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【安保報道】NHKも憲法学者アンケート 結果発表は5問中1問だけ

楊井人文弁護士
NHKクローズアップ現代(7月23日放送)でアンケート結果を報じた一画面

【GoHooトピックス8月7日】安全保障関連法案をめぐり、NHKが6月ごろに憲法学者らに大規模なアンケートを実施し、7月半ばに放送された「クローズアップ現代」で回答者422人中377人が法案は違憲もしくは違憲の疑いがあると答えたことを報じた。しかし、放送で取り上げたのはこの1度だけで、「自衛隊の存在は合憲か違憲か」など選択型の設問5つのうち4つについては全く報じていなかった。同様のアンケートを実施したテレビ朝日、東京新聞、朝日新聞は、いずれもウェブサイト上で実施方法や全設問の結果を公表済みだが、NHKは放送で取り上げた1問しか載せておらず、報道姿勢の違いが浮き彫りになっている。日本報道検証機構はNHKに今後の公開予定を尋ねたが、明確な回答はなかった。

NHKがアンケートの結果を報じたのは7月23日放送のクローズアップ現代「検証“安保法案” いま何を問うべきか」。それによると、NHKは日本で最も多くの憲法学者が参加する「日本公法学会」の会員や元会員で大学などに所属する憲法や行政法などの研究者1146人に独自にアンケートを送付し、422人から回答を得た。アンケートの実施時期は明らかにしていないが、6月ごろに実施されたとみられる。26分の放送中、アンケートに言及した部分は2分余りで「法案は合憲か違憲か」の回答者数と憲法学者6人(違憲と合憲3人ずつ)の記述回答の一部だけ紹介された。行政法などの研究者は取り上げられていなかった。

NHKクローズアップ現代の番組ページ(7月23日放送分の全文)
NHKクローズアップ現代の番組ページ(7月23日放送分の全文)

放送中、いくつもの設問が並んだアンケート用紙を並べた場面が一瞬映ったが、文字は読み取れず、ナレーションでも説明はなかった。当機構が同学会の研究者から入手したアンケート用紙には、報じられた「法案が合憲か違憲か」のほか、「自衛隊の存在は合憲か違憲か」「集団的自衛権の行使は認めるべきか、行使するには憲法改正が必要か」「最高裁の『砂川事件』判決についての政府の解釈は正しいか」「『「砂川事件』判決にいう『固有の自衛権』は集団的自衛権を含むかどうか」についての選択型設問と記述欄があった(質問全文は後掲)。

当機構はNHKに対し、クローズアップ現代以外のニュースなどで報じたことはあるか、今後すべて設問の結果を公開する予定はあるか、一部しか公表しないのはなぜかなどを2度質問。NHKは「ご質問のアンケートにつきましては、結果がまとまったところで、7月23日のクローズアップ現代で放送しました。内容は、クローズアップ現代のホームページでもご覧いただけます」と回答し、他の質問には答えなかった。当機構の調査では、NHKニュースなど他の番組でアンケートを取り上げた放送は確認できず、クローズアップ現代の番組サイトには放送内容全文が掲載されているが、設問の詳細や「法案が合憲か違憲か」以外の結果は一切明らかにしていない。一部で同様の質問をしていた朝日新聞の調査では、回答者の6割超が自衛隊は違憲もしくは違憲の可能性があると答え、砂川判決が集団的自衛権行使を認めているとの回答はゼロだった。

テレビ朝日「報道ステーション」サイトで公開されている憲法学者アンケート最終結果
テレビ朝日「報道ステーション」サイトで公開されている憲法学者アンケート最終結果

テレビ朝日は6月6日~12日に198人の憲法学者を対象に実施し、15日の「報道ステーション」で結果を発表。放送中に紹介したのは5つの設問中「今回の安保法制は違憲か」の1つだけで、155人の回答者中「合憲」が3人だけだったことを強調していたが、詳細は番組サイトで公開すると予告。「安全確保義務や駆けつけ警護など国際平和活動についても違憲か」など他の4問の結果と実名80人分の記述回答全文を掲載した

東京新聞は6月19日に328人の憲法学者にアンケートを送付し、204人が回答。7月9日付朝刊で実施方法とともに選択型設問2つの結果を発表、12日付朝刊の特集で実名120人分の記述回答の要約を載せた。

朝日新聞は6月下旬、209人の憲法学者を対象に質問し、122人が回答。7月11日付朝刊で選択型設問5つのうち「自衛隊の存在は違憲か」など2問について紙面で全く触れなかったが(当日デジタル版には短く記載)、紙面での予告どおりデジタル版に実名78人の記述回答全文は公開した。その後、当機構が紙面版で設問の一部が省略されていた点を指摘したところ、22日になって選択型設問5つを含む詳細版が公開された関連=【安保報道】朝日新聞 憲法学者アンケートの結果の一部を紙面に載せず)。

自衛隊と安全保障関連 NHKアンケート

Q1 自衛隊の存在について「合憲」か「違憲」か、どのように考えますか。

1、合憲だと思う

2、違憲だと思う

3、わからない、その他(具体的に

Q2 集団的自衛権の行使について、どのように考えますか。

1、行使を認めるべきで、今の憲法の下でも行使は可能だ

2、行使を認めるべきだが、憲法改正が必要だ

3、行使を認めるべきではないが、憲法改正を経て認められるならばやむを得ない

4、行使を認めるべきではないし、憲法改正はするべきでない

5、わからない、その他

Q3 国会で審議が行われている集団的自衛権の行使を含む安全保障関連法案について、「合憲」か「違憲」か、どのように考えますか。

1、合憲だと思う

2、違憲だと思う

3、違憲の疑いがあると思う

4、わからない、その他

Q3SQ その理由を教えてください。

Q4 昭和34年に最高裁で出された「砂川事件」の判決について、政府は「集団的自衛権を排除したものではない」という認識を示しています。この解釈についてどう考えますか。

1、正しい解釈だと思う

2、誤った解釈だと思う

3、わからない、その他

Q5 「砂川事件」の判決で最高裁が「固有の自衛権は否定されない」としているのは、次のどの範囲だと思いますか。

1、個別的自衛権に限定した内容

2、集団的自衛権を含む内容

3、わからない、その他

Q6 安全保障関連法案の内容や国会の審議、現実の政治と憲法学の関係、また研究者として今後どのような取り組みが求められるかなどについて、ご意見があればご自由にお書きください。Q3の理由欄の補足などがある場合も、こちらにお書きください。

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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