Yahoo!ニュース

『死霊のはらわた』新TVシリーズ『アッシュvsイーヴル・デッド』はロック・ファンも必見

山崎智之音楽ライター
Iggy Pop at Ash vs Evil Dead premiere(写真:REX FEATURES/アフロ)

映画『死霊のはらわた』はホラー映画の名作として1981年のアメリカ公開(日本では1985年公開)されて以来、凄まじい人気を誇ってきた。

いわゆるカルト映画の枠を超えた傑作として愛され続けるのに加えて、続編『死霊のはらわたII』(1987年)、『キャプテン・スーパーマーケット/死霊のはらわたIII』(1995)も作られ、監督のサム・ライミは『スパイダーマン』(2002)などでハリウッド映画の巨匠となっている。

2013年には原点に立ち返ったリ・ブート版『死霊のはらわた』が作られた。オリジナルと同様に、首や手足をぶった斬って血がブバーと噴出するなど頑張っていたものの、オールド・ファンから批判があったのが、オリジナル版の主人公だったアッシュが登場しなかったことだった。

いちおう彼は最後の最後になって一瞬だけ出てくるのだが、アッシュを演じたブルース・キャンベルがライミと共にプロデューサーとして裏方に専念していたことは、ファンをガッカリさせた。

2015年10月にアメリカのCSテレビ放送局『スターズ』で放映開始されたシリーズ『アッシュvsイーヴル・デッド/Ash vs Evil Dead』は、そんなファンを驚喜させるものだ。

オリジナル『死霊のはらわた』から30年以上を経て、すっかりおっさんになったアッシュの“それから”を描く本作。とてつもなくしょうもない理由で死霊たちが復活、新たな戦いが始まるというストーリーだ。

TVシリーズといえども比較的規制の緩いCS放送ゆえ、スプラッター描写は健在。アッシュが相棒ペドロ(レイ・サンティアゴ)とケリー(デイナ・デ・ロレンゾ)と共に、死霊を再び封印する旅に出るロード・ムービーといえるが、途中で出会う人々の大半が頭をかち割られたりシカの剥製の角で胸をえぐられたり、血まみれになって死んでいく。

第1シーズンの全10回(第1回のみ45分、それ以降は30分)のうち9回が放映され、ラスト第10回は2016年1月2日(現地時間)にアメリカで放映されるが、すべての発端である“小屋”に戻ってきたアッシュと死霊の最終対決がどうなるか、ファンは固唾を呑んでテレビ画面の前に釘付けになっている。

●『死霊のはらわた』の世界とロック音楽が遂に合体

Evildead: Annihilation Of Civilization
Evildead: Annihilation Of Civilization

ミュージシャンの間でも人気が高く、映画の原題をバンド名にしたアメリカ西海岸のスラッシュ・メタル・バンド、イーヴルデッドのアルバム『アナイアレイション・オブ・シヴィリゼイション』とEP『ライズ・アバーヴ』(共に1989年)はカップリングされて日本盤CDも発売されたが、これまで『死霊のはらわた』シリーズが直接ロックの世界と交錯することはなかった。

しかし『アッシュvsイーヴル・デッド』では大胆にサイケやハード・ロック、パンク、プログレッシヴ・ロックの名曲や知られざるコアな曲が使用されている。

放映開始を記念してロサンゼルスのハリウッド・ブールヴァードで行われたプレミアでは、特設ステージにイギー・ポップが登場。「ノー・ファン」「アイ・ワナ・ビー・ユア・ドッグ」を熱唱した。

番組のトレーラー(予告編)ではディープ・パープルの「スペース・トラッキン」が大胆に使われていたが10月31日、ハロウィンの夜に放映された第1話でもしょっぱなから「スペース・トラッキン」が使用されてロック・ファンを喝采させた。

さらにネクロノミコン(死者の書)が登場するシーンではフリジッド・ピンクの「エンド・オブ・ザ・ライン」、エンディングではテッド・ニュージェントがかつて率いていたアンボイ・デュークスの「ジャーニー・トゥ・ザ・センター・オブ・ザ・マインド」という、1960年代後期のデトロイト・ヘヴィ・サイケの名曲が連発される。

セリフでも死霊の「ズタズタにしてやる I’m gonna cut you up into little pieces」というセリフはピンク・フロイドの「吹けよ風、呼べよ嵐」へのオマージュだったりする。

第2話にはアッシュと死霊が走行中の車内で対決するシーンがあるが、そのバックに流れるのは再びディープ・パープルの「ハイウェイ・スター」だ。さらにエンディングはエマーソン・レイク&パーマーの「ナイフ・エッジ」という、ナイフの切っ先を思わせる選曲だ。

第3話には新キャラとして魔物エリゴスが登場するが、エンディングはイギー・ポップ率いるストゥージズの「ルース」だ。

第4話はパブロのおじでウィッチ・ドクター(魔術師)のブルホが登場するサイケ回だ。カーステレオから流れるのがオールマン・ブラザーズ・バンドの「ミッドナイト・ライダー」というのはピッタリだが、アシッドな幻覚シーンでホワイトスネイクの「ヒア・アイ・ゴー・アゲイン」が流れるのはちょっとミスマッチな気もする。だがエンディングがファンカデリックの「フリー・ユア・マインド・アンド・ユア・アス・ウィル・フォロー」というのは見事にフィットしている。

ドラッグや大麻を吸引するシーンがしばしば見られる『アッシュvsイーヴル・デッド』だが、第5話でハッパを吸う背景で流れるBGMはアリス・クーパーの「ボディ Is It My Body?」だ。このエピソードはアッシュが強力なメカ・ハンドを装着したところで終わるが、エンディングはテッド・ニュージェントの「ストラングルホールド」という、内容とマッチした歌詞だ。

マニアックな選曲に洋楽オヤジは感涙

Death: ...For The Whole World To See
Death: ...For The Whole World To See

第6話ではアッシュとパブロ、ケリーがダイナー(食堂)で食事をするが、持ち合わせがないため、アッシュがウェイトレスをナンパしようとする。「トイレで待ち合わせしよう」と言って彼がトイレに向かうときに流れるのがアリス・クーパーの「ビー・マイ・ラヴァー」だ。その後、当然のようにダイナーで血みどろファイトが繰り広げられるのだが、そのBGMは1970年代初頭のデトロイトで活動した黒人パンク・バンド、デス(もちろん同名のメタル・バンドではない)の「フリーキン・アウト」。サム・ライミは「アッシュが人間的に成長していないことを表すために昔の音楽を使った」と語っているが、デスという選曲はシブい!それから一転してエンディングはスティクスの1979年のヒット曲「レネゲイド」と絶妙なセレクションで、この第6話はロック・ファンにとっては最もオイシイ回だといえる。

それに対して第7話は本編にあまり音楽が絡んでこないが、エンディングのブーツィー・コリンズによる「タイム・ハズ・カム・トゥデイ」は、西海岸ソウル&ファンク・バンド、チェンバー・ブラザーズの1968年のヒット曲をカヴァーしたもの。この番組用にレコーディングされた新録ヴァージョンで、ぜひフルで聴きたいと思わせる好カヴァーだ。

第8話のエンディングはドン・ギブソン&スー・トンプソンの1971年のカントリー・デュエット「ザ・トゥ・オブ・アス・トゥゲザー」だ。

第9話で使われている曲の歌詞と微妙にリンクしている。アッシュが自分の死霊クローンをチェーンソーで解体するシーンにはビル・ウィザースが歌う「クリスタルの恋人たち Just The Two Of Us」が流れるが、『オースティン・パワーズ:デラックス』でドクター・イーヴルが歌ったヴァージョンを覚えている人もいるかも。またエンディングのダイナ・ワシントン「アイ・クッド・ライト・ア・ブック」もストーリー急展開の内容とシンクロするものだ。

『アッシュvsイーヴル・デッド』の第1シーズンはあと2016年1月2日(現地時間)放映の第10話を残すのみだが、どんなクライマックスを迎えるのか?という期待に加えて、どのような音楽が使われるか?というのも気になる。現在の好評ぶりを見ると、第2シリーズ以降も作られて、さらに『死霊のはらわた』ワールドとロック音楽の血みどろの対決が続けられる可能性も高い。

日本では『ジョジョの奇妙な冒険』TVアニメ版のエンディング・テーマとしてイエスの「ラウンドアバウト」やパット・メセニー・グループの「ラスト・トレイン・ホーム」など懐かしの名曲が使われて、洋楽オヤジを感涙にむせばせたが、こちらではどんなオールド・ロックが墓場から蘇るか。これからも『アッシュvsイーヴル・デッド』から目が離せない(祈・日本放映!)。

【追記:2016.01.04】

2016年1月2日(現地時間)、第1シーズン最終話の第10話が放映された。

いちおう大団円を迎えて、オチは付いたものの、第2シーズンでの新しい戦いへの序章ともなったこのエピソード。フィナーレに相応しく、アリス・クーパーの「ノー・モア・ミスター・ナイス・ガイ」とAC/DCの「バック・イン・ブラック」というハード・ロックの名曲2曲でいったん幕を下ろすことになった。

【追記:2016.12.04】

『Ash vs Evil Dead』は日本でも『死霊のはらわた リターンズ』として放映、ブルーレイ/DVD化された。

●Ash vs Evil Dead

公式サイト

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

山崎智之の最近の記事