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恋と五月病にキク? Earth来日公演と、いま“ドローン女子”が流行る理由

山崎智之音楽ライター
Earth(アース) 写真:松島幹

ゴールデンウィークが終わって、新生活にも慣れたころ。新しい恋も芽生えたりしたけど、忍び寄るのは五月病。職場や人間関係、こんなはずじゃなかったなぁ…と悩む方が多かったりします。

ストレス発散には音楽だ! ...とCDを聴いたり、カラオケに行って、どうしても気になるのは音のスキマ。メロディやリズムの狭間にスッと入る空白部分で、ふと歌詞に虚無感をおぼえたり、現実に戻って音楽どころではなくなることも。

ドローンにはヒーリング&デトックス効果も?

そんな音楽リスナーに最近、支持されているのが、ドローン・ミュージック。

ドローンとは“持続音”の意味。スキマがなく、どこまでもズズーーンと音が続いていきます。

自宅でも通勤中でも、お気に入りのドローン・アルバムをステレオやiPodで流せば、大音量の持続音で耳、頭、そしてハートはいっぱい。悲しんだり、悩んだりしている場合ではありません。

ドローンにはヒーリング効果もあると言われます。人気ドローン・バンド、SUNN O)))(サンと読みます)のコンサートはあまりの大音量に全身が震動して、老廃物を出すデトックス作用があるのだとか。もちろん効果には個人差があります。

ちなみにドローンではありませんが、アメリカのロック・グループ、トゥールのメイナード・キーナンは「音楽にありったけの怒りを込めて吐き出すと、スッキリするんだ。デトックス効果がある」と語っており、それで自分の書いた曲のタイトルを「アネマ」(ユングの無意識人格を指す“アニマ”+浣腸“エネマ”の造語)と名付けています。

注目のアーティスト、Earth(アース)

そんなドローン・ミュージック界で、長年の人気を誇ってきたベテランであり、いま最も“旬”のアーティストが、Earth(アース)なのです。

1989年、アメリカのワシントン州オリンピアでディラン・カールソンが結成したEarth。1993年に発表した『Earth 2』はヘヴィ・ドローンという新しいスタイルを確立させたアルバムで、世界中のミュージシャンに影響を与えてきました。その中で有名なのは二ルヴァーナのカート・コベインで、ディランを尊敬し、亡くなる直前まで友人として交流していました。

Earthの音楽は、音楽界だけでなく、幅広くアート界でも支持されています。

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『ミステリー・トレイン』などで知られるジム・ジャームッシュが2009年に監督した映画『リミッツ・オブ・コントロール』では、日本のBoris(彼らもまた、ドローン・スタイルで人気のバンドです)の音楽をサウンドトラックで使用して大きな話題を呼びましたが、この作品ではEarthの曲も使われています。拡がっていく荒野にEarthの曲が流れるシーンに、映画ファンから「あの曲は誰?」という問い合わせもあったそうです。

ディラン・カールソン/映画『ゴールド』サウンドトラック
ディラン・カールソン/映画『ゴールド』サウンドトラック

アテネフランセや神戸映画資料館で特集上映が行われるなど、“ベルリン派”の映画監督として人気と実力を兼ね備えたドイツ出身のトーマス・アルスランも、Earthに魅せられたひとり。彼は最新作『ゴールド』(2013)の音楽担当にディランを起用、この映画は第63回ベルリン国際映画祭でワールド・プレミア上映されました。

2014年6月、Earth再来日公演が決定

さまざまな分野から注目されるEarthは長年、日本でのライヴが行われてきませんでしたが、2012年9月、遂に初めてのジャパン・ツアーが実現。どこまでも続いていく音(ドローン)の地平線に、拍手が鳴り止みませんでした。

そんな高い評価を得て2014年6月、再来日公演が決定。再びEarthの音響空間が日本で繰り広げられることになったのです。

常に進化を続けるアーティストであるEarthは、ニュー・アルバム『プリミティヴ・アンド・デッドリー』を完成させたばかり。

今年の晩夏、発売予定のこのアルバムについて、ディランは「すごくヘヴィなサウンド。反復していくエレクトリックでギター・リフは、AC/DCを思わせるほど」と語っています。

再来日公演は前回をはるかにしのぐヘヴィ・ヴァージョンとなり、さらに「オウロボロス・イズ・ブロークン」「ザ・ビーズ・メイド・ハニー・イン・ザ・ライオンズ・スカル」などの昔の曲も。グッとヘヴィさを増してステージ披露されるというから、楽しみですね。

あの『Earth 2』ばりのヘヴィ・ドローンが奏でられる可能性の高いEarthのライヴ。大音量に全身を包まれて、もう恋だとか五月病なんて言っている場合ではない!…という気分になりそう。

ライヴ各公演のサポートも、山本精一ユニット、NEPENTHES、ジム・オルークと7秒ビジネス、Rolloという、マニアならニヤリのアーティスト達。彼らのライヴも見逃せません。

ポール・マッカートニーの公演中止やASKA逮捕、AKB48総選挙など、大きく揺れる日本の音楽シーン。Earthのドローン・ミュージックは、さらに日本を震動させることになりそうです。

すべてを押し流す大音量ドローンが、いまアートでスタイリッシュ。2014年の初夏、東京と大阪に“ドローン女子”があふれる日が来る?

●EARTH Japan tour 2014

6/4(水)大阪:東心斎橋Conpass w/ 山本精一ユニット

open 18:00 / start 19:00

前売 4,800yen / 当日 5,300yen (ドリンク代別)

問い合わせ: Conpass 06-6243-1666

6/5(木)東京:新大久保Earthdom w/ NEPENTHES

open 18:00 / start 19:00

前売 4,800yen / 当日 5,300yen (ドリンク代別)

問い合わせ: チッタワークス 044-276-8841 / Earthdom 03-3205-4469

6/6(金)東京:新代田Fever w/ ジム・オルークと7秒ビジネス、Rollo

open 18:00 / start 19:00

前売 5,300yen / 当日 5,800yen (ドリンク代別)

問い合わせ: チッタワークス 044-276-8841 / Fever 03-6304-7899

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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