池上彰氏コラム掲載拒否 30人超の朝日記者がツイッターで異議

池上彰氏のコラム掲載拒否に異議を唱えた朝日新聞記者のツイッター投稿

事実だとすれば極めて残念であり、憤りを感じる」「読者や池上さんに本当に申し訳ない」「今からでも遅くないので、池上さんの原稿を掲載してほしい」ージャーナリストの池上彰氏が朝日新聞の慰安婦報道検証記事の問題点を指摘したコラムが一時掲載を拒否された問題で、朝日新聞が3日夕に翌日朝刊の掲載を発表するまでに、少なくとも32人の朝日新聞記者がツイッターで自社の対応に異議や疑問の声をあげていたことが、日本報道検証機構の調査でわかった。ツイッター上だけでなく、社内の議論で多くの記者がコラムの掲載を求めたと複数の記者が指摘。こうした現場記者からの反発や掲載を求める声に上層部がおされ、当初の判断を覆した可能性が高い。

一旦掲載が見送られたコラムとともに掲載されたコメント(朝日新聞9月4日付朝刊19面)
一旦掲載が見送られたコラムとともに掲載されたコメント(朝日新聞9月4日付朝刊19面)

問題となったのは、池上氏が朝日新聞のオピニオン面に毎月1回、連載しているコラム「新聞ななめ読み」の8月分。9月2日午後8時前に週刊文春がウェブサイトで、池上氏がコラム原稿の掲載を拒否され、連載中止を申し入れたことを特報。その後、産経新聞電子版などで「掲載を拒否され、信頼関係が崩れた」との池上氏のコメントが報じられると、この方針に反発した朝日新聞記者がツイッターで憤りや失望のコメントを次々と投稿。3日午後6時すぎ、一人の記者がコラムが当初の原稿どおり掲載されることになったとツイッターで速報し、同紙のホームページなどでも発表された。

当機構は、ツイッターで実名登録している朝日新聞記者165人の投稿を調査。文春の特報が出た2日夜以降、方針転換が明らかになった3日夕までの間に、掲載見送りの判断に異議や失望など否定的なコメントを投稿した記者は32人いた。同僚や社外の批判的な投稿を転送した記者を含めると、もっと多い。逆に、掲載拒否の方針に賛同した記者は見当たらなかった。

投稿は「はらわたが煮えくり返る」「怒りと情けなさでいっぱい」「すごく悔しく、悲しく、憤りを感じます」と心情を吐露したものや、「もし本当なら言論機関の自殺行為」「度量の広さを示すチャンスをみすみす逃したばかりか、発信力のある書き手を『敵』に回してしまった」などと自社の方針を痛烈に批判するものが多数みられた。「池上さんはじめ、読者や様々な方に、所属記者として心底申し訳ない思いです」などとおわびをする投稿も複数あった。

朝日新聞のツイッター公式アカウントの投稿(9月3日午後7時48分)
朝日新聞のツイッター公式アカウントの投稿(9月3日午後7時48分)

今からでも遅くない」と方針転換を求める意見も相次いだ。3日午後8時前に朝日新聞のツイッター公式アカウントが翌日朝刊掲載を伝えると、尾形聡彦国際報道部デスクがツイッターで「今日、社内で多くの議論があり、私を含め大勢の記者たちが『即日掲載すべきだ』と意見しました。そうした議論を踏まえ、掲載が決まりました」と経緯を説明。すると「心底ほっとした」と歓迎する声も出たが、「この騒ぎは何だったんだと怒りがこみあげてくる」と腑に落ちない気持ちをつぶやく記者もいた。翌日、池上氏のコラムを読んだ記者からは「これが一旦は『掲載できない』と判断した理由が僕にはわかりません」「見識ある批判に対して、謙虚に耳を傾けたいと思います」といった感想も漏れた。池上氏はコラムで、慰安婦検証記事について訂正が遅きに失したことや謝罪の言葉がなかったことなどを指摘、「検証記事として不十分」との見解を示していた。同社が当初お蔵入りを図ったコラムは、4日に朝日新聞電子版で読まれた記事1位となった。

朝日新聞9月6日付朝刊38面
朝日新聞9月6日付朝刊38面

社内外に丁寧な説明が求められる」「誰がこのような判断をしたのか、ぜひ明らかにしてもらいたい」との声も多い。朝日新聞は4日付朝刊で「今回のコラムで当初、朝日新聞社として掲載を見合わせましたが、その後の社内の検討や池上さんとのやり取りの結果、掲載することが適切だと判断しました」と述べ、池上氏と読者に謝罪。池上氏の「朝日新聞が判断の誤りを認め、改めて掲載したいとの申し入れがありました」とのコメントも掲載した。6日付朝刊でも、市川速水東京本社報道局長名で「間違った判断」だったと改めて謝罪し、池上氏とのやり取りの経緯をより詳しく説明したが、誰が判断したのかや責任の所在は明らかにされなかった。池上氏と話し合いを続け、対応と結果を改めて知らせるとしている。

今回の事態を受け、記者ツイッターを制限する圧力が高まらないか懸念する声もある。当機構は5日、朝日新聞社に対し、多くの記者がツイッターで異議を唱えた事実をどう受け止めるか、今回投稿した記者への不利益な処遇や投稿ルールの見直しなどを検討する可能性はあるか質問。同社広報部から「弊社は『つぶやく記者』に登録した記者がツイッターで個人の見解を述べることを認めています」、不利益な処遇やルールの見直しなどについては「社内にそのような議論はありません」とファックスで回答があった。

元共同通信論説副委員長で、朝日新聞社「報道と人権委員会」委員を今年3月まで務めていた藤田博司さんは、当機構に対し、次のようなコメントを寄せた。

池上氏の論評はごく常識的なもので、当初、朝日新聞の担当者がなぜこれを掲載しなかったのか理解に苦しむ。社内の現場記者の間から、掲載拒否の措置に強い反発や不満の声が上がったことは十分理解できる。現場からの反発を受けて社が一転、謝罪して掲載に踏み切ったのは、当然とは言え適切だった。

報道現場から掲載拒否にすぐさま批判のツイッターが大量に書き込まれたことは、朝日の記者の間に表現の自由、報道の自由に関して健全な常識が残っていることを示したもので、喜ばしい。とくに彼らが実名で自分の意見を表明したことに強い感銘を受けた。こうした、自由に意見表明の出来る空気が職場にあることは大事なことだ。慰安婦報道や吉田調書報道をめぐって社が苦境に立たされているときだけに、こうした報道現場の存在は朝日にとっても救いだと言える。

(*1) 藤田博司さんのコメントを追記しました。(2014/9/6 01:15)

(*2) 朝日新聞9月6日付朝刊のおわびと経緯説明について追記しました。(2014/9/6 11:20)

【関連】「誤報の危機管理」に失敗した朝日新聞 挽回へのビジョンを示せるか(2014/8/24掲載)

▼池上彰氏のコラム掲載見送りに異議を唱えた朝日新聞記者のツイッター投稿(順不同)

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