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最高峰ドラマー:ジンジャー・ベイカーの来日ライヴに気をつけろ!

山崎智之音楽ライター
photograph by Alexis Maryon
photograph by Alexis Maryon
photograph by Alexis Maryon

「日本に来るのは、おそらくこれが最後だ。俺は老人だし、身体が悪い」

ジンジャー・ベイカーがそう語ったのは、2012年11月のことだ。だが、それから2年も経たず、舌の根も乾かぬうちに、彼は再びジンジャー・ベイカー・ジャズ・コンフュージョンを率いて2014年9月、来日公演を行うことになった。

とはいえ、前回ジンジャーのステージを見た人だったら、彼がまた日本に来ることに疑問を抱く者はいないだろう。彼のドラム・プレイは気迫・テクニック共に素晴らしいもので、年齢や体調による衰えなどまったく感じさせなかったからだ。

1960年代にエリック・クラプトン、ジャック・ブルースとのスーパーグループ、クリームでハード・ロック・ドラミングの礎を築き、フェラ・クティやビル・ラズウェルなどと共演、エアフォースやベイカー・ガーヴィッツ・アーミー、BBM、マスターズ・オブ・リアリティなど、ジンジャーはさまざまなジャンルで活躍してきた。パーカッション奏者アバス・ドゥドゥー、ジェイムズ・ブラウンやヴァン・モリソンとの活動で知られるサックス奏者ピーウィー・エリス、英国ジャズ・シーンで活躍してきたベーシスト、アレック・ダンクワースという顔ぶれからなるジャズ・コンフュージョンとのライヴにおいても、彼はスリルと緊張感に満ちたプレイで観客を魅了する。

近年、ジンジャーのドラム・プレイよりも人間性が取り沙汰されることが多いのは、少し残念でもある。2012年に公開された伝記映画『Beware Of Mr. Baker』(現在では輸入盤DVDとして発売)では、“Mr.ベイカーに気をつけろ”というタイトルの通り、常に一触即発の偏屈ジジイぶりが大フィーチュアされている。

1960年代前半、アレクシス・コーナー率いるブルース・インコーポレイテッドに在籍していた頃、ローリング・ストーンズ結成前夜のミック・ジャガーがジャムに参加したとき、嫌がらせでわざと難しいジャズのパターンを演奏したなどのエピソードなどもジンジャー本人が語っており、彼がミックの真似をするのも見ることが出来る。

もちろん迫力の演奏シーンもたっぷり入っているし、2005年のクリーム再結成のギャラで馬を24頭買ったなどの裏話も盛り沢山なので、日本公開あるいは字幕入りの映像ソフト化が待たれるところだ。

あまりに強烈な個性ゆえに、ジンジャーは必ずしも誰とでもフレンドリーというわけではないようだ。ブラック・サバスが再結成アルバム『13』(2013)をレコーディングするにあたって、プロデューサーのリック・ルービンがドラマーとしてジンジャーを起用しようと提案したが、トニー・アイオミは「何か問題があるといけないから…」と、却下している。

(ちなみに彼らはカール・パーマーに打診したが合意に至らず、結局レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのブラッド・ウィルクがアルバムでプレイした)

アメリカのライター、スティーヴン・ローゼンは『プレイヤー』誌のコラムでジンジャーについて「間違いなく人生最悪のインタビューだった。私がこれまでインタビューした人の中では最も怒りっぽく、意地悪で、嫌味っぽい男だった」と書いている。

なお、筆者(山崎)が2012年の来日時に行ったインタビューも、かなり特殊な経験となったが(こちらの記事を参照のこと)、さんざん文句を言いながらも取材に応じ、途中で席を立つこともなく制限時間いっぱいまでさまざまな話題について語ってくれたことには感謝している。もし本当に彼が嫌な人間だったら、そもそも最初からインタビューを受けたりしないだろう。

それに実際、ジンジャーと良好な関係を築ける人物もいる。ギタリストのビル・フリゼールは1994年、ジンジャー・ベイカー・トリオで彼と共演しているが、「最初は取っつきにくいかと思ったけど、一緒にプレイしたら打ち解けることが出来た」と語っている。

また、ジンジャーは1980年から81年にかけてホークウィンドの一員だったことがあるが、デイヴ・ブロックによると「彼と揉めたことは一度もなかった」そうだ。「たまに偏屈だと思うことはあったけど、何も問題はなかっよ。大勢の人が、彼がとんでもないカンシャク持ちだと言っているけどね」とのことである。

彼がただの性格の悪い老人でないことは、日本で行われたことがあるドラム・クリニックでも明らかだ。彼は自分の超絶テクニックに溺れることなく、初心者にも判りやすいように噛み砕いて説明して、サインにも応じている。もちろん、その時の機嫌もあるかも知れないが、現在75歳という高齢でもあり、ファンや観客に突然殴りかかったりはしない筈だ。

辛辣で鋭利な毒舌で知られるジンジャーだが、ステージ上ではその切っ先はドラム・プレイに向けられる。もちろん研ぎ澄まされたテクニックも炸裂するだろう。世界最高峰ドラマーの一人による日本公演に、今回も期待が高まる。

【GINGER BAKER's JAZZ CONFUSION/ジンジャー・ベイカー・ジャズ・コンフュージョン】

コットンクラブ 2014. 9.21.sun - 9.23.tue

■9.21.sun & 9.23.tue

1st.show: open 4:00pm / start 5:00pm

2nd.show: open 6:30pm / start 8:00pm

■9.22.mon

1st.show: open 5:00pm / start 6:30pm

2nd.show: open 8:00pm / start 9:00pm

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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