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【インタビュー/前編】レナード衛藤、16年5月『ブレンドラムス・ツアー2016』とデーモン閣下を語る

山崎智之音楽ライター
Leonard Eto / photo by Takashi Okamoto

2016年5月、レナード衛藤が『ブレンドラムス・ツアー2016』を行う。

“Blend”+“Drums”=Blendrumsというコンセプトのこのツアーでは、太鼓とタップ、ダンス、ピアノ、重金属打楽器などが合体。その中から生まれる自由なヴァイブレーションを堪能できるステージとなる。

さらに5月20日(金)広島・27日(金)東京公演は『Blendrums with H. E. DEMON KAKKA(ブレンドラムス・ウィズ・デーモン閣下)』と題して、デーモン閣下(朗読・歌)とのコラボレーションが行われる。

レナード衛藤へのツアー直前インタビューを、前後編でお届けする。前編ではデーモン閣下との交流、そして公演のテーマとなる『Silently She Dances(静かなるダンス)』について語ってもらった。

デーモン閣下には生声の強さとシンがある

●デーモン閣下とは長い付き合いですね。

そう、19、20歳の頃、一緒にバンドをやっていたんです。僕の兄(スティーヴ・エトウ)が早稲田大学に行って、閣下も早稲田に通われていて、サンプラザ中野くんもいるバンドサークルがあったんです。で、兄が「ドラマーがいないんだよね」って言ってきて。僕は高校を卒業してバイトをしながらバンドをやっていて、そのサークルにも顔を出していたんです。普通にロックの、オリジナル曲のバンドを組んでやっていました。彼とは同い歳…じゃなくて、ちょうど10万歳違いです(笑)。

●ロックにはどのようにして目覚めたのですか?

友達はピンクレディーとか聴いていたんですけど、僕は兄の影響で中1の頃からキッスやサンタナが好きでした。 サンタナは兄の部屋からベースとコンガが聞こえてきて、この黒魔術みたいなのは何だ?と思っていました。そういう音色が好きだったんですよ。だからドラムスを始めたきっかけはサンタナのマイケル・シュリーヴだったんです。ウッドストック・フェスティバル(1969年)はリアルタイムじゃないんだけど、映画『ウッドストック』でサンタナのステージを見て、ドラマーが凄いと思いました。それがマイケル・シュリーヴだったんです。僕もああいうことをやりたい!…と思って、ドラムスを始めました。6連符という存在は、彼のドラムスを通じて知りました。それからずっと経って、1998年にイベントでマイケルと一緒にやったんです。そのとき彼は足が悪くて、バスドラム無しでタムみたいなのをズラッと並べていたのを覚えています。でも、こないだ見たら普通にキックをやっていたんで、もう大丈夫なのかな?久々にサンタナに復帰したそうですね。

●デーモン閣下とプロになって初めて共演したのは?

最初にやったのは彼が企画した『邦楽維新』というイベントだったかな(2001年)。そのときは彼の『老人と海』朗読とのコラボレーションでした。それが面白くて、何回かやった後、今度は僕のライヴにも呼んでパフォーマンスをしたりしました。僕は和太鼓の奏者だけど、“和太鼓でロックをやる”とかにはまったく興味がなかったんで、中近東だったかの民俗芸能的な要素を加えたオリジナル曲を書いたり、実験もしています。

●デーモン閣下はどのようなパフォーマーでしょうか?

彼はもう最高のフロントマンで、とにかく“強い”存在です。そうであるからフロントマンなのであり、デーモン閣下なんですけどね。閣下が秀でているのは、太鼓の張りや響きに負けない、生声の強さとシンがあるところです。太鼓が鳴っていても、彼の声は通っていくんです。だから安心してダイナミクスを付けて叩けるという信頼関係があります。ただ、彼は邦楽に対する探究心が凄いので、8年ぶりに共演するにあたって作品作りも慎重に進めてきました。ひとつひとつのパートをどういう意図でやるのか、朗読の場合はそのニュアンスとか間の取り方ととかね。

●今回の“ブレンドラムス・ウィズ・デーモン閣下『Silently She Dances』(静かなるダンス)”について教えて下さい。

Leonard Eto / photo by Takashi Okamoto
Leonard Eto / photo by Takashi Okamoto

これまでの共演は、既にある作品を再構成して上演するものでしたが、今回は私のアフリカ体験などを基にした高階經啓さんのオリジナル脚本です。1991年、初めてのアフリカ体験というのがすべての創作の根底にあります。アフリカの大地で太鼓と踊りが生み出すトランス状態で、煙が焚かれる中、何かが憑依するさまというのがとんでもない経験で、もはや神事といえる体験でした。当時の僕は鼓童というグループにいたわけですが、アフリカの祭りを経験したことで、太鼓とは魂の交歓だろう!と考えるようになって…その時点で鼓童でやるべきことはやったという感覚があったし、アフリカへの旅は独立のきっかけのひとつとなりました。

●ソロ転向後、どのように自分のスタイルを築いていったのですか?

それで自分の音楽を追求することになったわけですが、時代はジュリアナ東京でしょ(笑)。何をどうすればいいか、まったく判らなかった。でも判らないなりに一歩ずつ進んでいって、踊りとの共演もやりたかったからタップダンス、それからコンテンポラリー・ダンスともやってきました。それから、文化交流使としてヨーロッパに1年間行ってきたりもして判ったのは、踊りと太鼓という抽象的な表現は、リズムとか雰囲気さえ伝われば、海外で言葉が通じなくても反応できるんです。でも僕は、ストーリーを言葉でしっかりと組み立てることによって、モノを作っていく作業をやりたかった。それならば、オリジナルで脚本を作ろうということになりました。

●『Silently She Dances』のテーマとはどのようなものですか?

我々が今聴いている音楽のルーツを辿っていくと、アフリカに到達するんです。アフリカの人々が奴隷として世界各地に連れてこられて、それでも歌うことと踊ることを捨てずに、生きていく表現として、獲得していった自由。それがショービジネスに乗っかることでジャズ、ブルース、ファンク、ロック、そしてヒップホップへと変化していったわけです。僕たちは今、自由に音楽をやっているけど、もしかしたら地震や、政治的な理由によって、表現の自由が奪われてしまうかも知れない。かつてアフリカ人が経験したことを、我々も経験することになるかも知れないという危機感をストーリーに盛り込みたくて、舞台を近未来に設定してみました。

●ストーリー性があるのですか?

あまりネタバレはしたくないけど、ある女性ダンサーの物語なんです。そのストーリーを語っていくうちに、彼女の中に入っていく…という感じかな。しゃべっている人間がいつの間にかライヴのお客さんを引き込んでいくストーリーにしようと考えているんです。朗読をフィーチュアしているからといって、大人しいライヴではないことは言っておきたいですね。それが出来るのはデーモン閣下しかいないので、去年の暮れに閣下に声をかけたら、快諾してくれました。今回は第1弾として朗読をフィーチュアしていますが、すぐにダンスとのコラボがあり、将来的には演劇、オーケストラなどとコラボして、世界観を拡げたいと考えています。

フェラ・クティに「俺の神殿に来るか?」と言われた

●『Silently She Dances』に影響を与えたというアフリカ音楽の巨匠フェラ・クティとの出会いについて教えて下さい。

ナイジェリアでシャーマンの祭りを経験したときに、フェラ・クティの自宅に行ったんです。ラゴスにあるコンクリート打ちっ放しの家で、大家族で住んでいました。彼は親に虐待を受けた子供たちとかを保護しているんですよ。さらに奥さんが何人いるか判らないぐらいで、子供もドワーッといて、一緒に住んでるんです。で、しばらく待たされて、ふと扉が開くと裸の女性たちとパンツ一丁のフェラ・クティが出てきて、「お前ら何しに来た」って。「日本から太鼓を叩きに来ました」というと、「おお、よく来たな」と歓迎してくれて、「お前たち、太鼓を叩くんなら俺のシュライン(神殿)に来るか」と言ってきました。彼は自分のライブハウスのことをシュラインって呼ぶんです。で、車2台に乗って行くわけです。そうするとライブハウスの周りが暴動になっていて。

●…暴動ですか。

中に入りたい人が暴れてるんです。僕らはVIPだったんで裏の楽屋口から入れてもらって、既に息子のフェミ・クティとかの演奏が始まってるわけですよ。で、ステージ前にふたつオリがあって、その中で女性が踊っていて…

●ラスベガスのショーみたいな感じで?

Leonard Eto / photo by Asami Uchida
Leonard Eto / photo by Asami Uchida

もっとプリミティブな感じかな。それでメンバー達のソロを一通りやった後、いよいよフェラ・クティが登場するんですけど、オールエナメルのピンクのコスチュームで、凄いぶっといタバコを咥えていて…で、説教を始めるんですよ。なんだかゴスペル教会みたいな感じで。それでみんなイェー!とか言っていて、盛り上がっていくうちに、絶妙のタイミングで誰かのソロに入るわけです。それで熱くなって、ピークを迎えようとするときに、女性コーラスがダンスで入っていく。ソロを回しまくって、1曲が40分ぐらいでしたね。最後にようやくフェラ・クティが延々とやるみたいな感じでした。我々は午前1時ぐらいに帰ったんですけど、結局3時ぐらいまでやってたみたいですね。その体験があまりに強烈でした。

●『Silently She Dances』のスピリチュアルな要素についても教えて下さい。

結局のところ、僕がやろうとしているのは“魂”の踊りなんです。肉体は滅びても、その魂は、彼女の踊りを見た人々が受け取って、自分たちの人生に受け継いでいく。今年に入って多くのアーティストが亡くなったけれど、彼らの魂は残るじゃないですか。そういうことを僕は伝えたいんです。アフリカでシャーマンのドラマーから学んだ言葉が“パワー&ペイシェンス(忍耐)”でした。「俺たちが叩けば、女たちは興奮して踊る。だからって、おまえは一緒に興奮しちゃダメだ。(トランスした)女(の意識)が戻ってくるまで叩き続けないとならない。だから、ドラマーにはパワーと忍耐が必要なんだ」って。それをアフリカ大陸の月明かりで言われて、カッコいい!と思いました。要するに、男が先にイッちゃダメでしょ、ということなんですけどね。でもそれがアフリカでは、すごくスピリチュアルな話になるわけですよ。今回のライヴではデーモン閣下がどんな役になるのかお楽しみに!

インタビュー後編では、レナード衛藤がTAIKOを世界共通言語にしていく旅路について語ってもらおう。

レナード衛藤「ブレンドラムス・ツアー2016」

5/18(水)四日市 倶楽部ボルドー

開場18:30 開演19:30

レナード衛藤(太鼓)、浦上雄次(タップ)、洞至(タップ)、的場凛(太鼓)、三浦史帆(太鼓)

5/19(木)京都 磔磔

開場18:00 開演19:00

レナード衛藤(太鼓)、林正樹(ピアノ)、浦上雄次(タップ)、洞至(タップ)

5/23(月)香川 三豊市市民交流センター 愛媛にて「静かなるダンス」を踊る、前田新奈の特別出演決定

開場18:30 開演19:30

レナード衛藤(太鼓)、浦上雄次(タップ)、PORI(タップ)、前田新奈(ダンス)、的場凛(太鼓)

5/24(火)大阪・大丸心斎橋劇場〈大丸心斎橋北館14階〉

開場18:30 開演19:00

レナード衛藤(太鼓)、スティーヴエトウ(重金属打楽器)、林正樹(ピアノ)、浦上雄次(タップ)、PORI(タップ)

Blendrums Special(ブレンドラムス・スペシャル)

5/22(日) 愛媛 八幡浜市文化会館ゆめみかん大ホール

開場16:00 開演16:30

レナード衛藤(太鼓)、前田新奈(ダンス)、鬼武みゆき(ピアノ)、浦上雄次(タップ)、PORI(タップ)、上杉美穂(太鼓)、的場凛(太鼓)

Blendrums with H. E. DEMON KAKKA(ブレンドラムス・ウィズ・デーモン閣下)

『Silently She Dances(静かなるダンス)』

5/20(金)広島 クラブクアトロ

開場18:00 開演19:00

レナード衛藤(太鼓)、デーモン閣下(朗読・歌)、林正樹(ピアノ)、浦上雄次(タップ)、PORI(タップ)

5/27(金)渋谷duo Music Exchange

開場18:00 開演19:00

レナード衛藤(太鼓)、デーモン閣下(朗読、歌)、林正樹(ピアノ)、浦上雄次(タップ)

【レナード衛藤公式サイト】http://www.leoeto.com/

【ブレンドラムス・ウィズ・デーモン閣下『Silently She Dances』(静かなるダンス)特設サイト】http://www.mandicompany.co.jp/Blendrums.html

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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