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【インタビュー】2016年5月、ジミー・チェンバレンが来日。ジャズとスマッシング・パンプキンズを語る

山崎智之音楽ライター
Frank Catalano & Jimmy Chamberlin

ザ・スマッシング・パンプキンズのドラマーとして活躍するジミー・チェンバレンが2016年5月、“フランク・カタラーノ & ジミー・チェンバレン・クインテット”として来日公演を行う。

現代アメリカのジャズ・シーンで個性的な活動を行い、ディスティニーズ・チャイルドやトニー・ベネットとのセッション経験もあるサックス奏者フランク・カタラーノとの共演は、ジミーの本格ジャズ志向のプレイをフィーチュアする貴重なライヴだ。

「ロックより前からジャズを聴いてきた」と語るジミーに来日直前インタビュー。そのジャズ愛を語ってもらった。

ジャズは知識の音楽ではなく、本能で感じる音楽

●フランク・カタラーノとはどのようにして知り合ったのですか?

フランクと初めて会ったのは、2000年ぐらいかな。彼のプレイは好きだったけど、ただ友達だった。初めて一緒にジャムをしたのは2002年かな?2人で俺のスタジオで共演したんだ。その後2009年にパンプキンズを辞めた後、彼がショーをやろうって誘ってくれた。彼はその前に自動車事故に遭って、しばらく活動できなかったんで、彼にとってはカムバックだったんだ。その時はスコット・ウィリアムス(ピアノ)、オリヴァー・ホートン(ベース)とのカルテットで、すべてがカチッと嵌まった。お互いへの敬意と連帯感が生まれたんだ。

●フランクとはどれぐらいの頻度でライヴをやっていますか?

Jimmy Chamberlin & Frank Catalano
Jimmy Chamberlin & Frank Catalano

フランクと一緒にライヴをやるようになって数年経つけど、決してライヴの回数は多くないんだ。せいぜい年間20〜30回ぐらいかな。俺はシカゴでテクノロジー企業とコンサルタント事務所の経営もしているし、パンプキンズでの活動もあるからね。フランクもいろんなミュージシャンと年間100回以上のライヴをやっている。彼との共演ライヴが日本で実現して、本当に嬉しいよ。ロック・ドラマーとして何度も日本に行っているけど、日本でジャズをプレイするのは初めてなんだ。日本のリスナーは音楽に対して熱意と愛情を持っているし、俺が使っているヤマハやSAKAEのドラムスは最高だ。

●日本公演ではどんな曲をプレイしますか?

自分たちのあらゆるレパートリーをプレイするよ。3枚の共演アルバムからの曲もプレイするし、ジョン・コルトレーンの「インプレッションズ」やコール・ポーターの「夜も昼も」も演る。ファンク&ソウルの曲も準備しているし、ドラム・ソロもある。最高に楽しいショーになるだろう。フランクには音楽の楽しい要素を弾き出す才能があって、お客さんをショーに参加させてしまうんだ。

●ザ・スマッシング・パンプキンズのファンもあなたとフランクのショーを楽しめるでしょうか?

グッド・ミュージックを好きな音楽リスナーだったら、きっと楽しめるよ!ジャズをまったく知らなくても問題ない。ジャズは知識の音楽ではなく、本能で感じる音楽だからね。俺のプレイは基本的にパンプキンズでやるときとヴォキャブラリとアイデンティティは変わらないし、パワフルなものになる。エルヴィン・ジョーンズやトニー・ウィリアムスになりたがりのジャズ・ワナビーではなく、あくまで自分らしさを貫くことになるよ。

●日本公演のメンバーについて教えて下さい。

ギタリストのヴィック・ジュリスは俺が知っているギタリストの最高峰といえる名手だ。テオ・ヒルはミンガス・ビッグ・バンドで最高のピアノを弾いているし、ベーシストのステイシー・マクマイケルも素晴らしい。彼らと日本で共演するのは、俺にとって最大のチャレンジだよ。彼らに付いていくだけで大変なのに、自分なりのプレイをするんだからね。彼らと同じステージに立つことを考えただけで身震いするほどだ。

コルトレーンは自分の“乗り物”を作った

●ジャズを聴くようになったのはいつですか?

子供の頃、ロックよりずっと前だよ。父親と兄がドラマーだったんだ。父はジーン・クルーパやデイヴ・タフのような、スウィング・ジャズのドラマーを愛好していた。兄はジャズと同時にロックも聴いていたから、ディープ・パープルやトニー・ウィリアムス、ジェフ・ベックの新作が出るたびに、兄の部屋に入り浸ってレコードを聴いていたよ。彼らの影響は間違いなくあったけど、7歳年上の姉ローラの影響も大きかったんだ。

●お姉様もミュージシャンだったのですか?

Frank Catalano & Jimmy Chamberlin
Frank Catalano & Jimmy Chamberlin

いや、ミュージシャンではなかったけど、すごい音楽マニアだった。ジャズだけでなくジョニ・ミッチェルやトラフィック、デレク&ザ・ドミノズ、トム・ウェイツ、スティーリー・ダン…彼女はモーズ・アリスンやジョー・パスのファンだったし、よくライヴにも連れていってくれたよ。モーズ・アリスンやマッコイ・タイナー、バディ・リッチ…いつも彼女の車に乗せていってもらった。

●お姉様からアドバイスは受けましたか?

俺がドラマーになりたいと知ったとき、姉はいろんなレコードの名演を聴かせてくれた。具体的に「この曲のこの部分のジム・ゴードンが凄い」「ジム・キャパルディはここで曲のムードを一変させる」とか指摘してくれたよ。実際プロのドラマーになって考えてみても、彼女のアドバイスは的確なものが多かった。姉にはいくら感謝しても足りないよ。 彼女が聴いていたデューク・エリントンとジョニー・ホッジスを入り口にして、ジョン・コルトレーンに到達したんだ。

●コルトレーンの魅力は何でしょうか?

コルトレーンがやったことは、彼自身の“乗り物”を作ったことだった。彼の音楽はジャズだといわれているけど、特に後期の彼は、あらゆる音楽の枠から解き放たれていた。コルトレーン、そしてオーネット・コールマンやマッコイ・タイナー も、音楽そのものを前進させた革新的な存在だったんだ。

ドラマーの理想像とはテクニックではなく、個性とアイデンティティ

●フランクとの共演作『Love Supreme Collective』(2014)、『God’s Gonna Cut You Down』(2015)、『Bye Bye Blackbird』(2016)はコルトレーンからインスピレーションを受けた作品だそうですが、どのような形で触発されましたか?

『Love Supreme Collective』でやろうとしたのは、コルトレーンの『至上の愛』の音楽をそのままコピーせずに、その精神を受け継いだ演奏をすることだった。フランクや俺が『至上の愛』という乗り物に乗って、自由に旅立っていくという感じだな。それは「バイ・バイ・ブラックバード」についても言えることだ。この曲はフランクとのライヴでは初期からやっていたし、徐々に変化してきた。俺はデューク・エリントンやコール・ポーターのファンだったし、彼らのヴァージョンも聴いてきたんだ。もし自分がやったらどうなるか?というテーマがずっと頭の中にあった。

●『Bye Bye Blackbird』でデヴィッド・サンボーンと共演したのはどんな経験でしたか?

俺たちのパートをレコーディングした後に、デヴィッドがオーヴァダブする形を取ったんだ。彼のプレイしたトラックを聴いて、思わず驚きの声が出たね。本当に素晴らしいプレイだった。次回はぜひ、彼とライヴ・レコーディングをやって、その瞬間のスリルをアルバムに収めたいと考えている。

●3枚のアルバムは“三部作”で、『Bye Bye Blackbird』が最終章になるそうですが、あなたとフランクのコンビもこれで一段落となってしまうでしょうか?

『Bye Bye Blackbird』(輸入盤/発売中)
『Bye Bye Blackbird』(輸入盤/発売中)

ハハハ、そういうわけではないよ(笑)。フランクとはこれからも何回でも一緒にやるつもりだ。今までの3作にはひとつのムードと起承転結があったんだ。ひとつの流れが『Bye Bye Blackbird』で完結したと思う。まだ具体的なプランはないけど、次にフランクと作るアルバムは新しい章の幕開けになるよ。より冒険的で、オリジナル曲を増やして、新しい楽器のパートも増やしていくつもりだ。デイヴ・ホランドのような複雑で実験性が高い音楽をやりたいね。

●あなたとフランクは2人ともジャズとポップ/ロックの境界線を超えた活動をしてきましたが、そのせいでコミュニケーションを取りやすいということはあるでしょうか?

うーん、どうだろうな。ドラミングというのはジャンル以前のベーシックなものだ。その上にいろんな楽器が乗ることで、ロックだったりジャズになるんだ。もちろんエルヴィン・ジョーンズやロイ・ヘインズは偉大なジャズ・ドラマーで、俺は多大な影響を受けてきたけど、俺自身は“ジャズ・ドラマー”でも“ロック・ドラマー”でもなく、単なる“ドラマー”だと考えている。トニー・ウィリアムス・ライフタイムやブランドX、ウェザー・リポート、リターン・トゥ・フォーエヴァーなどはジャンルの枠を飛び越えたバンドだし、尊敬しているよ。

●『Love Supreme Collective』にはギタリストのクリス・ポーランドが参加していますが、彼はかつてメガデスでヘヴィ・メタルを弾いていましたね。

クリスは真に音楽を愛しているんだ。彼の目の前に音楽があれば、ロックだろうがメタルだろうが、ジャズだろうがフュージョンだろうが弾くだろうね。彼には速弾きのテクニックもあるけど、どんな音楽で弾いても、彼らしくある。その場でフレーズやメロディを即興で弾き出すセンスは、本当に素晴らしいよ。

●あなたにとって理想のドラマーとは?

俺にとってドラマーの理想像とはテクニックではなく、個性とアイデンティティなんだ。エルヴィン・ジョーンズはプレイするのではない。彼はそう“ある”んだ。ビリー・コブハムやトニー・ウィリアムスも最高だね。特にトニー・ウィリアムスがライフタイムやマイルス・デイヴィスとのセッションで聴かせたプレイからは感銘を受けたよ。アート・ブレイキーやマックス・ローチも凄い。セロニアス・モンクのレコードでのマックスのプレイは大ファンだよ。ジョジョ・メイヤーやサニー・グリアー…世界には素晴らしいドラマーがたくさんいる。たった一人“理想のドラマー”を挙げるなんて不可能だよ!

パンプキンズで未来へのプラットフォームを築いていく

●1988年にあなたが初めてザ・スマッシング・パンプキンズのショーを見たとき、あまりのヘタクソさに驚いたという話は本当ですか?

決してうまくはなかったけど、ヘタクソだとも思わなかったよ(苦笑)。ただ当時の俺みたいな若いドラマーにとって、安価なドラム・マシンを使ったバンドは魅力的に感じなかったんだ。ビリー(コーガン)の書く曲は優れていると思ったし、それにミュージシャンシップが加わることでよりエキサイティングなものになると感じた。それでバンドに加入することにしたんだ。

●あなたは何度もザ・スマッシング・パンプキンズを脱退しては再加入していますが、何がお互いを惹きつけるのでしょうか?

ビリーは俺のプレイが大好きだと言ってくれるし、俺もあのバンドが好きなんだ。それにビリーとは音楽のことで揉めたことが一度もないんだよ。俺が脱退したのはビジネスや自分の体調が理由だ。今回のツアーは今まででベストの仕上がりだと思う。俺もフランクとプレイしてきたおかげで、ブラシの使い方が上達して、それをパンプキンズでのステージで披露している。自分のドラミングを異なった視点から見直すことになった。

●今後もザ・スマッシング・パンプキンズとの活動は続けますか?

そのつもりだよ。パンプキンズはバンドとしてピークを迎えようとしているし、サウンドチェックで試してみた新曲も良い。それにこのバンドで音楽ビジネスの今後のあり方を模索してみることにも関心があるんだ。旧態依然とした、“9ヶ月かけて曲を書いて、6ヶ月でレコーディングして、全10曲のアルバムとして発売する”というビジネスモデルは、もう過去のものになっている。それよりアプリで1曲を発表して、その曲を中心にしたセットを組んで小規模なツアーをやっていく方が、時代に流れに合っているかも知れないし…そんな未来へのプラットフォームをパンプキンズで築いていくのは興味深い作業だ。

●2016年3月、ロサンゼルスでのライヴでかつてバンドのギタリストだったジェイムズ・イハが飛び入り、16年ぶりに共演しましたが、今後何かに発展する可能性はあるでしょうか?

まだ何も決まってないけど、久しぶりに一緒にやって楽しかったし、ぜひまたやってみたいね。ジェイムズがパンプキンズ・サウンドに貢献する要素は、スペシャルなものだ。彼は別のキャリアを経てきて、新しい変化を遂げてきた。再び彼がパンプキンズの音楽に加わったら、どんな音楽が生まれるか、興味があるよ。ジェイムズと再びコミュニケーションを取っていることは事実だよ。それがどうなるか言うのは、まだ時期尚早だけどね。

●ザ・スマッシング・パンプキンズ以外のバンドやプロジェクトでの活動予定はありますか?

うん、ジミー・チェンバレン・コンプレックスとしての新曲も発表する予定だ。ベン・ウェンデルがサックスをプレイしていて、ビデオも作るんだ。

●ビリー・コーガンは筋金入りのプロレス・ファンで、TNAプロレスのクリエイティヴ・アドバイザーに就任したり、来日時にも観戦したりしていますが、あなたはプロレスは好きですか?

全然(笑)。まったく興味がないんだ。それよりも体操競技の方が好きだな。10歳の息子が体操選手なんだよ。

FRANK CATALANO & JIMMY CHAMBERLIN QUINTET

フランク・カタラーノ & ジミー・チェンバレン・クインテット

日時:2016年5月10日(火)〜 5月13日(金)

[1st.show] open 5:00pm / start 6:30pm

[2nd.show] open 8:00pm / start 9:00pm

メンバー:Frank Catalano (sax), Jimmy Chamberlin (ds),

Theo Hill (p), Vic Juris (g), Stacy McMichael (b)

公演公式ウェブサイト:

http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/frank-catalano_jimmy-chamberlin/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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