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【インタビュー】アンスラックス、新作『フォー・オール・キングス』を語る/第1部:チャーリー・ベナンテ

山崎智之音楽ライター
Anthrax (photo by Ignacio Galvez)

アンスラックスが2016年2月、ニュー・アルバム『フォー・オール・キングス』を発表する。

“スラッシュ・メタル四天王”の一角として、30年以上のあいだメタル界の最前線を突っ走ってきた大御所の4年半ぶりの新作。全編からアドレナリンが噴出するこのアルバムの発売日を待ちきれず、2016年1月からラム・オブ・ゴッドとの北米ツアーを開始しており、これから世界を股にかけてのサーキットを行うところだ。

手根管症候群を患ってファンを心配させたドラマーのチャーリー・ベナンテだが、2015年10月の『ラウド・パーク15』ではアンスラックスとメタル・アリージェンスの2バンドでパワフルな演奏を披露。もちろんアルバムでも爆速ドラミングが炸裂しており、その怒濤のプレイが健在であることを強くアピールしている。

第1部+第2部に分けてのアンスラックス・インタビュー、まず第1部では現代における“キング”とは何か?について、チャーリーに語ってもらった。

“速い曲”とか“遅い曲”は誰でも書ける。難しいのは“良い曲”を書くことだ

●北米ツアーは順調ですか?

ツアーはいつだって最高だ。ラウドな音楽、クレイジーな観衆… ツアーが苦痛だったり退屈だったことは過去30年以上、一度もないよ。唯一ガッカリだったのは、大吹雪で一度ショーが中止になってしまったことだ。新作からは「イーヴィル・トゥイン」をプレイしてきて、さらに「ブリージング・ライトニング」もプレイするようになった。まだ聴いたことのない新曲なのに、お客さんは凄い盛り上がりだよ。俺たち自身は『フォー・オール・キングス』がクールなアルバムだと自信を持っているけど、オールタイム・ベスト選曲の中で新曲がこれほど盛り上がるってことは、俺たちが正しい方向に進んでいるって思うんだ。

●あなたは去年(2015年)、手根管症候群の治療で何度かライヴを欠席しましたが、手の具合は如何ですか?

悪くはないよ。ただ全快というわけにはいかなくて、3週間ツアーをしたらしばらく休むようにしている。それでもステージ上にいるときは常にトップ・フォームでいるように心がけているし、むしろベストに近い体調だ。

●『フォー・オール・キングス』を作るにあたって、どんなアルバムにしようと考えましたか?

『フォー・オール・キングス』 2016年2月26日発売
『フォー・オール・キングス』 2016年2月26日発売

俺にとってアルバムというのは“旅”なんだ。音楽を聴きながらジャケットを見て、歌詞を読んで…それらが一体となった経験なんだよ。1曲だけダウンロードしたり、ストリーミングするのが現代の音楽の聴き方なんだろうけど、俺は“アルバム”の支持者だ。起承転結があって、45分のドラマがあるのが好きなんだよ。『フォー・オール・キングス』はそんなアルバムにしたかった。始まりがあって、中盤の盛り上がりがあって、ドラマチックな大団円があって…ただ、リスナーに息をつかせる瞬間は与えたくなかったんだ。全曲ピークが続くアルバムにしたかった。どの曲も100%でなければならないんだ。そのためにバンド全員がベストを尽くしたよ。

●『フォー・オール・キングス』というタイトルについて教えて下さい。

『フォー・オール・キングス』というタイトルはしばらく前から俺の頭の中にあったんだ。現代において、威厳があって尊敬される“キング=王”という存在は失われてしまった。寓話に出てくるような“王様”はどこにもいない。では現代の“キング”とは誰か?それはお気に入りのスポーツ選手かも知れないし、俺にとってはポール・マッカートニーとビートルズが“キング”だった。彼らが俺を立ち上がらせ、音楽に向かわせたんだ。“キング”は俺たちの心の中にいる。それを歌ったのがタイトル曲の「フォー・オール・キングス」だ。

●『フォー・オール・キングス』のジャケット・アートワークも、タイトルと合致した素晴らしいものですね。

うん、神殿や宮廷のような場所で、メタル・キッズがワイルドになっている。前作『ワーシップ・ミュージック』(2011)のジャケットを手がけたアーティストのアレックス・ロスに続投してもらったんだよ。俺とアレックスで、コーヒーを飲みながらお互いにアイディアを投げ合って、デザインを決めていったんだ。

●このアートワークを見るだけで、バンドが『フィストフル・オブ・メタル』(1984)の頃から大きな変化を経たことを感じさせますね。

Charlie Benante  photo by Jimmy Hubbard
Charlie Benante photo by Jimmy Hubbard

ああ、あのジャケットは大嫌いだ!俺はまったく関係ない(怒)!

●『フォー・オール・キングス』には「ユー・ゴッタ・ビリーヴ」や「イーヴィル・トゥイン」のような最高のスラッシュ・メタル・チューンと共に「ブラッド・イーグル・ウィングス」や「オール・オブ・ゼム・シーヴス」のようなミッドテンポの曲があり、スケールの大きな“ロイヤル=王のような”雰囲気を感じます。

アルバム用の曲を書き始めたとき、みんながオールドスクールなスラッシュ・メタルをやりたい気分だったんだ。久しぶりのアルバムだったし、火が付いていたんだな。そうして5、6曲書いた時点でようやく我に返って(笑)、もっと実験をしたくなった。「ブラッド・イーグル・ウィングス」はそのとき書いた曲で。俺のお気に入りなんだ。俺が最初に作ったデモは8分を超えるもので、その時点で、この曲がスペシャルなものだと判っていた。それから完成させていくうちにアレンジを整理していったけど、結局8分近くになったよ。まあ、どうせ俺たちの曲はラジオじゃかからないから、必然性があれば長くても問題ないけどな。

●その一方で「ブリージング・ライトニング」や「フォー・オール・キングス」には歌えるフックがあり、ある意味“コマーシャル”な方向も向いているのではないでしょうか?

バンドが良い曲を書いて、それをリスナーが喜んでくれる…という方程式は音楽ビジネスにおいて理想的な関係だ。残念ながらビジネスは複雑にこんがらがって、実際にはそうなっていないけどね。“速い曲”とか“遅い曲”は誰でも書けるんだ。難しいのは“良い曲”を書くことだ。俺たちは初期から、常に“良い曲”を書こうとしてきた。『フォー・オール・キングス』は、そんな努力の集大成といえる作品だよ。別に俺たちはキャッチーな曲を書こうとか、売れ線の曲を書こうとは考えていなかった。

●『狂気のスラッシュ感染』(1985)のジャケットに、“このアルバムにはヒット・シングルは1曲たりともありません”というステッカーが貼られていたのを思い出しました。

うん、当時のメンタリティは、今も全然変わらないよ。俺たちはただ自分の信じる音楽をやるだけだ。それを多くの人が気に入ってくれたらクールだ。もし「こんなレコードSUCKSだ!」と言われたら、肩をすくめて、同じことを続けるだけだよ。

“最高にケツを蹴り上げるメタル・バンド”として記憶されたい

Anthrax
Anthrax

●あなたはアンスラックスのアルバムでドラムスに加えて、一部ギターも弾いていることで知られていますが、新作ではどのギター・パートを弾きましたか?

アコースティック・ギターはすべて俺が弾いたものだ。「ブラッド・イーグル・ウィングス」の最後、静かなギター・パートも俺だよ。メタリックなギターはスコット(イアン)やジョン(ドネイ)が主で、俺はテキスチャー的なパートを弾いているんだ。

●ギタリストのジョン・ドネイは2013年にアンスラックスに加入しましたが、スタジオ・アルバムに参加するのはこれが初めてとなります。彼はどのように貢献していますか?

ジョンはリード・ギターで大きな貢献をしているよ。もう一緒に世界をツアーして回ったし、彼はアンスラックスの音楽性を熟知しているけど、一緒にアルバムを作るのは初めてだから、バンドの音楽性についてよく話し合った。俺がアドバイスしたのは、“ギター・ソロは曲の中の曲だ”ということだった。聴いた人が口ずさめるようなソロを心がけるべきだってね。「ユー・ゴッタ・ビリーヴ」のギター・ソロはジョンの凄さをフルに発揮していると思う。アンスラックスのショーで彼がクールなギタリストだと知っていても、あの曲を聴いたら驚くだろう。

●ジョンは現在もシャドウズ・フォールでも活動しているのですか?

いや、シャドウズ・フォール自体が活動してないんじゃないかな。正式に解散したかは知らないけど…アンスラックスのスケジュールとバッティングしなければ、彼が別のバンドでやるのはノープロブレムだよ。むしろ他のバンドで得た新鮮なインスピレーションを持ち込んでくれるのは歓迎だ。

●最近、バンドを掛け持ちするミュージシャンも珍しくありませんよね。クリス・アドラーもラム・オブ・ゴッドとメガデスに同時参加しているし、あなた自身もアンスラックスとメタル・アリージェンスでプレイしているし…。

メタル・アリージェンスはバンドというよりも、ミュージシャン仲間が集まって、好きな曲をプレイして楽しむプロジェクトなんだ。“本業”が忙しいときは参加できないメンバーもいるし、俺自身、こないだカリフォルニアでやったライヴではやらなかった。

●2015年10月の『ラウド・パーク15』でアンスラックスとメタル・アリージェンスの両方でプレイしましたが、それはどんな経験でしたか?

『ラウド・パーク』は最高だった!テスタメントやスレイヤーは長年の友達だし、みんなが好きなメタルの名曲を楽しみながらプレイしたんだ。夏のキャンプみたいなものだった。良いウォームアップにもなって、同じ日にやったアンスラックスのショーはこれまで日本でやってきた中でベストなものだった。キッズのノリも最高だったし、みんなハッピーになったよ。メタル・アリージェンスはいろんなバンドのメンバーが集まる場だから、ライヴを実現させるのは楽じゃないんだ。『ラウド・パーク』はちょうどグッドタイミングだった。俺がアメリカ国外でメタル・アリージェンスとしてショーをやったのは初めてだったし、楽しかったよ。今年の夏、イギリスでもやる予定なんだ。

●メタル・アリージェンスはオリジナル新曲からなるアルバム『メタル・アリージェンス』を発表しましたが、より“バンド”として本腰を入れていくことになるでしょうか?

いや、ただ楽しいからやっているんだよ。“仕事”になってしまったら、もうやる価値はない。まあ、それはアンスラックスについても言えることだ。アンスラックスでのツアーやレコーディングは楽じゃないし、ハードな仕事だけど、“仕事”だと考えたことはない。

●メタルの名曲をカヴァーするメタル・アリージェンスの前に、アンスラックスはカヴァー・ミニ・アルバム『アンセムズ』(2013)を発表しましたが、バンドにとってノスタルジックな時期だったのでしょうか?

そういうわけでもないけどね(笑)。自分が聴いて育って、影響を受けた音楽だから、たまにプレイしたくなるんだ。それに、自分の原点を確認することで、さらにドラマーとして、時にギタリストとして向上することが出来る。ラッシュの「アンセム」やボストンの「スモーキン」からはいつだってインスピレーションを受けるよ。ラッシュが俺たちのやったヴァージョンを聴いて、気に入ってくれたという話を聞いて、すごくテンションが上がったね。

●他に候補に挙がっていた曲はありますか?

『アンセムズ』ではカンサスの「伝承」も候補に挙がっていた。それに『フォー・オール・キングス』でもカヴァー曲を2曲レコーディングしたけど、完成させることが出来なかったんだ。ひとつはトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの「ランニン・ダウン・ア・ドリーム」、もうひとつはホワイト・ストライプスの「ブラック・マス」だった。彼らはみんな好きなバンドだし、俺たちにとっての“キング”だよ。

●あなたにとって偉大なロックの先達が“キング”であるのと同様に、アンスラックスは多くの若手ミュージシャンにとって影響の源であり続けました。メタルの歴史において、どんな風に記憶されたいですか?

“最高にケツを蹴り上げるメタル・バンド”かな(笑)。バンドがなくなって何十年も経ってから、そう呼んでもらえたら、それ以上嬉しいことはないよ。最近スミソニアン学術協会がアンスラックスのアメリカ音楽史への貢献についてのビデオを制作したんだ。普段「アンチソーシャル」とかを歌っている俺たちが、人類の文化の記録として残されるなんて不思議な気分だけど、スミソニアンにファンがいるっていうのは悪い気分じゃないね。でも、俺たちはまだ博物館に展示されるには早い。アンスラックスはまだ何枚もアルバムを作って、世界をツアーするつもりだ。今の時代、最高にクールなバンドがいくつも出てきている。ライヴァル・サン、ゴースト、一緒にツアーを回ったデフへヴン…バロネスの新作も最高だった。彼らの音楽に触れて、一緒にプレイすることで凄い刺激を受けるよ。まだしばらくは突っ走り続けるから、一緒に旅を楽しんで欲しいね。

第2部ではバンドのギタリスト、スコット・イアンに『フォー・オール・キングス』を語ってもらおう。

アンスラックス『フォー・オール・キングス』

2016年2月26日発売

アンスラックス日本公式ホームページ:http://wardrecords.com/SHOP/WRDZZ361.html

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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