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【インタビュー/後編】ジンジャー・ワイルドハート、多忙な日常を語る:レミー、コートニー、ホラー映画

山崎智之音楽ライター
Ginger Wildheart by Naoki Tamura

2016年4月に来日公演を行い、日本列島に春の嵐を呼んだジンジャー・ワイルドハート。インタビュー前編では鬱病との戦いについて語ってくれたが、彼は病気などどこ吹く風とばかり、ノンストップで突っ走ってきた。

オンライン・ファンクラブ『G.A.S.S.』で毎月3曲ずつ会員向けの新曲を提供してきたジンジャーは、それから選りすぐったアルバム『イヤー・オブ・ザ・ファンクラブ』を発表。さらに自分が発表してきた 全曲を解説した本『Songs & Words』、そして2015年4月、ロンドンでのヒストリー・アコースティック・ライヴを納めた同題DVDをリリース、ヘイ!ヘロー!の新シンガーのオーディションも行い、ジャパン・ツアーも行うなど、彼の辞書には“休息”という単語は載っていないようだ。

インタビュー後編では、そんな多忙なジンジャーの日常について語ってもらった。

レミーの葬儀ではジャック・ダニエルズがずらりと並べてあった

●今年1月9日、ロサンゼルスで行われたモーターヘッドのレミーの葬式に参列したんですよね。

うん、生前のレミーとは住んでいる所が離れていたけど、会えば「よお、元気?」って話してたしね。ガキの頃からモーターヘッドのライヴを見てきたし、ロック・バンドとはこうあるべし、という手本だったんだ。『Mutation / The Frankenstein Effect』(2012)のジャケットはモーターヘッドと同じアーティスト(ジョー・ペタグノ)を起用したんだ。一種のトリビュートだね。レミーにはもの凄い数の友達がいたし、葬儀の招待状を作っていたらキリがなかっただろう。みんな、呼ばれなくても自主的に参列したんじゃないかな。俺もそうだった。葬式を仕切っていたのがウェンディ・ディオで、事前に「参列していいですか?」と連絡した。「レミーの人生の一部だった人に参加してもらうのは大歓迎よ」と言ってくれて、それで参列させてもらったんだ。

●葬儀の舞台裏はどんな感じでしたか?

テレビやウェブキャストで映されたのは、一部に過ぎなかったんだ。ミュージシャン、ジャーナリスト、業界人…あらゆる人々がいた。レミーがそう望んだように、湿っぽくなることなく、盛大なパーティーになったんだ。懐かしい顔がたくさんいたし、初対面の人もいた。クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュ・ホーミとも初めて会ったよ。彼の嫁さんのブロディ・ドールとは知り合いだったけど、ジョシュとは面識がなかったんだ。レミーの希望で、でかいテーブルにジャック・ダニエルズのショットがずらりと並べてあった。参列者は葬式が始まる前に1杯飲み干すのが条件だったんだ。ジャック・ダニエルズ以外、飲み物は用意していなかった。酒を飲まない人には、飲み物がなかったんだ。とてもオープンで、みんなひとつの想いを胸に抱いていたよ。

Ginger Wildheart  by Naoki Tamura
Ginger Wildheart by Naoki Tamura

コートニー・ラヴは大好きになるか大嫌いになるか、どっちかしかない

●多くの人々がレミーを愛し尊敬していたのに対し、コートニー・ラヴに対しては批判的な人が少なくないようです。あなたは彼女と仲良くやっている希有な人物の一人ですが、 コートニーはどんな人なのでしょうか?

コートニーのバンドに加入したとき(2013年)、ホールの曲を聴いたことがなかったんだ。回りのみんなは「『ミス・ワールド』ぐらい知ってるだろ?」とか言っていたけど、本当に知らなかった。今から思えば「セレブリティ・スキン」「マリブ」は聴いたことがあったけど、ホールの曲とは認識していなかった。だからコートニーに対する変な先入観がなかったんだ。実際のところ、彼女はとてもいい人だった。すごく親切で、俺の友達にギター・テクの仕事を回してくれたりしたよ。あと銀行に行ったらついでに俺に「はい、どうぞ」って突然500ドルをくれたりね。「何で?もらう理由がないよ!」と断ったけど、「いいの。何かに遣ってよ」と言っていた。コートニーはマーマイト(イギリスでパンに塗る酵母ペースト)みたいなものなんだ。大好きになるか大嫌いになるか、どっちかしかないんだ。彼女はみんなに好かれるタイプの人間じゃないし、そうしようとも思っていない。周囲がどう思おうが、知ったこっちゃないんだ。そんなところに魅力を感じるよ。

●カート・コベインに関する2本のドキュメンタリー『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』『ソークト・イン・ブリーチ』が2015年に公開されましたが、あなたは見ましたか?どう思いましたか?

カートの死にコートニーが関わっているというやつね(後者)。ああ、見たよ。アメリカという国はどこか狂っているんだ。ドナルド・トランプが危険なほどの支持を得て、風邪薬を買うよりも簡単に銃を買うことが出来る。夫を失った女性に嫌疑をかけるなんて、とてつもなく残酷な行為だということに気がついていないんだ。冷静に考えてみよう。どうしてコートニーが危険を冒してまでカートを殺す必要があったんだ?金が欲しいんだったら、いつまでも生かして働かせ続ければいいだろ?

日本のホラー映画を見て、こんなものを作る国民は頭がいかれていると思った

●2015年にやったオンライン・ファンクラブ『G.A.S.S.』はもう終わりですか?

俺は何事にも「これで終わり」とは言わないようにしているんだ。今は動いていないけど、いずれまた何かやる可能性はあるよ。『G.A.S.S.』をやったことで、自分の熱心なファンが何人ぐらいいるのかを把握できたし、ミュージシャンとファンが直接繋がるという点で、興味深い実験だったと思う。 いずれ第2期をやっても面白いかもね。これから自主レーベル『ラウンド・レコーズ』を通じていろんなタイトルを発表していくことが出来るし、ファンと密接な関係を築いていけると思う。レコード会社や流通業者が間に入らないからコストを低く出来るし、俺みたいにたくさん曲を書くミュージシャンにとってはそれがベストだよ。『G.A.S.S.』会員に提供された曲から選りすぐった『イヤー・オブ・ザ・ファンクラブ』に続いてもう1枚、ファンの選曲によるアルバムを出すかも知れないし、ある程度オープンにしておくよ。

●『G.A.S.S.』で発表した36曲すべてをCD化してくれればいいのに!

いや、そうしたら『G.A.S.S.』に参加する意味がなくなってしまうだろ?全曲を聴くことが出来るのは、会員だけのスペシャルな特典にしたいんだ。

●『ラウンド・レコーズ』ウェブサイトではDVDが“PAL仕様”と記載されています。それだと日本のテレビで見ることが出来ないので、日本のファンのためにぜひNTSC仕様も発売して下さい!

ん?おかしいな、日本でも見れるように指示していたんだけど…それは確認して、対応するようにするよ。…俺は昔、海賊ビデオ業界でやっていたから、リージョン(地域)とかには詳しいんだ(笑)。

●どんな海賊ビデオを扱っていたのですか?

スプラッター・ホラー映画をダビングして売っていた。イギリスでは規制が厳しくて、ビデオソフトでも内臓シーンがカットになっていたりしたんだ。ダリオ・アルジェントやルチオ・フルチから食人・ゾンビ・シリアルキラーもの…当時まだ日本に行ったことがなかったから、日本のホラー映画を見て、こんなものを作る国民は頭がいかれているに違いないと思っていた。『女虐 NAKED BLOOD』とか『ギニーピッグ』シリーズとかね。需要があっても、イギリスでは入手不能どころか、所持すること自体が犯罪だったんだ。現代ではyoutubeで見ることが出来る映画のビデオを持っていただけで刑務所にぶち込まれた時代だよ。“ビデオ・ナスティ”と呼ばれて、ビデオ化禁止だったり、ビデオ化されてもズタズタにカットされていたんだ。

●「スプラッターマニア」は当時の思い出を歌ったものですか?

いや、あの曲を書いた当時はまだ海賊ビデオ屋をやっていたよ!あの頃は失業保険をもらっていたし、ワイルドハーツの先行きも見えなかった。就職なんかしたくなかったから、海賊ビデオで生計を立てていたんだ。ドラッグの売人になるよりはマシだろ?

●「イフ・ユー・ファインド・ユアセルフ・イン・ロンドン・タウン」と「グリーティング・フロム・シッツヴィル」は、それと同じ時期のことを歌っていますか?

どちらも21歳でロンドンに引っ越したときのことを歌っているから、似たような時期かな。ただ、視点はかなり異なっているね。「イフ・ユー・ファインド・ユアセルフ・イン・ロンドン・タウン」はニューカッスルからロンドンに引っ越してきた若き日の俺に、今の俺から手紙を書くという内容なんだ。気を付けろ、コカインを持った友達は本当の友達じゃない。1回目はタダにしてくれるけど、2回目からは高くつくってね。あと金をくすねに来る奴もいるから気をつけろと忠告しているんだ。「グリーティング・フロム・シッツヴィル」はロンドンで最初に住んだアパートについての歌だ。汚いアパートで、ゴキブリが這い出してきて、歌詞が自然に湧き出たんだ。

Ginger Wildheart  by Naoki Tamura
Ginger Wildheart by Naoki Tamura

『Songs & Words』は最高の本にしなければならなかった

●あなたが発表してきた楽曲の全曲解説本『Songs & Words』から、ワイルドハーツの『エンドレス・ネームレス』(1997)の箇所が先行公開されましたが、素晴らしく充実した内容ですね。全編を読むのが楽しみです!

『Songs & Words』は俺の音楽を通じて、俺の人生を語っているんだ。ステージに立って自分の曲を聴いてもらうのはある意味、自分の人生を切り売りしているということだ。ライヴに来て下さい、Tシャツを買って下さい、でも私生活のことは一切話しませんというのは、ムシが良い話じゃないかな。

●いやまあ、自分の歌詞をストーリーテリングの場としているアーティストもいますけどね。

それをうまくやっているミュージシャンもいるだろうけど、大多数のミュージシャンは自分のことを歌っていて、退屈で、語るべきことがない連中なんだ。LAのミュージシャンなんか特にそうで、奴らの自伝は全部同じだ。「有名になった。コカインをキメた。キャリアを台無しにした。シラフになった」って、本当にくだらないよ。俺には語りたいこと、語るべきことがあるし、それなりの人生経験を経てきた。『Songs & Words』とまったく内容が重ならない本をもう1冊書けるぐらいだ。

●『Songs & Words』は当初2015年内に刊行される予定だったのが遅れたのは何故ですか?

『Songs & Words』本/DVD/ノコギリ形レコード
『Songs & Words』本/DVD/ノコギリ形レコード

俺にとって初めての本は、最高のものにしなければならなかった。 完成が遅れたのはファンに申し訳なかったけど、 みんなを失望させるような内容にはしたくなかったんだ。40ポンドも払ってクソみたいな代物が送られてきたら、もう二度とそのアーティストの商品を買おうとは思わないだろ?当初は文章を書いて、それを刊行すればいいんだと思っていた。とんでもない間違いだった。本というのは編集、デザイン、校正を経なければならず、編集者やデザイナーがダメだとクビにして、別の編集者やデザイナーを探さなければならない。Yourとyou’reの区別もつかないアホ編集者がいたりして、呆れかえったよ。俺の原稿はすべて完成しているし、あとは印刷して発送するだけだから、あまりみんなを待たせずに済む筈だよ(2016年4月末に発送された。名著!)。『Songs & Words』の日本語版もぜひ出したいね。

俺の本名をジンジャー・ワイルドハートにした

●ヘイ!ヘロー!の方はどうなっていますか?

新しいシンガーの候補を絞っているところだよ。シンガーのオーディションというものをやるのは1990年以来なんだ。あのときは惨憺たる結果だった。それで仕方なく俺が歌うことになったんだ。一瞬だけスネイクって奴がいたけど、うまく行かなかったんだよ(バンド脱退後、スネイクは2006年に亡くなった)。最近ではシンガーの平均的な質がすごく上がったと思う。TVオーディション番組『ザ・ヴォイス』は最悪な番組だとみんな言うけど、シンガーの質を上げたという点では評価されるべきだよ。問題なのは、俺がイメージしているシンガー像と、他のメンバーのイメージが異なることだ。だから10人の候補を絞って、最終オーディションをしようと考えている。ヘイ!ヘロー!版『ザ・ヴォイス』みたいな感じかな。それをビデオ撮影して、ドキュメンタリーとして発表したら面白いかもね。Ai、Toshi、レヴはみんなこのバンドに情熱を注いでいるし、俺が日本に来ているときもリハーサルを続けてくれている。シンガーが見つかり次第、ヘイ!ヘロー!での活動も再開するよ。

●ワイルドハーツとしての活動予定はありますか?新作の可能性は?

ワイルドハーツの過去のアルバムの“●●周年アニヴァーサリー・ショー”はやっていて楽しいし、ファンも喜んでくれるけど、ワイルドハーツとしての新作を作る予定はないんだ。正直なところ、俺以外のメンバーはあまり勤勉ではないんだよ。「アメリカでツアーをやろうぜ」と言っても「えー、あまり興味ないな…」という感じで、彼らの尻を叩いてまでやりたくもないんだ。金のためにワイルドハーツとしてツアーをやるよりも、一緒にやって楽しい仲間たちとツアーしたりアルバムを作りたいというのが本音だ。でもファンのみんながアニヴァーサリー・ショーを見たいと言ってくれるなら、他の連中のケツを蹴り上げて、日本につれてくるよ。

●ファンの視点からすると、あなたこそがワイルドハーツだということは否定できないのだから、どんなラインアップであっても“ワイルドハーツ”と名乗ってしまえば良いのでは?

まあそうなんだけど、最近ではそうする必然性がないんだ。現在進行形の俺の音楽をやるときはジンジャー・ワイルドハート名義で、過去の名盤再現をするのがワイルドハーツと、棲み分けが出来ている気がする。それに俺は本名をジンジャー・ワイルドハートに改名したんだ。今ではパスポートにもジンジャー・ワイルドハートと記載されている。だから“ワイルドハート”という新バンドを結成するかもね。俺の一番上の子供も名字をワイルドハートに改名すると言っているし、将来的にはワイルドハート一族が拡がっていくことになるよ。そうしたらワイルドハーツというファミリー・バンドを結成するかも知れない(笑)。

Ginger Wildheart: Year Of The Fanclub
Ginger Wildheart: Year Of The Fanclub

ジンジャー・ワイルドハート

『イヤー・オブ・ザ・ファンクラブ』

Vinyl Junkie Recordings

VJR-3189

発売中

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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