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【ライヴ・レポート】Borisがロックの聖地フィルモアを陥落させた夜

山崎智之音楽ライター
Wata / photo by Miki Matsushima

2016年8月25日、Borisがサンフランシスコのフィルモアで公演を行った。

2006年のアルバム『PINK』10周年を記念する、1ヶ月以上におよぶ北米ツアー。フィルモアでのショーは、その終盤戦を彩るハイライトのひとつだった。

フィルモアはロックの歴史において重要な役割を果たしてきた伝説のコンサート会場だ。1960年代後半にこの会場でプレイしたアーティストはジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス、グレイトフル・デッド、ジェファーソン・エアプレーン、フランク・ザッパ、サンタナなど、まさにロックの神々。1968年7月に規模拡大のため移転、フィルモア・ウェストと改名したが、1971年にいったん閉店。そして1994年に元々の場所に戻って再オープンしたのが現在のフィルモアだ。

Borisはそんな神話の舞台に、轟音の塊を携えて踏み込んでいく。重低音リフが鳴り響く「ブラックアウト」からスタートし、「PINK」で一気にハード・ドライヴィン全開だ。

Boris『PINK』
Boris『PINK』

メタルから重低音ドローン、『ジュエリーマキ』TVCMソングまで振り幅の広い音楽性のBorisだが、ヘヴィなロックに焦点を絞った『PINK』のサウンドはこの日集まった約千人の観衆を直撃。サンフランシスコ名物(?)のバイカー野郎からヒップスターな大学生まで幅広い層の観客は拳を突き上げ、首を振り、「スクリーンの女」では早くもサークルピットが出現した。

バンドのライヴ・パフォーマンスは日本と大きな変化はなく、Wata(ギター)と Takeshi(ギター/ベース/ヴォーカル)は演奏に専念、Atsuo(ドラムス)がプレイしながら観客を煽るというスタイルだ。もちろんTakeshiの日本語ヴォーカルはそのままだし、曲間のMC「ありがとう!」にはまったく“よそいき感”がなかった。

Atsuo / photo by Miki Matsushima
Atsuo / photo by Miki Matsushima

あえて違いを挙げれば、ツアー終盤で身体が温まっていたこと、ステージが大きなこと、また観衆のアメリカンな反応にヒートアップしたせいもあってか、ギターをギューン!とやる時などのステージ・アクションが普段より派手だったことだろうか。そんな躍動感とダイナミズムを伴うことで、Borisの“ロック・バンド”らしさがさらに強調される。

バンドが最上級のヘヴィ・ロックをぶちかまし、観衆が熱狂する。そんな普遍的な図式には“日本のバンドが!”“聖地フィルモアで!”などという気負いは必要なく、もはや当たり前のようですらあった。

●2016年9月、東名阪で『PINK』ツアーを敢行

ただ、そんな“当たり前”な状況は、誰にでも作ることが出来るものではない。それは彼らの音楽の魅力と、それを世界に知らしめる精力的なツアー活動の産物だ。

Takeshi / photo by Miki Matsushima
Takeshi / photo by Miki Matsushima

これまで何度もアメリカやヨーロッパでツアーを行ってきたBorisだが、今回は約5週間で30公演というもの。だだっ広いアメリカを回りながら毎晩ライヴを行い、終演後すぐに次の公演地に向かう苛酷なスケジュールは歴代のツアーでも最もハードなもののひとつで、Takeshiが体調を崩して5公演が中止となっている。

だが 映画『未知との遭遇』で有名な世界有数のパワースポットであるワイオミング州の“デビルズ・タワー”に立ち寄り、スピリチュアルなパワーをもらったりもしながら、彼らはフィルモアのステージに立ったのだった。

アンコールでは今回のツアーのサポート・バンドであるアースと合体、「オウロボロス・イズ・ブロークン」で締めくくる。フィルモアの天井からシャンデリアが吊り下がっていることから、ザ・バンドの解散ライヴを収めた映画『ラスト・ワルツ』の最後を思い出したりもしたが、Borisとアースの共演は「アイ・シャル・ビー・リリースド」の数倍ヘヴィだ。

(ちなみに『ラスト・ワルツ』の舞台となったウィンターランド・ボールルーム跡地は、フィルモアから道路を隔てたすぐ近くにある)

Boris / photo by Miki Matsushima
Boris / photo by Miki Matsushima

“当たり前”の最高のライヴを披露したBorisだが、実はAtsuoはロックの聖地であるフィルモアでプレイすることに並々ならぬ気合いを込めていたという。ライヴ終演後、彼は「フィルモアのステージからダイヴしたのはたぶん日本人初だよね!」と笑う。ライヴ最後に彼が敢行した、かなりの幅のあるフォト・ピットを飛び越えてのステージ・ダイヴは、日本を代表するサムライである源義経の八艘飛びを彷彿とさせるものだった。

Borisは2016年9月、"BORIS Performing "PINK" Japan Tour 2016"と題されたライヴを東名阪で行う。アメリカ・ツアーを経てさらに強靱になった彼らが、日本のステージに帰ってくるのだ。

また、Borisを10年にわたって撮影してきたフォトグラファー松島幹による今回の北米ツアーの写真を展示する個展『Miki Matsushima Solo Exhibition-heavyblind-』も開催される。

(本記事のライヴ写真もすべて松島氏によるもの)

画像

"BORIS Performing "PINK" Japan Tour 2016"

with special guest: DISGUNDER

●2016.09.17(SAT) 名古屋 Ikeshita Club Upset

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OPEN 18:30 / START 19:00

●2016.09.18(SUN) 大阪 Higashishinsaibashi Conpass

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OPEN 18:30 / START 19:00

●2016.09.24(SAT) 東京 Shindaita Fever

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OPEN 18:00 / START 19:00

BORIS HEAVY ROCKS!!!

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アルバム『PINK-Deluxe Edition-』2CD

Daymare Recordings DYMC-270 現在発売中

Daymare Recordings

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Miki Matsushima Solo Exhibition-heavyblind-

2016年9月24日 (土)- 10月10日 (月, 祝日), 12-8pm 土日祝日のみオープン

入場者全員にBoris未発表曲CDを無料配布。

会場では展示のツアー写真のほか、展示写真を収録したzineの販売も行われます。

オープニングレセプション 9/25(日) 4pm~7pm

HHH gallery〒124-0001 東京都葛飾区小菅2-21-17

Miki Matsushima

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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