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【インタビュー】ヘヴィ・ロック最新進化形。スーマック SUMACのニック・ヤキシンが語る

山崎智之音楽ライター
Nick Yacyshyn of SUMAC

2015年9月22日:恵比寿リキッドルーム、23日:代官山UNITで行われた『Leave Them All Behind』は、ヘヴィ・ロックの現在進行形をBoris、MONO、envy(初日)、ENDON、BLACK GANION、COHOL、DISGUNDER(2日目)という最強のライヴ・アクトで綴るイベントだった。

そんな布陣と共に両日出演、鮮烈なインパクトを残したのがスーマック(SUMAC)だった。

2010年のアイシス解散以来、アーロン・ターナーが本格的にヘヴィ・ロックに復帰したこのバンドのステージはヘヴィ・ロック新世紀の到来を感じさせた。

アーロン(ギター、ヴォーカル/アイシス、マミファー)、ブライアン・クック(ベース/ロシアン・サークルズ、ボッチ、ジーズ・アームズ・アー・スネイクス)、ニック・ヤキシン(ドラムス/バプティスツ、イロージョン)という高度な殺傷力を誇るラインアップも、“スーパーグループ”の座に安住することなく、全編攻めまくる。特にニック・ヤキシンのドラムスは、まさしく新世代のドラム・ヒーローの誕生を告げるものだった。

デビュー・アルバム『ザ・ディール』の全編張り詰めたテンション、そして2日間のライヴの燃焼度ゆえに、このバンドは短命に終わるのではないか…と心配してしまったが、なんと前作から1年4ヶ月というハイペースで、早くもセカンド・アルバム『ホワット・ワン・ビカムズ』が2016年6月にリリースされた。ヘヴィネス・緊張感・破壊力などあらゆる面で現代ヘヴィ・ロックの頂点に位置する本作は、年間ベスト・アルバムの最右翼だ。

これが日本のメディア向けの初インタビューとなるニック・ヤキシンが自らのキャリアと、スーマックで切り開いていく未来を語った。

SUMAC
SUMAC

ヘヴィな要素とアンビエンスが高め合う“あっち側”の音楽

●『Leave Them All Behind』でのライヴについて、どんなことを覚えていますか?

俺は初めて日本でプレイしたけど、最高の経験だったよ。出演バンドやスタッフ、お客さんはみんな俺たちを暖かく受け入れてくれた。あのイベントは自分たち以外は日本のバンドだったけど、それがまったく気にならないぐらい、俺たちを仲間として受け入れてくれたよ。単にいろんなバンドが出演するフェスという感じではなく、ひとつの流れがあったのも良かったし、2日間それぞれ、別の会場でイベントが行われたのも面白かった。アーロンがアイシスやマミファーで日本でも人気があることも理由だろうけど、ファンからの反響も凄いものがあった。あの後、ENDONとはヴァンクーヴァーでも一緒にライヴをやったし、友達になった。彼らは言語の壁を感じさせないライヴ・バンドだし、きっとアメリカでも成功するだろうね。まだ日本のロックについてはあまり知らないけど、これから掘り下げていきたい。フラワー・トラベリン・バンドはまだやっているのかな?彼らはクールだね。

●フラワー・トラベリン・バンドはシンガーのジョー山中さんが亡くなってしまい、活動再開は難しいと思います…。

それは残念だ。彼らは俺が住むカナダでもレジェンドだよ。

●今回は日本のメディア向けの初のインタビューということで、スーマックの始まりについて教えて下さい。

俺が元々やっていたバンド、バプティスツのファースト・アルバムをカート・バルーがプロデュースしたんだ。それでアーロンが新バンドのドラマーを探していたとき、俺のことを推薦してくれた。アーロンは幾つかリフのアイディアを送ってくれて、俺が住んでいるヴァンクーヴァーまで来て、ジャムをやったんだ。それでバンドが始動することになった。お互いのスケジュールがあったから次のセッションは少し後になったけど、徐々にバンドの音楽性が組み上がっていって、ファースト・アルバム『ザ・ディール』を作ったんだ。アーロンと俺のパートをレコーディングした後にブライアン・クックが加入して、ベースのトラックを録音したんだよ。

●アーロンにとっては本格的なヘヴィ・ロックへの回帰となりますが、その路線はバンド結成当初から決まっていたのですか?

アーロンの頭の中には、ある程度具体的な設計図があったと思う。彼が最初に送ってくれたトラックはヘヴィなリフ中心だったからね。それに俺に声をかけたのも、ヘヴィな音楽をやるためだったと思う。マミファーみたいなバンドだったら、俺はうるさ過ぎるだろ?俺自身は、事前にどんな音楽性になるかは、まったく考えていなかった。ただ、リミットのない音楽になることは予感していた。俺たちの過去のバンドを踏まえながら、自由な音楽を探究するプロセスだったんだ。だから慣例に囚われない、“あっち側”の音楽になるとは予感していた。ヘヴィな要素とアンビエンスがお互いを高め合う、そんな音楽性を創り出すことが出来たよ。

SUMAC by Faith Coloccia
SUMAC by Faith Coloccia

リスナーの足下が崩れるような経験をさせたかった

●日本でのライヴがあまりにギリギリの一線を超えそうだったので、バンドが短命に終わるのではないかと危惧していましたが、ツアーをしながら、わずか1年4ヶ月でニュー・アルバム『ホワット・ワン・ビカムズ』を発表することになったのは驚きました。

それはアーロンの才能だよ。彼は曲の最初のアイディアを書いて、リフのトラック、それか「こんな感じにしたい」というメモも添えてネット経由で送ってくる。3人とも別々の都市に住んでいるから、それが一番効率的なんだ。それで日程を決めて集まって、本格的にレコーディングする。大半の曲は曲が出来上がってすぐレコーディングするんだ。せいぜい5テイク目で完成させてしまうよ。新鮮なアプローチでレコーディング出来たね。

●前作『ザ・ディール』と新作では、レコーディングはどのように異なりましたか?

SUMAC『The Deal』 現在発売中
SUMAC『The Deal』 現在発売中

ブライアン・クックは前作では、俺とアーロンのパートを録り終えた後で参加したんだ。でもその後、3人でツアーして、本格的にバンドとしての一体感が生まれた。今回は最初からラインアップが固まっているし、真の意味でのスーマックのファースト・アルバムといえるだろうね。まだアルバムが完成して間がないけど、次のアルバムを作るのが待ち遠しいよ。

●ソングライティングは基本的にアーロンが行ったのですか?

うん、彼が最初のアイディアを出して、それをジャムで完成させるスタイルだった。今回は前作以上に、自分のテキスチャーを加える余地があったと思う。スーマックでのアーロンのリフはパーカッシヴでヘヴィだから、俺は純粋にリズムをキープするだけでなく、自分のフレーズを入れたり出来るんだ。1曲目「イメージ・オブ・コントロール」イントロはフリーフォームだった。4テイクを録って、ベストなものを使ったんだ。それとエンディングではリズムをキープしながら、曲を崩壊させるようなプレイをしている。アルバムの最初から、リスナーの足下が崩れるような経験をさせたかったんだ。

●ウェブで先行公開された「リジッド・マン」について教えて下さい。

「リジッド・マン」は最初に書いた曲だ。去年の夏、ヴァンクーヴァーのレヴィテイション・フェスティバルにマミファーが出演したとき、アーロンが俺の家に寄って、リハーサル・スペースでアイディアを聴かせてくれたんだ。最高にヘヴィで、このアルバムが凄いものになると確信したよ。まず前半と後半が出来上がって、中間部はそれから仕上げていったんだ。アルバムを代表する曲だし、いち早く多くの人に聴いて欲しかったんで先行公開したんだよ。

●「クラッチ・オブ・オブリヴィオン」はアンビエンスとヘヴィネスの起伏が凄まじい緊張感を生み出しますね。

うん、俺は冒頭の催眠的なギター・パートが気に入っているんだ。ヘヴィなパートのドラムスは、ハイ・オン・ファイアーの「ファータイル・グリーン」でのデズ・ケンゼルのドラムスを意識したものだよ。この曲のギターが単音で伸びていく部分のドラムスは大きな挑戦だった。やっていて楽しかったけどね。

●多くのバンドだったら17分半の「ブラックアウト」を完成させるだけでも1年かかると思いますが、まとめるのに苦労したのではないですか?

「ブラックアウト」の場合、幾つものパートをまとめたのではなく、書き始めた当初はもっと短い、10分ぐらいの曲になるはずだったんだ。でもアーロンが終盤のパートを気に入って、みんなでジャムをやっていくうちに長くなっていった。これまでやったことのない深みに足を踏み入れていった曲で、すごく気に入っているよ。これはアルバム全般についていえることだけど、とにかく時間がなくて、ほぼ一発録りだったんだ。最小限のパンチ・インをした程度だよ。長い曲をツギハギして完成させるつもりは最初からなかった。それが功を奏して、全編に緊張感があるのだと信じているよ。

●アルバムの最後を飾る「ウィル・トゥ・リーチ」について教えて下さい。

「ウィル・トゥ・リーチ」は終盤の静かなドローン・ギターの箇所が最高なんだ。全編起伏に富んでいるけどドライヴ感があって、とても気に入っているよ。ライヴの最初か最後にプレイしたいタイプの曲だな。

●『ホワット・ワン・ビカムズ』というアルバム・タイトルにはどんな意味が込められているのですか?

アーロンのアイディアだし、彼の方がうまく説明できると思うけど、さまざまな状況によって人間が変わってしまうという意味なんだ。何かをきっかけにして、人間は変わってしまうことがある。恐ろしいまでにね。

●アルバムのプロデュースはカート・バルーが担当しています。彼はアイシスやバプティスツなども手がけるなど、あなた達と長い付き合いですが、どのようなプロデューサーでしょうか?

カートはバンドの音楽の方向性を変えてしまうことなく、音楽が進んでいくべき道を交通整理してくれるんだ。“プロデューサー”というと偉そうに聞こえるけど、まったくそんなことはない。チルしていながら、最上の結果を得ることが出来るんだ。カートは本当にいい耳をしているよ。

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とにかくハードにぶっ叩く。それだけだ

●今回が日本初インタビューということで、あなた自身のことを教えて下さい。いつ、どこで生まれて、どのようにドラムスを始めたのですか?

1986年4月10日、カナダのブリティッシュ・コロンビア州サリー生まれだ。10歳の頃、父親の聴いているレコードでロックにはまったんだ。AC/DCの『ハイ・ヴォルテージ』、『地獄のハイウェイ』、『パワーエイジ』、『征服者』、ヴァン・ヘイレンの『炎の導火線』、ブラック・サバス『パラノイド』、ガンズ&ローゼズ『アペタイト・フォー・ディストラクション』、それからレッド・ツェッペリンやディープ・パープル…シンプルなドライヴ感のあるバンドが多かった。それらのアルバムは今でも毎日のように聴いているよ。その後にはメタリカも好きになって、ドラムスに興味を持ったんだ。俺は最初からドラマーになるつもりだったけど、父親もすごく熱心で、応援してくれた。俺を楽器店に連れていって、ドラム・キットで叩くのを見て、本気だと確信したと言ってくれたよ。それから教則ビデおを買ってもらって、3年ぐらいレッスンを受けた。ラッキーだったのは、ハイスクールの音楽プログラムが充実していて、良い教師が揃っていたことだ。ジャズやクラシック、音楽理論も学ぶことが出来たし、現在の自分のスタイルを形作るのに役立っているよ。

●最も影響を受けたドラマーを挙げると誰になるでしょうか?

AC/DCのフィル・ラッド、それからコンヴァージのベン・コラーだな。彼らのプレイが“クールなドラミング”の基準として俺の中に擦り込まれていることは確かだ。ただ彼らの影響をそのままコピーするのではなく、自分のスタイルに取り入れようとしているよ。スーマックやバプティスツを聴いてAC/DCをイメージすることはないだろ?

●バプティスツではEP『Baptists』(2010)とアルバム『Bushcraft』(2013)『Bloodmines』(2014)を発表していますが、今後の活動予定はありますか?

今、バプティスツとしての新しいアルバム用の曲を書いているんだ。2016年内にレコーディングしたいと考えているけど、ギタリストのダニー(マーシャル)が遠くに住んでいるし、ベーシストのショーン(ハウリラック)も引っ越してしまったから、なかなか集まれないんだ。でも9月にメキシコ・シティでバプティスツとして単発のライヴをやるし、その前にリハーサルをやるから、アルバムについても話し合ってみるつもりだ。それ以外にも今年の夏、俺がギターを弾いているイロージョンとしてのニュー・アルバムをレコーディングするつもりだ。レーベルとかがないし、いつ発売するかは判らないけど、自分の創造性を吐き出す場として重要なバンドのひとつだよ。

●スーマックとバプティスツでは、ドラム・プレイは変えていますか?

スーマックとバプティスツでのドラム・プレイで異なるのは、速度ぐらいだよ(笑)。とにかくハードにぶっ叩くという点では変わらない。バプティスツでは特急列車のように、曲のゴールに向かってまっすぐ突っ走るんだ。それに対してスーマックでは自分で道筋を作っていく。列車のようなレールはない。それが大きな違いだな。どちらのバンドでもドラム・キットはシンプルだけど、スーマックではツーバス、バプティスツではワンバスというのが違いだ。あと『ホワット・ワン・ビカムズ』ではクラッシュ・シンバルを幾つか追加したり、少しずつ異なっているんだ。

●デイヴ・グロールに“フェイヴァリット・ドラマー”と絶賛されたことで、どんな変化がありましたか?

デイヴのようなトップ・ミュージシャンにそう言ってもらえるのは光栄だし、それで俺の音楽に興味を持ってくれたリスナーも大勢いると思う。それでライヴ会場に足を運んでくれたリスナーもいるんじゃないかな。でもメジャー・レコード会社が契約をオファーしてきたり、大物バンドが加入を要請してきたりはないし、やっていることはこれまでと同じだよ。

●再来日ライヴを楽しみにしています!

うん、スーマックとして『ホワット・ワン・ビカムズ』発売に前後してアメリカ西海岸で短期ツアーをやってから、7月デンマークのロスキレ・フェスティバルに出るんだ。それからヨーロッパとイギリスを回って、8月にアメリカ東海岸とカナダ東部をツアーすることが決まっている。その後にまた日本に行けたら最高だね。

SUMAC:  What One Becomes
SUMAC: What One Becomes

スーマック

『ホワット・ワン・ビカムズ』

デイメア・レコーディングス

DYMC-265

発売中

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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