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【インタビュー/前編】ニック・ベッグス、スティーヴ・ハケットと2016年5月来日。プログレを語る

山崎智之音楽ライター
Steve Hackett(左) & Nick Beggs(右)

2016年5月、スティーヴ・ハケットが来日公演を行う。ジェネシスの『怪奇骨董音楽箱』(1971)や『眩惑のブロードウェイ』(1974)などの名盤でプレイした名ギタリストによるオールタイム・ベスト・ライヴは、プログレッシヴ・ロックのファンならずとも見逃すことが出来ない。

それに加えて話題となっているのは、ベーシストとしてニック・ベッグスが参加することだ。1980年代にカジャグーグーで「君はToo Shy」をヒットさせた彼は1999年には元レッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズ来日に同行。近年ではスティーヴン・ウィルソンの相棒として、プログレ畑で活躍している。

前後編に分けて、来日を目前にしたニックへのインタビューをお届けしたい。まず前編では、彼とプログレッシヴ・ロックとの関わりについて語ってもらおう。

クリス・スクワイアのベースを聴いて、プロのミュージシャンになろうと決意した

●最近の活動について教えて下さい。

こないだ(2016年3月)、スティーヴン・ウィルソンと中南米をツアーしたんだ。ものすごい盛り上がりで驚いたよ。ヨーロッパでは保守的なお客さんもいるけど、南米だとみんながクレイジーになる。たまに忘れがちだけど、自分たちがやっている音楽が“ロックンロール”だと再確認させられるよ(笑)。

●2016年5月のスティーヴ・ハケットの来日公演は、当初フラワー・キングスのロイネ・ストルトがベースを弾く予定でしたが、あなたに交替したのは何故でしょうか?

photo by Hajo Muller
photo by Hajo Muller

単純にスケジュールの問題だよ。スティーヴのバンドでは、ベーシストの枠は流動的なんだ。みんな別のバンドでも活動しているからね。リー・ポメロイはゲイリー・バーロウやジェフ・リンのバンドでもやっているし、僕はスティーヴン・ウィルソンともやっている。ロイネはフラワー・キングスがあるし、ジョン・アンダーソンともアルバムを作っている。今回の日本公演ではロイネはスケジュールが合わなくて、僕はちょうどフリーだったんだ。

●スティーヴ・ハケットと初めて一緒にプレイしたのは『闇を抜けて』(2009)ですか?

その前からスティーヴのことは知っていたし、数回ライヴでも共演していたけど、だいたいその頃だよ。彼は僕にとってヒーローだし、何よりも素晴らしいギタリストだから、一緒にプレイすることが出来て光栄だ。

●ジェネシスはいつ頃から聴いていたのですか?

14歳か15歳のとき、『ライヴ』(1973)を友達が聴かせてくれたんだ。ロバート・ロジャースという、今ではオーストラリアに住んでいる友達だけど、1970年代のシンフォニックな音楽の多くは彼に教えてもらったよ。それまで僕はディープ・パープルの大ファンで、『ライヴ・イン・ジャパン』を毎日聴くほどの信者だった。でもジェネシスの『ライヴ』は衝撃だった。「ウォッチャー・オブ・ザ・スカイズ」や「ザ・リターン・オブ・ザ・ジャイアント・ホグウィード」「ゲッテム・アウト・バイ・フライデイ」など、当時の彼らのベスト盤といえる選曲だったし、演奏も素晴らしく、ジャケットも最高だった。

●ジェネシスは徐々に音楽性を変化させていきましたが、いつ頃までファンだったのですか?

僕の学生時代、『そして3人が残った』(1978)の頃までファンだった。ピーター・ゲイブリエルとスティーヴがいた時期がバンドの黄金時代だと思う。ピーターが脱退した後も『トリック・オブ・ザ・テイル』『静寂の嵐』(共に1976年)は名盤だった。聴き手の知性に挑戦してくる音楽で、多大な影響を受けたよ。その後も良い音楽をやっていたと思うけど、他にもいろんな音楽が好きだったし、徐々に“ジェネシス命!”という感じではなくなった。

●少年時代に好きだったプログレッシヴ・ロック・グループは?

いろいろ好きだったけど、まずイエスだな。クリス・スクワイアのベースを聴いて、プロのミュージシャンになろうと決意したんだ。1980年代の僕があのスタイルの音楽をやってプロとしてやっていくのは無理だったけどね。ポンプ・ロックというムーヴメントもあったけど、きわめて短期間で、規模も小さかった。クリスとは数年前(2014年)の『クルーズ・トゥ・ジ・エッジ』クルーズでジャムをやったことがあるんだ。「見張り塔からずっと」をプレイして、クリスがベース、ギターがスティーヴ・ハケット、ジョン・ウェットンが歌って、僕がチャップマン・スティックを弾いた。僕にとってのヒーローが総登場で、夢のような経験だったよ。もちろんエマーソン・レイク&パーマーも大好きだった。キース・エマーソンとは1980年代後半、エリス・ベッグス&ハワードをやっているときに初めて会ったんだ。僕のプレイを気に入ったと言ってくれたよ。とても光栄だった。

●スティーヴ・ハケットのライヴでジェネシスの曲をプレイするとき、心がけていることはありますか?

ジェネシスの曲はオリジナルに近い形でプレイするようにしている。ライヴを見に来るファンは、それを望んでいるだろうからね。僕自身がファンだから、ファンの気持ちは判るんだよ。 “ジェネシス・リヴィジテッド”プロジェクトに関わるようになって、最初にしたのは、マイク・ラザフォードみたいなポロシャツを買うことだった(笑)。スティーヴとのリハーサルに向かうとき、ポロシャツを着ていったんだ。一種の儀式みたいなものだった。いろいろ考えたあげく、ステージでポロシャツを着るのは止めたけどね。

●『プログレッシヴ・ロック・フェス2016』にはスティーヴ・ハケットとキャメル(&オープニング・アクト原子神母)が出演しますが、キャメルのメンバーとの交流はありますか?

キャメルは僕のオールタイム・フェイヴァリット・バンドのひとつだよ。アンドリュー・ラティマーは素晴らしいジェントルマンで、彼の家に行ったこともあるし、一緒にプレイしたこともある。アンディ・ウォードのことも知っていた。ピーター・バーデンスとは会う機会がなかったけどね。キット・ワトキンスとは知り合いだし、コリン・バスはヘルシンキでスティーヴ・ハケットのショーを見に来てくれたよ。彼らと一緒に日本でショーをやることが出来るなんて、本当に素晴らしいことだよ。

チャップマン・スティックは弾き手の個性を引き出す楽器だ

●あなたが日本に来るのはいつ以来でしょうか?

2000年代の初めにインダストリアル・ソルトというガール・バンドのプロデュースをしたんだ。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの曲「ループ&ループ」をカヴァーして、日本でヒットした。それで1年のうちに3回日本を訪れて、ショーやプロモーションをしたんだ(2005年)。ガールズ・ポップで、やっていて楽しかったけど、いつかプログレッシヴ・バンドで日本に戻ってきたかった。それが実現して、本当に嬉しいよ。

●1999年12月にはジョン・ポール・ジョーンズの来日公演に同行しましたが、それはどんな経験でしたか?

自分のキャリアにおいて、ジョン・ポール・ジョーンズと一緒にやった時期は、最も音楽について学ぶことが多かった。彼の音楽はまったく新しく、しかも複雑で、大きなチャレンジだったよ。それまでの自分が高校生だったとしたら、大学に通ったのと同じ経験をした。彼がまたソロ・アルバムを作るときには、ぜひ声をかけて欲しいね。

●今回のスティーヴ・ハケットとの公演はどのようなものになるでしょうか?

二部構成で、前半はスティーヴのソロ・キャリアを網羅したものになる。『ヴォヤージ・オブ・ジ・アカライト』(1975)から『スペクトラル・モーニングス』(1979)、そして最新アルバム『ウルフライト~月下の群狼』(2015)まで、彼のソロ・キャリアの名曲からこれまでステージで演奏されたことがないレア曲までをプレイするんだ。スティーヴのファンだったらきっとエキサイトする選曲とライヴ・パフォーマンスになるだろう。後半の第二部は“ジェネシス・リヴィジテッド”で、スティーヴのジェネシス時代の名曲の数々をプレイする。個人練習を始めたところなんだ。2時間半の長さになるしベースやギター、スティック、ハーモニー・ヴォーカルなど、やるべきことが多いから、けっこう大変だよ。そのチャレンジを楽しんでいるけどね。スティーヴとプレイするのはいつだって刺激的だし、スリルを感じるんだ。バンドのメンバーとも友達だし、信頼できる音楽的な仲間だ。

●来日公演ではどんな楽器を弾くのですか?

4弦ベースとチャップマン・スティック、6弦ギター、それから4弦と12弦のツイン・ネック・ベースも数曲でプレイする。新しいスペクターの4弦ベースが実に素晴らしくて、気に入っているんだ。今回は5弦ベースはあまり必要としないと思う。

●チャップマン・スティックはいつ、どのようにして弾くようになったのですか?

Nick Beggs with his Chapman stick
Nick Beggs with his Chapman stick

1978年のネブワース・フェスティバルでのピーター・ゲイブリエルのライヴで、トニー・レヴィンが弾くのを見たんだ。「こんな楽器があるのか!」と驚いて、いろんな本を読んで調べたよ。トニーが弾いたピーターのソロ・アルバム、それからキング・クリムゾンが1980年代に出した3枚のアルバムでのプレイを聴いて、ずっと欲しいと思っていたけど、けっこうな値段で手が出なかった。ラッキーだったのは、カジャグーグーからリマールが脱退して、マネージメントから僕がリード・シンガーになって欲しいと要請されたんだ。「なってもいい。ただし条件がある」と言って、スティックを買わせたんだよ(笑)。だからカジャグーグーの2枚目のアルバム『アイランズ』(1984)からスティックが入っているんだ。

●スティック奏者といえばトニー・レヴィンやトレイ・ガン、アルフォンソ・ジョンソンなどがよく知られていますが、影響を受けたのは?

トニーはスティックを弾き始めるきっかけとなったし、影響を受けたけど、僕は自分独自のスタイルを確立しようとしているよ。世界には2千人、おそらくそれ以上のスティック奏者がいる。それで生計を立てている人は少ないけどね。まだ歴史が比較的短いせいもあるし、複雑な楽器だということもあって、それぞれのプレイヤーが“先駆者”なんだ。一人一人が新しいスタイルや新しいチューニングを作って、独自のプレイを編み出すんだよ。演奏するのが難しいから、他人のコピーをするのが難しいということもある(笑)。僕にしてもトニーみたいには弾けないから、自分らしく弾くしかないんだ。そういう意味で、スティックは弾き手の個性を引き出す楽器だよ。

●スティーヴ・ハケットとの来日の他、どんな活動をしていますか?

自分のリーダー・プロジェクト、ザ・ミュート・ゴッズの2枚目のアルバムの曲を書いているんだ。とても満足できる何曲かを完成させることが出来た。これから1年位内には新作をリリースしたいと考えているよ。スティーヴン・ウィルソンも近々新しいアルバムを作り始めるだろうし、フィッシュ・オン・フライデイというバンドでもベースを弾いていて、レコーディングに参加している。音楽をしていないときは絵を描いたり、毎日けっこう忙しいんだ。でもまずはスティーヴとの日本公演に全力投球するから、楽しみにして欲しいね。

後編ではニックが1980年代、カジャグーグーでの数々の秘話、そして新バンド、ザ・ミュート・ゴッズについて語る

●ROCK LEGENDS: スティーヴ・ハケット/STEVE HACKETT

ACOLYTE to WOLFLIGHT plus Genesis Classics

2016年

5月21日(土)

【川崎】 CLUB CITTA'

OPEN 17:00 / START 18:00

5月23日(月)

【大阪】 なんばHatch

OPEN 18:00 / START 19:00

公演特設ページ  

http://clubcitta.co.jp/001/steve-hackett2016/

●ROCK LEGENDS: PROGRESSIVE ROCK FES 2016

プログレッシヴ・ロック・フェス 2016

出演:CAMEL(キャメル)/Steve Hackett(スティーヴ・ハケット)

【Opening Act】 原始神母 ~Pink Floyd Trips~

5月22日(日)【東京】日比谷野外大音楽堂

OPEN 15:00 / START 16:00

公演特設ページ  

http://clubcitta.co.jp/001/progfes4/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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