興味深いのは、彼らよりはるか下の世代のアーティストがオールドスクールな音作りをして、若者たちから支持を得ていること。マムフォード&サンズはイギリスの若手グループだが、土臭いアメリカン・ルーツ・ミュージックをプレイ。2012年のアルバム『バベル』は年をまたいで米ビルボード誌の2013年間チャート5位にランクインを果たした。

また、ダフト・パンクは4枚目のアルバム『ランダム・アクセス・メモリー』で1970〜80年代のエレクトロニック・ミュージックにオマージュを捧げており、ゲストにミュンヘン・ディスコとMTVダンス・ミュージックの巨匠ジョルジオ・モロダーまで引っ張り出してしまった。その流れもあってモロダーはなんと73歳にしてDJデビュー、今年だけで2回も来日公演を行っている。

エリック・クラプトンやストーンズなどが絶賛、古き良きブルースやソウルを咀嚼しながら自らのカラーを取り入れていくゲイリー・クラーク・ジュニアの『ブラック・アンド・ブルー』も、そんなオールドスクール系を代表する作品かも知れない。

●ロックの持つ新しい可能性

ただ、新しいものが生まれにくかった状況といっても、ミュージシャン達がただ過去を繰り返しているだけではない。ロックが60年間に積み上げてきたものをいったん崩し、独自のセンスに基づき再配列するアルバムの数々は、ロックの持つ可能性を指し示してくれた。

クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ『ライク・クロックワーク』やアーケイド・ファイア『リフレクター』、ジェイムス・ブレイク『オーヴァーグロウン』、ヴァンパイア・ウィークエンド『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・ウィークエンド』のメロディや歌詞、コード進行、インストゥルメンテーションなどのパーツを取り上げたら、決して斬新には感じないかも知れない。だが、それぞれがアーティストのフィルターを経て、独自のセンスに基づき組み立てられることで、これまで聴いたことのない新鮮な音楽が生まれる。

●2013年から2014年、時代のターニング・ポイントが訪れる

もちろん、新しいことだけに囚われる必要はないのであって、若者たちの抑えきれないアドレナリンとテストステロンが大爆発するプリミティヴな衝動は、ロック誕生時から普遍的なものであり、現代においても有効であり続ける。

各誌/ウェブサイトの年間ベストでデフヘヴン『サンベイザー』が絶賛されたのは、その音楽性はもちろんだが、ハードコアやブラック・メタルなどのジャンルを超えた、ひたすらピュアな破壊本能が評価されたのだろう。ピスド・ジーンズ『ハニーズ』のような、ヘヴィでハードコアでノイジーでセックスでアナルな爆裂サウンドは、かつて1950年代の若者たちがエルヴィスやリトル・リチャードに感じた音の革命を現代のリスナーに体験させてくれる。

人間の体力や寿命には限界がある。2014年前半にも超のつくベテラン勢が大挙して来日公演を行うが、その中で10年後・20年後、現役でいるアーティストは数少ないだろう。その一方で、新しい世代のアーティストも台頭してきた。2013年から2014年、我々は時代のターニング・ポイントを目撃しようとしている。

最後に、筆者の年間ベスト10を挙げておきたい。

<山崎智之 2013年パーソナル・ベスト・アルバム10>

1. クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ『ライク・クロックワーク』

ハードなサウンドとメロディ、歌詞、アレンジ、アートワークなどトータル面での傑作。ダークなユーモアも加えて、豪華ゲスト陣がバックアップ。聴けば聴くごとに新しい発見に胸を躍らす。

2. ナイン・インチ・ネイルズ『ヘジテイション・マークス』

エレクトロニックで激情を表現する再結成作。雷雨のフジ・ロックでのワールド・プレミア・ライヴも凄まじかった。

3. レッド・ファング『ホエールズ・アンド・リーチズ』

理屈などボコ殴りの無骨サバス’n’ロール。

4. The Ocean『Pelagial』(輸入盤)

大仰プログレ・ドゥーム・メタルの若き巨星、新作は深海をコンセプトにした大風呂敷アルバム。

5. デヴィッド・ボウイ『ザ・ネクスト・デイ』

ファンの知るボウイ像に目配せしながらもネクスト・デイに進んでいく。

6. ブラック・サバス『13』

オジー・オズボーンとトニー・アイオミとギーザー・バトラーが2013年にブラック・サバスのアルバムを作った。最高に決まっている。

7. Clutch『Earth Rocker』(輸入盤)

ヘヴィネス!グルーヴ!「俺はアース・ロッカー、ブワッハッハー」「俺のロケット88は~この国で一番速い~♪ 必殺必殺スピード~♪」などの歌詞がすべてを語る。

8. アーケイド・ファイア『リフレクター』

作品ごとに異なったことをしながら、毎回ファンを驚かるツボを知る名手。今回も1曲目のディスコ・ビートで卒倒。新機軸を取り入れてもわざとらしくなく、自らのアートでポップな世界観に取り込んでしまう。

9. Locrian『Return To Annihilation』(輸入盤)

アヴァンギャルドを兼ね備えたポスト・メタルの地平線が広く深く拡がっていく。

10. ファイヴ・フィンガー・デス・パンチ『ザ・ロング・サイド・オブ・ヘヴン&ザ・ライチャス・サイド・オブ・ヘル VOL.1&2』

イエー!とかベイビー!とか脳まで筋肉の体育会系アメリカン・メタル最前線。2部作でしかもボーナスCD付きの肉食大ボリューム巨編。

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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